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第23話

「本当にあの人は救いようが無いね。どこまで馬鹿なんだか」


テオバルトは心底呆れたという様子だ。エドアルドはテオバルトを執務室に連れて行った。そこで先程の一件を話して聞かせた。テオバルトは事の詳細を聞いて、益々ゲオルクが嫌いになった。


「お前、本当にゲオルクが嫌いだな」


エドアルドはしみじみと呟いた。


「僕は愚か者は嫌いだよ」


それを受けてテオバルトが冷たく言い放つ。


「愚か、か」


エドアルドはテオバルトの言葉を尤もだと思った。


「自分が置かれてる立場も、そうなった理由も、何も気付いて無いんだよ?きっとこれから先も気付かないよ。気付かないまま、叫び続けるんだ。『王になるのは自分のはずだったのに』って。愚か以外の何でもないよ」


テオバルトはそう言うと溜息をついた。あの兄は救いようが無いと常々思っていたがそろそろ存在自体が鬱陶しくなってきた。先に生まれたという以外は何一つ自分より優位な部分がないあの男が自分に威張り散らすのもテオバルトは不愉快で堪らなかった。


「そうは言ってもな。テオ、誰もかれもがお前みたいに現実主義じゃないんだよ」


エドアルドは諭すように言う。


「そんなの分かってるよ。でも、ゲオルク兄さんは現実を全然見て無い」


テオバルトは苛立った口調でそう言った。


現実を直視することは普通ならば苦痛を伴うことぐらい、テオバルトにも分かっている。


自分はそれを容易に受け入れることが出来る性格だっただけで他の人にそれが簡単に出来ないこともテオバルトはちゃんと分かっているのだ。


分かっているからこそ思う。あの兄は愚かだと・・・。


現実から逃げ、真実から目を逸らし、同じことを叫び続け、未だに何も分かっていない、否、分かろうとして居ない。知ることで傷つくことを恐れ、苦痛の苛まれることを嫌い。自分にとって都合のいい世界

で生きている。


そんな輩に誰が付いていくだろう?


ゲオルクを王にと動いていた支援者はすでに彼を離れている。そのことにすら気付いていないだろう。


今のゲオルクは観客の居ない舞台で一人で踊っている道化に過ぎない。


その姿は滑稽で愚かだとテオバルトは思っている。




そろそろ幕を下ろさせてあげようかな・・・




テオバルトはそう決意した。



「・・・兄さん」


その呼びかけにエドアルドは少々身構えた。テオバルトがそう呼ぶ時は何か企んでいる時だからだ。


「・・・何だ?」


エドアルドは警戒しつつ、先を促す。エドアルドのそんな態度をテオバルトはふっと笑って受け流した。


「ゲオルク兄さんにそろそろ教えてあげようよ。・・・現実って奴を」


口調は飄々としていたがその瞳は真剣だった。エドアルドは黙ってそれを見つめた。


「筋書きを考えるのも、舞台を整えるのも僕がやるよ。主演は僕とゲオルク兄さん。エドアルド兄さんは最後の最後で華々しく登場して、ゲオルク兄さんに現実を叩きつけるだけでいい」


テオバルトが言わんとしていることを察し、エドアルドは黙り込む。


主演がテオバルトとゲオルクであるということは、テオバルトは自らを囮にゲオルクに罠を張るつもりなのだろう。


エドアルドとテオバルト。


二人の容姿はよく似ている。影武者にはテオバルトは打って付けなのだ。


「・・・危険はないのか?」


エドアルドが問う。テオバルトは意外だという顔をした。


「やだなぁ、兄さん。危険なんてあるわけないじゃない。だって、僕だよ?」


自身満々に応えるテオバルトを見て、エドアルドは思う。



確かにそうだな・・・



エドアルドは戦に長けていると言われるし、自身もそう思っている。だが、それは力の面においてだ。


謀略や調略、計略といった知の面はテオバルトの方が優れている。今でこそテオバルトは財務大臣だが、エドアルドが即位してすぐのころの近隣諸国との戦においてはその才を軍師に認められ、12歳にして軍師の補佐として戦に参加していた。


エドアルドは時々思う。テオバルトが敵でなくてよかった、と


そのテオバルトがついにゲオルクを排除しようと動き出そうとしている。もう、ゲオルクに逃げ場はないだろうとエドアルドは思った。


「確かに、お前なら危険を冒さずにゲオルクを嵌められるだろうな」


「ふふふ、そうだよ」


エドアルドの言葉にテオバルトは得意げな顔をした。その顔を見つめていたエドアルドがニヤリと笑う。


「お前、あいつに現実を教えてやるとか言ってるが、本当はあいつを自分の目の前から消したいだけだろ?」


エドアルドの言葉にテオバルトは得意げな顔をやめ、ニヤリと笑う。


「ばれた?でも、兄さんにとっても悪い話じゃないでしょ?」


テオバルトはどこか楽しげにそう言った。エドアルドがこの話に乗らない訳がないと思っているのだろう。


「・・・確かにな。テオ、決行はいつだ?」


エドアルドは話に乗った。


「色々準備があるからすぐって訳にはいかないかな?」


その様子にテオバルトは益々楽しげだ。


エドアルドは呆れたように呟いた。


「本当に楽しそうだな、お前」


テオバルトはくすくす笑っている。


「ゲオルク兄さんどんな顔するんだろうって考えたら、楽しくもなるよ」


エドアルドは心底思う。



こいつ、腹の中真っ黒だな・・・



エドアルドがそんなことを思っているとは気付かないまま、テオバルトは尚も楽しげに話を進めた。


「準備が出来たら言うからさ。それまではセシルさん?だっけ?その人の所に毎晩でも行けば?」


「ば、馬鹿!こんな時に何言ってんだ!」


焦るエドアルドにテオバルトは声を上げて笑い出した。


「あははは。それにしても兄さんに本気の相手が出来るなんてねぇ。ひょっとして、初恋なんじゃない?」


「五月蠅い!黙れ!」


怒るエドアルドにテオバルトはしれっと言い返す。


「すぐに黙れって言う癖、直せってエルンストに言われてなかった?」


「だっ!・・・五月蠅い!」


「あはは。そんじゃね。兄さん」


黙れと言いかけて辞めたエドアルドをくすくす笑いながらテオバルトは部屋を後にした。


一人残された部屋の中でエドアルドは息を吐き、気を落ち着かせた。


そうして呟く。


「・・・初恋・・か」



そうかもしれないとエドアルドは思った。


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