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第29話

「開演を早めて、出演者を追加しろ?」


突然、自分の執務室を訪れたエルンストに告げられた言葉をテオバルトは聞き返した。


「はい、そう伝えれば、殿下にはお分かりになると陛下はおっしゃいました」


戸惑いを隠しきれずにそう言うエルンストがテオバルトはなんだか可笑しかった。


「確かに、僕はそれだけで分かるけどねぇ・・・君は訳分かんないでしょ?」


クスッと笑ってそう言われてエルンストは少し、顔を顰める。


「準備が整ったら君にもちゃんと教えてあげるよ。多分、君にも手伝ってもらうことになるだろうし」


「はぁ」


エルンストはエドアルドとテオバルトが何か計画していることは察していた。



一体、何をなさるつもりなのだ?



エルンストは思案顔で黙り込んだ。その様子を気にするでもなくテオバルトは独り言のように呟いた。


「本当にゲオルク兄さんは・・・もう、形容する言葉も思いつかないよ」


あきれ果ててものも言えないっていうのはこういうことかとテオバルトは思った。


「・・・殿下」


心配そうに呼ぶエルンストにテオバルトは苦笑いを浮かべた。


「気にしないでよ、だたの独り言だから」


エルンストは何も言えず、部屋を出ることにした。


「それでは、私は失礼致します」


一礼し、部屋を出て行こうとするエルンストにテオバルトが声を掛ける。


「エルンスト、ちょっとだけ教えてあげようか?」


その言葉にエルンストは足を止め振り返った。


「僕が準備を進めてる舞台の主役はゲオルク兄さんだよ」


エルンストはその言葉に息を呑んだ。


「出演者の追加ってのはその舞台にヘルガさんも出せってこと」


そこまで言うとテオバルトはクスッと笑った。


「あの親子、とうとう本気で兄さんを怒らせちゃったみたいだね」


エルンストは聞かなければよかったと思った。何か計画しているのだろうとは思っていたがどうやらそれは大事らしい。



ゲオルク殿下とヘルガ様をどうなさるおつもりなのだ?



告げらた言葉の衝撃に立ちすくむエルンストにテオバルトは言う。


「これ以上はまだ内緒。ほら、もう行きなよ」


テオバルトの声に衝撃から立ち直ったエルンストはもう一度、テオバルトに頭を下げた。


「失礼いたします」


そう言って足早にテオバルトの執務室から出て行った。


「エルンストでもあんなに吃驚することあるんだ」


テオバルトは意外なものが見れたと小さく笑った。


「さて、出演者が追加ってことはちょっとだけ修正が必要かな?」


テオバルトは面倒そうに呟いた。


面倒だが仕方が無い。大好きなエドアルドのためならそれも苦にならない。


テオバルトは周りに悟らせないように巧妙にそれを隠しているがエドアルドが子供のころから大好きなのだ。


エドアルド本人もそれを気付いていないだろう、わざと気付かれないようにしている。


王になるべく育てられ、お前たちは自分より下だという態度で兄弟、姉妹に接していたエドアルド。


他の兄弟、妹は彼のその態度を不服に思っていたが、姉たちとテオバルトは違った。


姉たちはエドアルドの態度を人の上に立つものとして当然と受け止め、テオバルトは幼くして、王になるものとして威厳を湛えるエドアルドの姿に尊敬の念を抱いていた。


テオバルトは現実主義だと言われるが本当はそうでもない。


彼は周りにそう思わせることによって、自分を後継者争いから自ら外した。


エドアルドに心酔しきっているテオバルトは彼以外に王に相応しいものは居ないと思ったからだ。


でも、それを誰にも悟らせはしない。もちろん、エドアルドにも・・・


テオバルトが自分のためにわざとこんな真似をしていると知ったら、エドアルドは怒るだろう。そして、悲しむのだ。すまないと泣くだろう。


テオバルトはエドアルドが冷酷な振りをしていても本当は誰よりも優しい心を持っていることを知っている。


幼いころ、エドアルドは兄弟たちに自分の方が上だと示した後、顔を曇らせることがあった。その顔を見つけた時、テオバルトは思った。



兄さんはホントは皆と仲良くしたいんだ・・・・



それからテオバルトは変わった。


後継者争いから自分が外れるようにわざと王位に興味が無い、臣下として生きる方がいいと周りに吹聴して回った。


エドアルドに対しても軽口を叩き、飄々とした態度で接し、エドアルドの態度を気にしていないように振る舞った。実際、その裏にある後悔を見抜いてからはエドアルドの態度は気にならなかった。


そうして、テオバルトはエドアルドから愛称で呼ばれるまでにその心を掴んだ。


「兄さんのためなら喜んで悪者にも変わり者にもなるよ」


テオバルトは目を閉じ、呟いた。


・・・命だって惜しくないよ


心の中でそう呟いて、テオバルトはゲオルク主演舞台の構想を練り始めた。












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