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第49話

「陛下、そろそろ会場の方へ」


執務室で執務に励んでいたエドアルドはエルンストの呼び掛けに軽く頷くと椅子から立った。


「セシル様は既にお待ちです」


執務室を出ようとしていたエドアルドはエルンストの言葉に思わず歩を止めた。


「・・・早いな」


驚いたような表情でそう言うエドアルドにエルンストは少しだけ笑って見せた。


「落ち着かれなかったようですよ」


エルンストがそう答えるとエドアルドは苦笑いを浮かべた。


「そうか・・・そうだろうな」


様々なことが起き、密度の濃い日々を過ごしたせいで忘れがちだが、セシルとエドアルドは共に過ごすようになってから数日しか経ってはいないのだ。数日前のセシルは自分がエドアルドに愛され、王妃に望まれる日が来るなど夢にも思っていなかったはずだ。


ここ数日でセシルを取り巻く環境は急速に変わった。戸惑わない方がおかしいだろう。


エドアルドはセシルと出会ってからすぐにあの桃色のドレスを仕立てさせた。純粋にセシルに何かを贈りたかったのはもちろんだが、着飾った姿を見てみたいと思った。だが、ドレスが仕立て上がるころになってセシルが華やかな席を苦手にしていると知った。後宮の女官長にそれとなく側室たちの様子を聞いた時、女官長はセシルのことをこう言ったのだ。


「先日入らした御方はどうも華やかな席が苦手なようです」


その言葉を聞いたエドアルドはセシルにドレスを贈ることを躊躇した。ドレスを贈られれば夜会に出席しなければならないとセシルなら考えるだろうと思ったからだ。


苦手な席に無理やり引っ張りだすのは本意ではない。エドアルドはセシルが自らの意思で夜会に出席するのを待つ決意をした。


・・・まさか一年もかかるとは正直思っていなかったのだが・・・。


本当はもう少しゆっくりと時間を掛けて事を運ぶつもりだったが、エドアルド自身が多忙を極め、セシルの元へあの一夜以降、行くことが出来なかった。募る想いとは裏腹にセシルの方からも夜会への出席を申し出ることも無く、エドアルドは悶々としてこの一年を過ごしていたのだ。それ故に、待ち焦がれた存在を手に入れた喜びがどうしてもエドアルドを急かしてしまう。立て続けに起きた事件もそれに拍車をかけた。


ただの寵室では無く、王妃候補というより安定した立ち位置にセシルを置いてやりたいとの想いを抑えることが出来なかった。


「・・・一年も待ったというのに、いざ手に入れたら入れたで情けないもんだな」


エドアルドは小さな声で呟いた。


「え?何かおっしゃいましたか?」


それが微かに耳に届いたエルンストが問いかける。エドアルドはそれに対して苦笑いを浮かべて小さく首を横に振った。


「何でも無い。急ごう、姫君がお待ちかねだ」


エドアルドはそう言ってエルンストを伴って執務室を後にした。


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