第46話
「どう?素敵でしょ?」
クラリッサの元から届いたドレスを披露しながらセシルは皆に問いかけた。
「えぇ。とっても素敵なドレスですわ」
ニコラはそう答える。イーナとモニカも頷いている。
「この白いドレスを着ようと思ってるんだけど、どうかしら?」
セシルは数着あるドレスの中からクラリッサが勧めてくれたドレスを体に当てて見せながら皆を見つめる。
「よろしいんじゃございませんか?セシル様にとてもよくお似合いです」
イーナがうっとりしながらそう答えた。漆黒の黒髪を持つセシルに白いドレスは良く似合う。
「やっぱりこれがいいわよね?実は王太后様もこのドレスを勧めてらっしゃったの」
セシルは嬉しそうに微笑みながらそう言った。その様子にニコラは目を細める。そしてセシルが自分以外に母のような存在を得たことを素直に嬉しいと思った。
父親とニコラ以外から愛された記憶がないであろうセシル。それが今、エドアルドに愛され、王太后に愛され、従者達にも愛されている。
苦労は報われるものなのね・・・
ニコラはそう思ってセシルのこれからの人生は今までの分も幸せな物になると確信していた。
「ではセシル様。そろそろ準備を始めましょうか?」
ニコラがそう問いかけるとセシルは笑顔で頷いた。
「綺麗・・・」
白いドレスに身を包んだセシルの姿を見てモニカが思わず呟いた。その声が耳に届いたセシルは照れてほんのり頬を赤く染めた。
「本当に良くお似合いでございます」
イーナもそう言ってセシルを眩しそうな瞳で見つめた。
「有難う、二人とも」
セシルは礼を言いながら姿見に映った自分の姿をまじまじと見つめた。ほんの少しだが、以前より自分に自信が持てるようになったからだろうか。先日、エドアルドに贈られた桃色のドレスに初めて袖を通した時のように似合っていないような、服に着られているというような感じは抱かなかった。ピンと背筋を伸ばし、凛とした表情を見せるセシルの変化にニコラは笑みを浮かべた。
「さて、少し早いですが参りましょうか?打ち合わせもありでしょうし」
ニコラはそう言いながらセシルを扉まで誘った。今回も付きそうのはニコラの役目だ。
「えぇ。それじゃ行ってくるわね。イーナ、モニカ」
セシルはニコラに続いて扉に向かいながら二人に声を掛けた。二人はそれを一礼して見送った。
「セシル様、もう参られるのですか?」
扉の前で警護していたアルトゥルが声を掛けた。
「えぇ、少し早いのだけど」
セシルがそう答えるとアルトゥルは詰め所に向かって声を掛けた。
「コンラート、エアハルト。セシル様がお出かけになる」
その声に二人が詰め所から出てくる。それを見たセシルは徐に声を掛けた。
「コンラート、エアハルト、アルトゥル」
突然名を呼ばれて三人は神妙な顔つきでセシルを見つめた。
「・・・大変なことも多いかもしれないけどこれからもよろしくね」
セシルはそう言うと三人に向かって頭を下げた。その様子に三人は顔を見合わせ力強く頷きあった。
「もちろんです。我々は天地神明に誓って、セシル様を御守りして参ります」
コンラートが代表してそう答え、頭を下げた。他の二人もそれに続いた。
「・・・有難う」
そう言ったセシルの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「それでは参りましょうか?どなたか護衛に付いてくださるのですか?」
ニコラがそう問いかけるとコンラートとアルトゥルが一歩前に出た。
「護衛は我々が付きます。エアハルト、部屋の警護を頼む」
コンラートにそう言われてエアハルトは小さく頷き、扉の前に立った。
「それじゃ、行ってくるわね」
セシルはエアハルトに声を掛け、廊下を歩きだした。
「いってらっしゃいませ」
去りゆく背中にそう声を掛けながらエアハルトは今夜の舞踏会が何事も無く終わることを祈った。