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第41話

「どうだった?」


奥の部屋から戻ってきたセシルとクラリッサにエドアルドが声を掛ける。


「ぴったりだったのよ!あれなら手直しなんかいらないわ。すぐに着られるわよ。安心しちゃった」


にっこりと微笑みながらクラリッサが答える。それを聞いてエドアルドは小さく頷いた。


「セシル、ドレスは舞踏会に間に合うように届けさせるから安心してね」


「はい、有難うございます。お母様」


セシルがそう礼を言うとクラリッサはぎゅっとセシルを抱きしめた。


「うふふふ。やっぱり娘っていいわねぇ」


ご満悦のクラリッサに正式にセシルを娶った後、クラリッサがセシルを一人占めしてしまうのではないかとエドアルドは一抹の不安を覚えた。だが、それもいいかも知れないとすぐに思い直した。


共に出来る公務もあれば、それぞれが単独で行わなくてはならない公務もある。王妃であるセシルより国王であるエドアルドのほうが単独公務は多い。


忙しさで寂しい想いをさせる可能性は十分にあった。それをクラリッサが癒してくれるのなら有難いとエドアルドは思ったのだ。


「・・・そうだ。ねぇ、陛下」


クラリッサが何かを思い出したようにセシルから体を離しながらエドアルドに呼びかける。


「何ですか?」


「セシルの王妃教育がそのうち始まるでしょ?」


「えぇ、正式に王妃候補として国内外に発表した後になるでしょうけど」


「私を教育係の一人に加えてもらえないかしら?」


「え?母上をですか?」


クラリッサの提案にエドアルドは驚いた。王太后が教育係の一人になることは前例がなかったからだ。そんなエドアルドにクラリッサは穏やかだが決意の見える口調で語りかける。


「私は王妃だったのよ?王妃のことは経験者の私が一番よく知っているの。適任でしょ?」


クラリッサは産まれた時から王妃に内定し、王妃になるべく育てられた。そんな自分でも苦労したのだ。いきなり王妃候補となったセシルが苦労しない訳がないと考えていた。


セシルには強力な後ろ盾がないこともわかっている。だったら自分が後ろ盾になればいいとクラリッサは考えた。自分が後ろ盾になることで国として得るものは何もないが、セシルを守る盾としては十分だ。


愛する息子がやっと見つけた大切な人だ。クラリッサはセシルを守り、支えたかった。


「・・・分かりました。その時が来たらよろしくお願いします」


エドアルドはクラリッサの提案を呑んだ。クラリッサの真意を見抜いたわけではなかったが、エドアルドもクラリッサと似たような考えを抱いた。


王太后が自ら教育を申し出るほどセシルを気に入っているという事実は未だ完全にはセシルを王妃にすることを納得していない臣下達を黙らせる材料になる。


今、セシルの味方は自分とエルンストとテオバルト。そして、セシルの側にいる騎士たちと侍女たちしかいない。厳しいようだが現実はそうだ。


セシルの人柄に触れれば、味方は増えて行くだろうが、それには長い時間がかかるだろう。


王太后が後ろ盾になってくれれば、その長い時間もセシルにとってそう辛い物ではなくなるはずだ。エドアルドはそう考えて、クラリッサの提案を呑んだのだ。


「任せなさい。セシル、お母様は勉強となると厳しいわよ?覚悟なさいね?」


クラリッサがわざと厳しい顔をしてそう言うとセシルは思わず笑みをこぼした。


「ふふふ。はい、お母様。よろしくお願いします」


セシルはそう返事をして頭を下げた。そんなセシルをクラリッサはニコニコと見つめている。


「母上、そろそろ俺たちは戻ります」


エドアルドはそういうとクラリッサは残念そうな顔をした。


「あら?そう・・・」


あからさまに落ち込むクラリッサにエドアルドは苦笑いを浮かべた。


「また、連れてきますから」


エドアルドがそう言うとクラリッサに笑みが戻った。


「えぇ、待ってるわ」


コロコロと変わるクラリッサの表情にエドアルドは本当にこの母はいつまでも乙女の様だと思った。


「お母様、今日は本当に有難うございました。ドレス、大切に致します」


セシルがそう言ってもう一度、頭を下げるとクラリッサは益々笑顔になった。


「いいのよ。サイズもぴったりだったことだし、ドレスは私には必要無いものだから」


クラリッサは完全に表舞台から身を引いていた。この先、行われるであろうセシルとエドアルドの結婚式とセシルの戴冠式には出席するつもりだが、それ以外の公の場に足を運ぶつもりはもう無かった。


「それじゃ。母上、また来ます」


「お母様、またお会い出来る日を楽しみにしております」


「えぇ、私も楽しみにしているわ」


エドアルドとセシルはクラリッサの住まいを後にした。去りゆく二人の背中を見つめながらクラリッサは愛する我が子達の幸せを願わずにはいられなかった。



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