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第19話

「・・・エアハルト」


図書室に着くとコンラートが呼びかけた。エアハルトは小さく頷くと先に図書室に足を踏み入れる。イーナとモニカもそれに続いた。中を確認するためだ。


三人は室内を見渡し、異常が無いことを確認すると図書室の扉を少しだけ開き、中の様子を窺っていたコンラートに目で合図する。それを見届けてからコンラートは扉を開け放ち、セシルを室内に誘った。


「セシル様、どうぞ」


セシルは物々しさに若干の息苦しさを感じながら室内に入った。


セシルが本を選ぶ間、コンラートとニコラが付き従い、他の三人は室内に散らばり、周りに気を配っていた。死角を作らないためである。


「ねぇ、コンラート」


セシルは堪らず声を掛けた。


「なんでございましょう?」


「・・・そんなに神経質にならなければならないの?」


ここまできちんとした護衛を受けたことのないセシルにはこの状況が普通であるとは思えなかった。その必要性もまだ理解していなかった。


純粋で真っ直ぐなところはセシルの長所だとは思う。だが、それ故に危険も多いだろうとコンラートは思っていた。


セシルはまだ思っても居ないのだ。


自分の命を狙われる可能性があるということを・・・。


知っておいてもらった方がいいとコンラートは思う。だが、それと同時に知らせたくはないとも思う。事実を知ったセシルは恐れを抱くだろう。そんな姿は本心を言えば見たくない。だが、そうも言って居られないこともコンラートには分かっていた。


「・・・セシル様。図書室は場所柄、背の高い棚が立ち並び、死角も多い。セシル様に害をなそうとするものにとっては格好の場所です。それに、万が一、そういう輩がセシル様に向かって棚を倒すという暴挙に出ればセシル様の御命が危ない。室内に神経を尖らせるのは当然です」


セシルはコンラートの言葉に衝撃を受けた。『命が危ない』という言葉はセシルに自分の立場を自覚させた。


エドアルドはセシルの覚悟が出来るまで待つと言った。それにセシルは何事においてもかと問い返した。問うた本人が気付いていなかった。


セシルが一番初めにすべき覚悟はエドアルドに抱かれることでも、王妃になることでもない。


命を狙われる立場になる覚悟であったということに・・・



後宮には多くの側室がいるがエドアルドの寵愛を受ける者はいなかった。横並びの状況下の後宮は表面上穏やかだったのである。さらに言えばセシルはそういう喧騒から離れた場所でひっそり暮らしていた。だから、忘れていた。



後宮が女の戦いの場であるということを・・・



エドアルドがドレスを贈ったこと、昨夜の夜会の出来事。さらにその後エドアルドがセシルの元を訪れたことで女たちは確信したはずだ。


横並びの状況下からセシルが一歩先に出た、と


皆が同じであるうちは誰も行動を起こさない。だが、誰かか特別になれば話は別だ。後宮にいる女たちは皆、エドアルドの寵愛を欲し、王妃の座を狙っている。エドアルドを愛している者などいない。皆、欲しいのは王妃の肩書とそれによって得られる富と権力だ。そんな彼女たちにとって特別な誰かなど邪魔なだけだ。どんな手を使ってでも排除しようとするだろう。


密かに行われてきた女たちの戦いは今、新たな局面を迎えている。そしてそこに今まで蚊帳の外にいた自分がいきなりド真ん中に叩きこまれようとしていることにセシルは漸く気付いた。


愕然とした表情で立ちすくむセシルにコンラートは切々と訴える。


「セシル様!我々が必ず御守り致します!陛下だって、きっとセシル様を御守りくださるはずです!」


コンラートの言葉にセシルは今朝のエドアルドとのやり取りを思い出していた。エドアルドは必ず守ると言った。セシルはそれを信じると決めた。コンラート達がセシルの元に配属されたのはエドアルドが守るという言葉を実行に移したからだろう。



彼はもう動き始めている・・・だとしたら自分に出来ることは・・・



セシルはコンラートに微笑みかけた。そこには先程まであった怯えや戸惑いは消えていた。


「ありがとう、コンラート。貴方達が居てくれて頼もしく思うわ。これからもよろしくね」


セシルは争いの渦中に飛び込む覚悟を決めた。守ると言ってくれた時のエドアルドの真摯な眼差しと目の前の騎士の熱い想いがセシルに恐怖を忘れさせた。


コンラートはセシルの微笑みを見て思う。



この方は誰にも胸の内の恐怖や不安をみせようとしないのだな



自分よりも周りのことを気遣って、心配を掛けまい、迷惑を掛けまいとしているように見える。だから彼女はどんな状況でも笑うのだろう。微笑むことで自分を支えているようにも見える。



誰か、この方の拠り所になってくれる人はいないのだろうか



コンラートはそう思い、一人の人物に想いを馳せる。



陛下はそうなってくださるのだろうか・・・・



コンラートはそれを期待せずには居られなかった。




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