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第4話

コンコン


部屋に響くノックの音に女官長は宰相の使いが来たのだと思った。セシル他数名の夜会出席許可が出たのだろう。そう思いながら扉を開けた彼女の目の前に思いがけない光景が広がっていた。


扉の向こうに居た人物は一人ではなかった。いつもは使いが一人でやってくるだけなのに、今回は使いは数人でやってきた。その何人かは大小さまざまな箱を手にしている。


「・・・何事です?」


「ご側室様方の夜会への出席許可を知らせに参りました。それから・・・」


先頭に立ってたいた使者が言いながら後ろを振り返る。


「こちらの品々はエドアルド国王陛下からセシル様への贈り物でございます。」


その言葉を受けて女官長は内心大変驚いた。


陛下からセシル様へ贈り物?一体なぜ?


だが、流石は女官長。それを一切表情には出さずに歩きだした。


「そうですか。では、ご案内致します」


使者たちをセシルの部屋へ案内しながら女官長は密かに溜息をついた。



きっと、セシル様はお困りになるのでしょうね・・・。



他の側室ならエドアルドから贈り物を贈られれば大喜びしそうなものだが、セシルの場合は大いに困惑しそうだ。



欲など無いお方ですし、それに贈られる心当たりもないでしょうしね・・・。



女官長は重くなりがちな自分の足を心の内で叱責しながらセシルの部屋を目指した。



コンコン


ノックの音にニコラは扉の前に勢いよく駆け寄った。待ち焦がれた返事が漸く来たのだ。ニコラは気を落ち着かせ、扉を開いた。


「いらっしゃいませ、女官長様。・・・後ろの方々は?」


てっきり女官長一人が居るものと思っていたニコラはその後ろにいる騎士と数名の従者に驚いた。一体何事だろうか?


「こちらは陛下からの使者の方々です」


紹介されると同時に使者たちは「失礼します」と言いながら次々と荷物を運び入れた。


「・・・これは?」


目の前に詰まれた幾つもの箱に戸惑いながらセシルが使者に問いかける。


「陛下から、セシル様に贈り物でございます。今宵の夜会はこちらを身につけて参加せよとの陛下のお言 葉でございます」


使者はそれだけ告げると一礼して部屋を出ていってしまった。


後には困惑顔のセシルと訝しげな顔のニコラ、そして無表情の女官長が残された。そして、三人の目の前に贈り物だという箱の山・・・。


「・・・何かの間違えではなくて?私には陛下から贈り物を戴く理由がないわ・・・」


初めに口を開いたのはセシルだ。女官長の予想通り、随分と困惑しているようだ。


「使者は『セシル様へ』とはっきり申しましたので、間違えではないと思いますが・・・」


女官長が応えるがセシルは納得がいかない様子だった。


「陛下が名前を間違えたのではなくて?私と似たような名前の別の方に贈るつもりでらっしゃったのかも しれないわ」


セシルはそう考えて、無理やり自分を納得させようとしたのだが、

そんな思いは女官長の言葉によって挫かれる。


「畏れながら、後宮には『セシル』という名前のご側室はセシル様以外いらっしゃいません。似たような お名前の方もいらっしゃいませんが?」


その言葉にセシルは顔を顰めた。


「・・・でも、陛下に贈り物を賜るなんて、全く心当たりがないわ」


自分のことなど、忘れているのだろうと思ったばかりだったのだ。いきなり贈り物など贈られてセシルは本気で訳が分からなかった。


「とにかく。これはセシル様への贈り物で間違いはないはずです。 陛下のお言葉もございましたので、 其れを身につけて今宵の夜会にご参加くださいませ」


困惑しきりのセシルのことを女官長は不憫に思っては居たのだが、はっきりとそう告げた。女官長にもエドアルドの真意が分からないのだ。そう告げるしかなかった。


「畏まりました。女官長様」


「ニコラ?!」


何も言えずに居たセシルの変わりにニコラが返事をした。セシルは思わず、その肩を掴んだ。


「セシル様。セシル様にお心当たりが御有りにならなくても、陛下にはセシル様に贈り物をする理由が御 有りになるのかもしれません」


ニコラはセシルの手を自分の肩からゆっくりと外させると諭すような口調で言った。


「それに、戴いた物を身につけずに夜会に出るのは不敬と見なされます」


ニコラの言葉にセシルはハッと息を呑んだ。


不敬にあたる・・・。


確かにそうだろうとセシルは思った。


「・・・分かったわ」


セシル自身の口から受け入れる意思の言葉が出たことで、女官長はその場を去ることにした。


「それでは、私も戻ることに致します。」



女官長が部屋から出て行った後、セシルはやはり、考え込んでいた。


何がどうなってるの?


答える者など居ない問いが頭の中を回っている。


「セシル様。とりあえず、この箱を開けてみましょうか?」


ニコラは大き目の箱に手を掛けながら問いかける。


「・・・そうね」


セシルは箱に中身に興味が全然なかったが、開けないことには始まらない。箱の開封に取り掛かったニコラを横目に見ながら、今朝、奮い立てた小さな勇気が急速に凋んでしまいそうで、セシルは軽く首を振った。



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