第12話
「・・・疲れたわ」
後宮の自室に戻ったセシルは誰に言うでもなく呟いた。
「今日は色々ありましたからね」
ニコラはセシルの湯浴みの準備をしながらそう言った。
「色々ありすぎたわよ」
セシルは言いながら溜息をついた。
ニコラに夜会に出るように言われた。
それが最初。
その後、いきなり陛下から贈り物を賜った。
それが元で他の側室に嫌みを言われた。
夜会に参加した後だってそうだ。
宰相から声を掛けられた。
陛下までも声を掛けてきた。
父に久しぶりに逢えたのは嬉しかった。
だが、泣かせてしまったのは悲しかった。
そして、自分に突然つけられた護衛。
思い出してみるとよく一日でこれだけのことがあったものだとセシルは驚いた。此処一年、何の変化もない暮らしをしてきたセシルにとって今日という日はまさに『激動の一日』であったと言っていいだろう。
だからこそ彼女は思わず漏らしたのだ。たった一言
疲れた、と
「セシル様、湯浴みの準備が出来ましたよ」
「ありがとう、ニコラ」
湯浴みでもしてさっぱりしようと思ったセシルはその言葉に素直に従い、備え付けの簡素な浴室に足を運んだ。
浴槽に浸かりながらセシルはふと思う。
謎も多いのよね・・・
陛下に贈り物を賜る理由も分からない。
宰相が声を掛けてきた理由もわからない。
護衛が付けられた理由も分からない。
陛下は声を掛けた理由をドレスを着た自分を近くで見たかったと言っていたけど、それだけじゃないような気がする。
「・・・はぁ」
セシルは本日何度目になるか分からない溜息をつき、考えるのをやめた。考えたところで答えは見つからないし、これ以上考えていたらなんだか熱が出そうだ。
コンコン
湯浴みを終え、夜着に着替えたセシルの元に扉を叩く音が届く。
「こんな時間にどなたでしょうか?」
不審がるニコラの横でセシルは思い出していた。
また後でな
あの時、エドアルドに告げられた言葉を・・・
それを思い出した時、扉の向こうに誰がいるのかセシルは確信したのだ。
「ニコラ、早く応対して」
セシルに急かされ、扉を開けたニコラの目前に国王 エドアルドの姿があった。
「こ、これは陛下。よ、ようこそお越しくださいました」
流石のニコラも国王の突然の訪問には驚いたようだ。ものの見事にどもっている。
「あぁ。邪魔するぞ」
エドアルドはそう言うと、ほぼ一年ぶりにセシルの自室に足を踏み入れた。