第100話
「セシル、明日にでも王宮に来ないか?見せたいものがあるんだ」
夜、セシルの部屋を訪れたエドアルドがセシルと並んでソファに座りながらそう切り出した。
「見せたいもの?」
セシルが不思議そうに問いかける。
「あぁ。王妃の居室と王妃の庭だ」
セシルはエドアルドが告げた場所に大きな期待を感じた。
「母上が、居室と庭をセシルの好きなようにしていいと仰ってるんだ。一度、見ておいた方がいいだろう?」
王太后クラリッサの気遣いにセシルは胸が熱くなるのを感じつつも、エドアルドにこう問いかけた。
「王妃の庭というのは、王妃様自ら手入れをしているって場所のこと?」
その場所の名称は知らずとも、王宮の庭園内で王妃自ら手入れをしている場所があることはこの国の民なら皆、知っている。王妃自身が自らの手を汚して、庭木や花の手入れをし、民に近くあろうとする行為は民の間で好意的に受け止められていた。
「そうだ。これからはそこはセシルの庭になるんだ」
自分との未来を保障するかのようなエドアルドの言葉にセシルの顔に自然と笑みが浮かぶ。それを見たエドアルドが愛おしげにセシルを抱き寄せる。
「きっと大変だろうが、庭師の手伝いも受けられるし、母上に助言を乞うてもいい。お前なら素敵な庭が作れるさ」
エドアルドの腕の中でセシルはしっかりと頷いた。それを感じたエドアルドが褒めるかのようにセシルの背中をそっと撫でた。
「お前の教育役の選出も大体済んだ。居室と庭の改装や模様替えもあるかもしれんが、それを考慮しつつそろそろ日程を詰めることになると思う」
そう言いながら、エドアルドはセシルの体をそっと離し、セシルの顔を両手で包みこむとその瞳をじっと見つめた。
「王妃教育は学ぶことをやることもたくさんある。楽しいことばかりじゃないだろう。辛いことや苦しいこともあると思う」
エドアルドの告げたことをセシルは尤もだと思った。楽なことなど一つも無いことはセシル自身、覚悟をしている。
「エドアルド、私が前に言ったことを覚えてる?」
セシルがそう問いかけるとエドアルドは小首を傾げた。
「愛し、愛される喜びを教えてくれたのは貴方だもの。だから、私はどんなことも平気って言ったことがあるの。その気持ちは今も変わってないわ」
そう言いながらにっこりと微笑むセシルにエドアルドは心底、愛おしいと思った。そして、その感情に突き動かされるままにセシルを再び腕の中に閉じ込める。
「お前は本当に可愛いな。そんなことを言われたら、朝まで離せなくなりそうだ」
耳元でそう囁かれて、セシルは顔を真っ赤にして、俯いた。エドアルドはセシルの顔に手を伸ばし、そっと上を向かせた。
「・・・恥ずかしいのか?いつまで経ってもお前はこういうことに慣れないな」
「・・・慣れた方がいいの?」
上目遣いにセシルが問いかけるとエドアルドはフッと笑って、首を横に振る。
「そういう所が可愛いんだから、そのままでいいさ」
エドアルドがそう言いながら顔を近づけて来たので、セシルはそっと瞳を閉じた。そっと触れるような口付けを受けながら、セシルの胸はエドアルドへの愛しさでいっぱいだった。