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第30話

「ねぇ、私も何か・・・」


「セシル様は座っていてください」


言葉を言い終わる前にニコラから遮られ、セシルは仕方なく側に合った椅子に座った。


セシル達は今、引っ越しに追われている。騒ぎのあった部屋で暮らして頂く訳にはいかないと、空いていた別の部屋に移ることになったのだ。


今度の部屋は後宮の入口から近く、女官長の部屋からも近く、警護団詰め所からも近い。以前の部屋より警護のしやすいという理由で選ばれた部屋だ。


「まぁ大変、もう、こんな時間だわ!モニカさん、厨房へ」


ニコラが時計を見て、叫ぶ。それを受けてモニカが時計に目をやると既に夕食の時間が迫っていた。


「はい!行って参ります」


モニカが早口で答え、部屋を出ようとする。その背にニコラが声を掛けた。


「モニカさん、焦らず、ゆっくり頼みますよ」


その裏に隠された意味を察し、モニカは立ち止り、深呼吸した。


「そうですね。焦って御食事に何かあってはいけませんから、ゆっくり持ってまいります。セシル様、少々お待ちくださいまし」


モニカがセシルに向かって一礼する。


「いってらっしゃい。ニコラの言うとおり、焦らなくていいわよ?部屋の片づけもまだ途中だし、あんまりお腹もすいてないし」


セシルが微笑んでそう言った。モニカも微笑みを返す。


「はい・・・行って参ります」


部屋を出たモニカはニコラに感謝していた。少々気が急いていた自分を落ち着かせてくれたのは有難かった。


立て続けに事件が起きたのだ。自分が役目を疎かにしていいわけがない。


モニカはグッと胸の前で組んだ手に力を込めた。









「ダニエラ様は後宮を出されるそうですよ」


厨房から戻ってきたモニカが食事の準備をしながらそう言った。その言葉にセシルは驚いた。


「モニカ、何でそれを知ってるの?」


セシルの問いにモニカは嫌なものでも見たかのように溜息を付きながら答えた。


「厨房で他の侍女たちが話しておりました。皆、耳が早いようで何処から聞いたか知りませんが、ダニエラ様の今後まで話して居りました」


「今後?」


小首を傾げるセシルにモニカは聞こえてきた話で真実か分からないと前置きした上で話し始めた。


「今回の件、ダニエラ様は知らずに片棒を担がされた点を考慮され、罪人として捕らえられはしないそうです。ただ、後宮に置いておく訳にはいかないので実家に帰されることになったらしいのですが、ご実家が受け入れを拒否されたと、行き場のないダニエラ様は修道院へ送られるそうですよ」


モニカの聞いてきた話しは概ね真実だろうとセシルは思った。


ダニエラが罪人として捕らえられないのは良かったとは思うが、実家から受け入れを拒否されたというのは可哀想な気がした。


貴族である彼女の家族は彼女より家の体面を重視したのだろう。ダニエラは家の恥とされ、その存在を抹消されるのだろう。


修道院へ送られるということはダニエラは華やかな世界に別れを告げ、自給自足の慎ましく、厳しい世界へ行くことになる。今まで働いたこともない彼女がいきなりそんな生活に叩きこまれることは投獄に等しい気がした。


「さぁ、御食事の準備が出来ましたよ」


モニカの話しにセシルが何も言わず考え込んでいることを察して、ニコラが少し大きな声で声を掛けた。


「・・・分かったわ」


セシルはまだ暗い気持ちから抜け出せず、食欲もなかったが、皆に心配を掛けまいと無理やり食事を口に運んだ。だが、どの料理も砂でも食べているかのように味がしなかった。





夕食を終え、セシルたちが寛いでいると廊下からエアハルトの声が聞こえた。


「セシル様、陛下の御越しです」


その声にセシルの表情が少し緩む。


「ニコラ」


セシルに促されて、ニコラがエドアルドを迎え入れる。


「陛下、ようこそお越しくださいました」


「・・・あぁ」


短く答えて、エドアルドが室内に足を踏み入れる。


エドアルドは俯いてセシルを見ようとしていないように感じた。そのことに気付き、セシルは少し、胸が痛んだが気にしないようにしてエドアルドに笑顔で言った。


「お待ちしておりました」


「・・・あぁ」


エドアルドは俯いたまま顔を上げようとしなかった。









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