第32話
「おはよう」
朝、目が覚めたセシルの視界に飛びん込んで来たのは優しい顔で笑うエドアルドだった。
「・・・おはようございます」
セシルは起きたばかりですっきりしない頭のまま、そう挨拶を返したがすぐにハッとなってシーツにもぐりこんだ。その様子にエドアルドがクスクスと笑っている。
「そんなに恥ずかしがることはないと思うけどな」
エドアルドにそう言われてもセシルはシーツから顔を出せずにいる。やはり、どうしても気恥かしいのだ。
昨夜、二人は初めて体を交えた。
初めての行為はセシルにとって苦痛を伴うものであったが、セシルを気遣い、終始ゆっくりと事を進めてくれたエドアルドの優しさとエドアルドと一つになることの幸福感でそれを耐えた。
「いつまでもそうしてないで、ちゃんと顔をみせてくれ」
言いながらエドアルドがシーツをクイッと引っ張るがセシルは顔を出そうとしない。
「・・・仕方ないな。それじゃ、俺はもう行くからいつまでもそうしてろ」
「待って!」
呆れたようにそう言われてセシルは慌ててシーツから顔を出した。そんなセシルをエドアルドはサッと抱きしめ、セシルが再びシーツに潜り込めないようにしてしまった。
「嘘だよ。お前の顔を見ずに誰が行くもんか」
エドアルドは楽しそうに呟いたが腕の中のセシルはどこか不満げだ。
「また意地悪なことして・・・」
「あんまりすると嫌いになるんだっけ?」
腕の中でセシルが呟くのを聞いたエドアルドはセシルの瞳を見つめて聞いた。
「・・・なりません」
そっぽを向きながらセシルがそう答えるとエドアルドがセシルの頬に手を寄せ、そっと自分の方を向かせた。
「そういうのは目を見て言え。俺を嫌いになったりしないんだな?」
「ならないって言ってるでしょ!もう、知らない!」
セシルはそういうとエドアルドを押しのけ、背を向けてしまった。
「お前は本当に拗ねやすいな。さて、姫君の機嫌はどうやったら直るのかな?」
エドアルドが楽しげにそう言いながらセシルにそっと寄り添った。
「あれか、やっぱり口付けか?」
「何度も同じ手が通用すると思ってるの?」
これまで何度か口付けで誤魔化された感のあるセシルは背を向けたまま言い返す。
「なんだよ、させてくれないのか?だったら別の手考えないとなぁ」
エドアルドがセシルから体を離しながらそう言った。セシルはそれがなんだか寂しくて、ついエドアルドの方を向いてしまった。
「何だ?やっぱり口付けされたいのか?」
エドアルドにニヤッと笑われて、セシルは少し、顔を顰めた。
「・・・そうじゃないもん」
「ふ~ん。じゃあ、してやらない」
そう言って今度はエドアルドがセシルに背を向けようとした。セシルはすっとその腕に触れてエドアルドを止めた。
「・・・」
「フッ、可愛いことするな、お前」
何も言えずにエドアルドの瞳を見つめるセシルにエドアルドはそっと口付けをした。