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第20話

「ごめんね。皆、重いでしょ?」


セシルは申し訳なさそうに謝った。


「何をおっしゃいますやら、このくらい平気ですよ」


ニコラが応える、イーナとモニカも頷いた。三人の手にはセシルが図書室より借りてきた本が2、3冊ずつ抱えられていた。


図書室の蔵書は持ち出しが禁止されている物以外は自由に借りることが出来た。


セシルは図書室で本を読むだけではなく、数冊借りて帰ることがたまにあった。いつもはニコラしか居なかったから数冊と言っても3冊くらいが限度だった。


今日借りる本もセシルは始めは3冊くらいにしようと思っていたのだが、イーナとモニカが自分たちもいるのだから遠慮せず好きなだけ借りるといいと進言してくれた。セシルはそれに甘えていつもより多く本を借りてきたのだ。


「セシル様は読書が御好きなのですか?」


エアハルトが問いかけた。セシルのことがもっと知りたいと彼は考えるようになっていた。


「えぇ、好きよ。刺繍をしたりとか、レースを編んだりするのも好きね」


そういうコツコツとした作業はセシルの性に合うのだ。そうした趣味も母は地味だと嫌っていたが・・・



他愛ない話しをしながらセシル一行は王宮の廊下を後宮を目指して歩いていた。もう少しで後宮に着く、このまま何事もないまま戻れそうだとコンラートが思っていた時だった。


「・・・騎士を従えているってことは、お前がエドアルドのお気に入りか?」


その声に振り返ったコンラートは仰天した。


「ゲオルク殿下?!」


コンラートの放った言葉に全員が慌てて頭を下げた。セシルはその姿を見たことはなくても名前だけは聞いたことがあった。



ゲオルク・ディートリヒ・アルコーン



王になるはずだった男と人は彼を呼ぶ。先王の長子でありながら側室の産んだ王子であったため王位継承権2位とされ、王になることができなかった。先王譲りの銀髪はエドアルドと同じだがその面差しは母ヘルガに良く似ており、切れ長な釣り目に碧い瞳を持った彼の顔はどこか冷たい印象を受ける。


「若そうだな、歳は?」


ゲオルクがセシルに近づきながら問いかける。


「・・・18にございます」


セシルの答えにゲオルクはニヤリと笑った。


「随分、若いのに手を出したな。で、名は?」


ゲオルクはもう、セシルの目の前まで迫っていた。


「・・・セシル・ブルックナーと申します」


頭を下げたまま、セシルは質問に答え続ける。


「そうか、セシル、頭を上げよ」


言われるままにセシルが頭を上げる。セシルの顔を見たゲオルクの顔に厭らしい笑みが浮かんだ。それを見たセシルは全身に鳥肌が立つのを感じた。


「顔はなかなかだな。・・・セシル、これから俺とどこかの部屋で過ごさないか?・・・俺はエドアルドよりうまいと思うぞ?」


セシルはゲオルクの言っていることが一瞬、理解できなかった。だが、理解出来た時、それは恐怖となり全身を駆け巡った。


「お、お戯れを。どうかお許しくださいませ」


セシルは言いながら一歩下がってゲオルクから距離を取った。


「この俺に逆らうのか?」


言いながらゲオルクはセシルとの距離を詰め、その手を掴んだ。


「どうか!どうか!お許しくださいませ!」


セシルは叫ぶように懇願するがゲオルクは掴んだ手を離さない。


その間、コンラート達は頭を下げたまま、ゲオルクを殴り飛ばしたい衝動と戦っていた。セシルのことを助けたいが相手が王族では手が出せない・・・



誰か!誰か来てくれ!誰か!この方を助けてくれ!



全員が心の中で叫んでいた。その時・・・


「セシル!」


自分を呼んだのが誰なのか、セシルにはすぐに分かった。


「エドアルド!」


セシルが振り返るとそこにはこちらに駆けてくるエドアルドの姿があった。


セシルはゲオルクの手を力いっぱい振り払い、エドアルドに向かい駆け寄りその胸に飛び込んだ。エドアルドはそんなセシルをしっかりと受け止め抱きしめた。


その体が震えていることにエドアルドの怒りが増幅する。


「ゲオルク、貴様ここで何をしている?」


エドアルドが低い声で問いかける。ゲオルクはわざとらしく肩を竦めるてみせた。


「何をしてるとはご挨拶だな。俺は王族だぞ?ここで何をしようが許可も理由も必要ないだろ?」


悪怯れる様子もなくそう言うゲオルクをエドアルドが睨みつける。


「ゲオルク、お前、まだ自分の立場が理解できていないようだな」


「立場ってなんだ?俺は王族でお前の兄だ。それ以外何かあるのか?」


二人は睨みあったまま、動かなかった。


エドアルドは決してゲオルクを兄上とは呼ばない。それはゲオルクを牽制するためだ。


お前は自分より下なのだ、と


ゲオルクは決してエドアルドを陛下とは呼ばない。それはゲオルクの意地だ。


そう呼ばれるのは自分のはずだったのに、と



「まぁいい。俺はお前のお気に入りを少しからかっただけだ。俺はそんな小娘には食指は動かないんでな」


先に均衡を破ったのはゲオルクだ。そういうとゲオルクは踵を返し、その場を去ろうとした。その背にエドアルドが声を掛ける。


「ゲオルク、覚悟しておけよ」


その声にゲオルクが振り返った。


「何の覚悟だ?エドアルド、俺には見当がつかないよ」


そう言い残して、ゲオルクは去った。


「・・・セシル、大丈夫か?」


腕の中でまだ震えているセシルにエドアルドが優しく声を掛ける。セシルはそれに頷くことで応えた。


「申し訳ありませんでした!陛下!」


コンラートが叫ぶように言いながらエドアルドに頭を下げた。それに他の者も続いて頭を下げる。


「・・・よい。此度は相手が悪かった」


エドアルドは皆にそう声を掛けた。この者たちでは王族に何もできない。それが分かっていて、わざとゲオルクは近づいたのだ。


エドアルドが通りかかったのはたまたまだ。用事を済ませるために移動しているとゲオルクの姿が見えた。


なぜ、あいつがここに?


そう不審に思って近づくとゲオルクの前にセシルが居た。遠目から見てもゲオルクがセシルの手を掴んでいるのが分かった。そして、セシルが怯えていることも・・・


気が付けば走り出していた、大声で名前を呼んだ。自分を見た時のセシルの安堵の表情が目に焼き付いて消えない。


エドアルドはセシルを抱きしめる腕に再び力を込めた。






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