表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/103

第28話

「ふざけた真似を!!」


エルンストからセシルが襲われたとの報告を受け、エドアルドが叫ぶ。


「陛下!落ち着いてください!」


エルンストが必死に宥める。エドアルドは荒い呼吸のまま、執務机の椅子に座った。


「・・・事の詳細は?掴んだんだろうな?」


未だ興奮しているエドアルドを気遣いながらエルンストが口を開く。


「はい。あいつらは命の保証と引き換えにすぐに口を割りましたので」


エルンストはどんな手を使っても、それこそ拷問も視野に入れて情報を聞き出そうとしていた。だが、蓋を開けてみると賊は己の持っている情報と引き換えに命だけは助けてくれと自ら懇願してきた。


寄せ集めのあの集団には雇い主への忠義などなかったのだ。


「で?・・・誰の仕業だ?」


エドアルドは何となく察していながらも先を促した。


「・・・ゲオルク殿下が仕組み、ダニエラ様が手引きをしたようですね。尤も今回の件、ダニエラ様は詳細をご存じなかったようです。・・・あの方は捨て駒にされたようですね」

 


エルンストの言葉にエドアルドはやはりそうかと思った。


ゲオルクとダニエラは恋仲である。少なくともダニエラの方はそう思っている。そのことをエドアルドは知っていた。知っていながらダニエラを後宮においていたのだ。


それはゲオルクの動きを探るため、ダニエラを自分の近くにおいて泳がせることが目的だった。危険が伴うことも分かっていたが、ダニエラの居室で過ごす時間はごくわずか、エドアルドはその身を一度たりともダニエラには触れさせなかった。ダニエラもまた、エドアルドの動きを探るため、後宮にいた。それを悟られぬようにうまく側室として振る舞っていた。


今日、セシルに嫌みを言ったのも側室としての芝居の一環だった。


今までずっと騙し合いを続けていたがどうやらそれは終わったようだ。


「自分に惚れている女ですらそういう風に使うのか、本当に救いようがないな」


エドアルドは吐き捨てるようにそう言った。


「今回の件は用済みのダニエラ様を消すことが主な目的だったようです。もう、五年も後宮にいますからねぇ。そろそろ用済みだったのでしょう。あいつらはセシル様の部屋で騒ぎを起こせ、無理に殺さなくていいと言われていたと、それが証拠にそれが出来る距離に居たにも関わらず、セシル様に傷一つ付けておりません」


それを聞いてエドアルドの表情が変わる。


「まさか・・・」


エルンストが小さく頷く。


「ゲオルク殿下はセシル様を殺すつもりはなかった。騒ぎを起こし、恐怖を植え付け、陛下から引き離そうとした」


「・・・俺への嫌がらせか?」


エドアルドは頭を抱えて項垂れた。


馬鹿だ馬鹿だと常々思っていたがここまでとはエドアルドも思っていなかった。


愛する者を見つけた者に打撃を与える方法はその愛する者から去られることだとゲオルクは考えたのだろう。


だから、王宮でセシルに接触したのだ。エドアルドは来なければ自らセシルを汚し、セシルにエドアルドの側には居られないと思わせるつもりだったのだろう。


それが失敗したから次の手を打った。自分を想っているダニエラを利用し、セシルを手の者に襲わせ、恐怖よってエドアルドから引き離そうとした。


どこの誰が嫌がらせのためにそこまでするというのか・・・。



ゲオルクは思っている以上に短絡的で浅はかだとエドアルドは痛感した。


「自分で俺を殺しにくる度胸もないくせに、よくもやってくれたもんだな」


エドアルドは顔を上げ、そう呟いた。その瞳に宿る憎しみの炎にエルンストは目を逸らす。だが、小さくため息をつくと、すぐにエドアルドに向き直った。


もう一つ、告げねばならぬ事実がある。


「陛下、あいつらの雇い主ですが、ゲオルク殿下ではありません」


エドアルドは視線だけをエルンストに向ける。その瞳には黒い憎しみの炎がまだ満ちている。


「あいつらはヘルガ様に集められたと言っております」


「何?」


「ヘルガ様から殿下の役に立ってくれと大金を掴まされたと」


「親子そろって忌々しい!」


ゴッ!!


そこまで聞いて、エドアルドが机を殴りつける。


「陛下!お止めください!」


机を何度も殴るエドアルドをエルンストが必死に止める。我に返ったエドアルドは荒い呼吸を繰り返しつつ、頭を働かせていた。


「・・・エルンスト、この件はテオの耳にも入っているか?」


「テオ?あぁ、テオバルト殿下もご存じです」


エルンストの返答にエドアルドはニヤっと笑った。


「そうか、では、テオに伝言を頼めるか?」


その笑みがあまりに冷酷なものであったので、エルンストは身構えた。


「・・・どのような伝言でございましょう?」


そんなエルンストの態度にエドアルドはフッと笑った。


「舞台の開演を早めろと、それから出演者の追加を申し付けると」


「は?それはどういう・・・」


「伝えれば、テオには分かる」


エルンストに暗号めいた言葉を託すとエドアルドはもう、何も言わなかった。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ