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第27話

「セシル様、賊はすべて捕らえました。もう大丈夫です」


コンラートの声を聞いてセシルは侍女室を飛び出した。


「アルトゥル!」


「・・・セシル様、・・・御怪我はございませんか?」


「怪我をしたのはお前でしょ!」


部屋を飛び出したセシルの目に飛び込んできたのは左腕を負傷し、応急手当を受けるアルトゥルの姿だった。


「本当に掠り傷ですので大丈夫です。利き手でもありませんし、すぐに警護に復帰出来ます」


アルトゥルがそう言うとセシルの瞳から涙がこぼれた。


「その程度で本当に良かったわ・・・大怪我をしたんじゃないかって私、心配してたのよ・・・」

 


「セシル様・・・」


アルトゥルはその涙を茫然と見つめた。



俺のために泣いてくださるのか・・・



アルトゥルはその涙を見つめ、コンラートの言葉を思い出す。



お前にも分かる時がくる




あぁ、そうか、そういうことなのかとアルトゥルは思った。


怪我をした自分を非難することも役立たずと罵ることもせず、怪我の心配をし、大怪我でなくてよかったと泣く。


それができる彼女は確かに守るべき人、守る価値のある人だ。


アルトゥルの心にセシルに対する忠誠が芽生え始めたいた。



「貴様ら、誰に雇われてこんな真似をした!」


コンラートの声が部屋に響きわたる。賊たちは俯いたまま、何も応えない。


「ダニエラ様だろ?」


コンラートが問う。それでも賊は何も言わない。


「答えない気か?貴様らはダニエラ様に呼ばれたと言って、後宮に入り込んだんだろ?それが何よりの証拠になるのだ。庇いたてせず、答えたらどうだ?」


コンラートは頭からダニエラが犯人だと決めているようだった。その様子を見ていたニコラが徐に口を開く。


「お待ちください。ダニエラ様の単独というのは考えにくいかと」


ニコラの言葉にコンラートは一旦、口を噤んだ。


「こやつらの雇い主がダニエラ様だったなら、自らこやつらを手引きするとは思えません。自分が呼んだ仕立て屋が事件を起こせば、自分が疑われるのは当たり前ですからね」


ニコラの話に少し冷静になったコンラートも確かにそうだと思い至る。


「仮に、ダニエラ様が雇い主で自ら手引きしたとしても、それを隠そうするはずです。ですが、こやつらは隠そうとはしなかった。寧ろ、晒しているようにも見えますね」


「それはつまり?」


エアハルトが問いかける。ニコラはちらりとエアハルトを見ると再び話し始めた。


「ダニエラ様は事の詳細を知らなかったのではないですかね?誰かに仕立て屋を寄こすから逢ってやれとでも言われて、仕立て屋に扮したこやつらを迎え入れた。ダニエラ様の前ではこやつらはきちんと仕立て屋のふりをしたんでしょう。そして、ダニエラ様は疑うことなく、こやつらを自室から送りだした」


誰も口を挟む者はいなかった。ニコラの言っていることは推測に過ぎない。それは分かっているのに、その語り口には自信が溢れ、説得力があった。


「ダニエラ様の部屋を出たこやつらはセシル様の御命を狙って此処へ来た。すぐにバレるのも計算の内、セシル様の御命を本気で奪う気はなかったやもしれませんね。こやつらがセシル様を狙ったという事実とダニエラ様の元へ来た仕立て屋だという情報を流すのが目的。それでダニエラ様が失脚すれば大成功。・・・そんなとこでしょうね」


ニコラは語り終えると溜息をついた。この推測が正しいならセシルは巻き込まれただけの可能性があった。ダニエラの失脚を狙う何者かに手駒の一つに使われた可能性が・・・。


セシルは命を狙われてもおかしくない立場。それを利用されたのだ。


「一体、誰がそんなこと・・・」


セシルが呟いた時だった。


「この件はこちらが引き取ろう」


エルンストがそう言いながら扉の向こうから現れた。彼はセシルの前にくると深々と頭を下げた。


「申し訳ございません、セシル様。後宮の警備を改め、後宮に出入りする商人達には厳しく制限を設け、以後このようなことが無いように努めて参りますので、どうか、お許しください」


そう言いながら、エルンストは今朝の自分の判断の甘さを痛感していた。後宮の警備を改めるより、セシルの自身の警護を固める方が早いと判断した自分。速さを優先し、するべき対処を後回しにした結果がコレだ。


エルンストは今朝の自分を殴り飛ばしたい気分だった。


「いいのよ。誰も、こんなに早く私が狙われるなんて思わないわ」


セシルの言葉にエルンストは弾かれた様に頭を上げた。


「それに、あなたと陛下が私に付けてくれたこの者たちは私をきちんと守ってくれたわ。急だったのにこれだけの人材を与えてくれて有難う」


セシルはそう言ってエルンストに頭を下げた。その姿にエルンストは思う。



あぁ、この方は本当に素晴らしい方だ・・・



今なら、エルンストはエドアルドがセシルに惹かれる理由が分かるような気がした。そして、今朝、セシルに抱いた期待が確信に変わる。


この方なら陛下の支えになってくださる・・・




「セシル様、どんな手を使ってもこやつらの口を割り、裏に居る人物をつきとめて見せます」



エルンストは決意も新たにそういうと賊を連れて部屋を後にした。




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