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第31話

「・・・下がれ」


エドアルドはニコラ達を下がらせた。


だが、二人きりになってもエドアルドは相変わらず俯いたままで、その場から動こうともしない。


「・・・エドアルド?」


セシルが呼びかけながら、エドアルドに歩み寄ろうとした時だった。



「・・・すまない」


エドアルドがこの部屋に初めて口を開いた。その言葉が謝罪の言葉だったのでセシルは慌ててこう言った。


「エドアルド、貴方が謝ることなんて何もございません!貴方は私にコンラート達を与えて下さった。ちゃんと守ろうとして下さいました。それにゲオルク殿下からも守って下さった」


「それでも危険な目に合わせた」


セシルがそう言ってもエドアルドの態度は変わらなかった。


セシルはせつなかった。エドアルドの顔がちゃんと見たいと思った。


「エドアルド!」


名を呼び、駆け寄ろうとするセシルをエドアルドは片手を上げて制した。


「今の俺はお前に触れる資格も、お前に触れてもらう資格も・・・無い」


「え?」


エドアルドは自分の手のひらを見つめながら苦しげに話し始める。


「俺は今、ゲオルクが憎くて堪らない。それこそ殺してやりたいくらい憎い。俺にちまちま嫌がらせをするだけならまだしも、お前を巻き込んだんだからだ。」


見つめていた手のひらで顔を覆い、エドアルドが話しを続ける。


「こんな真っ黒な俺は真っ白なお前に触れる資格なんて無い」


そう言うとエドアルドは崩れ落ちるように床に膝をついた。


「エドアルド!」


セシルは叫ぶようにその名を呼びながら今度こそエドアルドに駆け寄った。そして、自らも床に膝をつき、エドアルドの肩を掴み、叫んだ。


「貴方も、周りの皆も、私のことを真っ白だって言うけど本当はそんなことないのよ!」


「・・・え?」


セシルの言葉にエドアルドが顔を覆っていた手を外し、その視線をセシルに向けた。


「確かに、私は誰かを殺したいほど憎んだことも、顔を見たくないほど嫌ったこともないわ。だけど・・・妬んだり、羨んだりしたことくらいあるのよ!」


セシルはエドアルドの肩から手を離し、その手を床についた。


これから話すことは今まで誰にも話したことはない。ニコラにだって話していない。だが、エドアルドには話さなければいけない気がした。知ってもらわねばならない気がした。


セシルは意を決して話し始めた。


「私はお兄様がずっと羨ましくて、妬ましかったわ。だって、お母様に一人だけ愛されてたんだもん」


エドアルドは黙ってセシルの告白に耳を傾けた。全て聞き終わるまで口を挟むつもりは無かった。


「物心ついた頃からお母様に抱きしめてもらった記憶なんてないわ。お母様はいつも私に、どうして自分からこんな地味な子が生まれたんだろうって言ってた」


母の話しをすることはセシルに痛みを与える。それでもセシルは話すこと続ける。


「でも、お兄様のことは流石、自分の息子だっていつも褒めてた。お前は自分の宝物だって言ってよく抱きしめてた・・・」


それは見せつけるようにセシルの目の前で行われていた行為だった。


「どうして?どうして?っていつも思ってた。私だってお母様の娘なのにって」


セシルの瞳から涙が溢れる。


「私はどんなに努力しても愛されなかったのに、無条件で愛されるお兄様が羨ましかった・・・妬んでもいたわ。今でも、それは変わらないの・・・」


ついにセシルは両手で顔を覆い泣き始めた。エドアルドは堪らずその小さな体を

抱きしめる。


「・・・私のこと幻滅した?嫌いになる?」


腕の中で怯えたように呟くセシルにエドアルドは抱きしめる腕に力を込める。


「そんなことあるわけないだろ。寧ろ、もっと好きになったよ」


そう告げながら、エドアルドは自分を恥じていた。セシルのことをまるで聖女のように崇めてしまっていた自分のことを・・・


セシルだって人間なのだから、人を羨んだり、妬んだりするに決まっているのに勝手にそんなことはしないと決めつけてしまった。


真っ白だ、真っ直ぐだと褒め称えられる度、セシルは自分の心に蓋をし続けてきたのだろう。


そう思うとせつなさと同時に愛しさが湧きあがってくる。


いままで直隠し(ひたかく)にしてきた胸の内を自分に晒してくれたセシル。


それは自分に心を許してくれた証拠だ。


エドアルドにとってそれは喜ばしいことであって嫌う理由になるわけがない。


「・・・こんな私でも愛してくれる?」


セシルはエドアルドを見上げてそう問いかけた。その瞳をしっかりと見つめてエドアルドは頷いた。


「当たり前だ。俺はどんなお前でも愛すると誓う。お前は?こんな俺でも愛してくれるか?」


セシルは答えるかわりにそっとエドアルドの唇に口付けをした。


その口付けを受けてエドアルドは胸の中に熱い想いに抗うことが出来なくなった。


「セシル!」


エドアルドはセシルの唇に噛みつくような激しい口付けを返す。そして、口付けをしたまま、セシルの腰を抱いて立ちあがらせると、そのまま抱き上げた。


エドアルドの足はベットへと向かっていた。セシルは与えらる激しい口付けに翻弄されながらもエドアルドが何を求めているか悟った。


ベットの傍らまで来た時、エドアルドが唇を一度離した。


「・・・いいか?」


何がと問わなくてもセシルには分かった。少し怖かったが、セシルもエドアルドと同じ気持ちだった。


「・・・はい」


セシルが小さな声で答えるとエドアルドはセシルをベットに横たえた。








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