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第76話

「嬉しかっただと?!お前はそんなそぶりは見せなかったじゃないか!」


アロイスが叫ぶ。エディタはセシルに対して産まれた来たこと自体を好ましく思っていないかのような態度を取ったこともあった。アロイスが憤るのも当たり前だ。エディタは両手で顔を覆うと泣きだした。そして、自らの最大の罪を語り始めた。


「怖かったの!」


ある日、何気なくエディタが部屋に入るとアロイスがソファに座り、両脇に子供たちを座らせ本を読んでいた。傍から見ればそれは微笑ましい光景だっただろう。だが、エディタはその光景に戦慄した。


アロイスとセシルはどこからどう見ても親子だが、アロイスとディレクは赤の他人に見えた。何も知らぬ者が見たら親子とその子の友人がそこに座っているように見えるだろう。


アロイスとディレクは厳密に言えば他人だ。共に居る時に違和感が生じるのは仕方が無いのかもしれない。だが、その違和感はアロイスとディレクが二人きりの時はさほど気にならない。確かにディレクはあの男そっくりだが、エディタにも少しは似ている。息子は母親似なのだと大抵の人は違和感の原因を結論付けて自分なりに納得するものだ。


そこにセシルと言う比較対象が加わった時、その違和感は鮮明に浮かび上がる。それを見せつけられたような気分だった。


途端にエディタの胸に恐怖が駆け巡る。このままではいつかアロイスはディレクの出生の秘密に気付いてしまうかもしれない。そのことが怖くてたまらなくなった。


恐怖に駆られたエディタは必要以上にディレクを構うようになった。四六時中べったりと貼りつき、アロイスやセシルを寄せ付けないように囲い込んだ。アロイスの両脇に子供たちが並ぶ姿を見たくなかったのだ。


セシルが寂しがって手を伸ばしてきても、ディレクの側を離れることを極端に恐れるあまり、その手を取ることが出来なくなった。


そんなことを続ける内、ディレクがセシルを邪険に扱うようになった。セシルが母を求めて来るとディレクは邪魔をするなと怒鳴る。そのうち何処で覚えて来たのかそこに『愚図』だの『地味』だのという明らかな侮蔑の言葉が加えられるようになった。最初はエディタもディレクを咎めていたが、ディレクに泣かれると出生の経緯を負い目に思っていたエディタは何も言えなくなった。そしてついに、ディレクに同調を始める。


ディレクがアロイスとセシルに暴言を吐くとそれに同調し、自らも暴言を吐く。ディレクが何か言えば『流石だ』と褒め称える。それがエディタの全てとなった。


自分がディレクを守らなければ秘密が露呈してしまう。エディタはその想いに突き動かされていた。


ディレクを溺愛したのは秘密を守るためであり、セシルを傷つけたのもまた秘密を守るためであった。


エディタは秘密を守るために子供たちを利用したのだ。


「ごめんなさい!セシル!ごめんなさい!」


エディタはそう叫ぶと床に座り込んで泣きだした。ずっと謝りたいと思っていた。それが叶わぬままセシルは後宮に召し上げられてしまった。


セシルに後宮入りの話が来た時、エディタはその話を半ば強引に進めた。これでセシルを自分から解放してやれるそう思ったからだ。いや、違う。エディタがセシルから解放されたかったのだ。産まれた時にあれほど嬉しかった娘を傷つける日々から解放されたかったのだ。


そのことにエディタは今気付いた。気付いた途端、どこまで自分は自分のことしか考えていないのかと自分自身が可笑しくて堪らなくなった。


「ふふふ・・・あははははは」


泣きながら高笑いを始めたエディタを男たちは茫然と見つめていた。





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