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八つ目 俺、閃きます

 予想以上にみんなの出来具合が悪すぎた。


いや、別にプロレベルになれとは言わない。でも、ある程度、お客さんに披露出来る具合じゃないとな……。


 みんなのを見て感じたのだが、どうもまだお遊び程度としか捉えられていないのではないだろうか。


 簡単にいうと、文化祭の出し物や体育祭での競技前の雰囲気。


 確かに大勢の生徒の中から選抜することによって意欲が湧き、参加する気になっても、どの程度のレベルまで上達すればいいのかはっきりとした目標がないのだろう。


 文化祭や体育祭だって、目標がなければ適当にやって終わりでいいと思うだろう。


 ならば、前まであった意欲をもっとあげればいいのだ!


 なんてことを思いながら、俺は一人中庭のベンチに座り考え込んでいた。


 いやぁ、プロデューサーの仕事も大変だねぇ。


 こうやって全員のことを考え、一つの作品を作り上げなければならないんだから。


 さて、さっきの案だけど、どうやってみんなのやる気を上げさせ、上達させるかだ。


 プロならば、お金や知名度が上がるから頑張れるのだろう。


 でも、たかが学校PRごときじゃそこまでやる気になれないか。


 あ、一つ言っておくけど、映画の賞金は誰にもあげないぞ。


全部俺のものだ! みんなと山分けにでもしてみろ、俺の取り分ちょっとしかねーよ! 誰がなんと言おうと一円たりともやらん! ケチならケチと言え! 無いと俺は死ぬんだ!


 さて、そろそろ教室に戻りますか。


 俺は腰を上げ教室に戻ろうと歩き出す。


そのとき、後ろから声をかけられた。


「秀ぅ~!」


「ん?」


 俺は後ろを振り向く。しかし、そこには誰にもいなかった。


「あれ? おかしいな。空耳か?」


 俺は何事もなかったかのように歩き出す。


「ちょっと~、秀ぅ~!」


 また聞こえ、再び振り返る。しかし、目の前にはやっぱり誰もいない。


「なんだよ、気味悪いな。俺呪われているのか?」


 今でも誰かが呼ぶ声がするのだが、俺は聞こえないふりをして先に行こうとする。


 さっきからピョンピョン跳ねたり、手をバタバタ振っている仕草が見えるようで見えないので気にしない。


「なんで無視するのよ! ねぇ、秀ぅ~!」


「くそ、いったい誰だよ!」


 俺は手をかざして遠くまで見えるように目を細める。やっぱり誰もいない。


「ちょっと! それは私にケンカ売ってるの!」


 俺は仕方なく、やれやれといった感じに前ではなく下を向いた。


 そこには小さな小さな幼女の葵がいた。


「なんだ……いたのか」


「なんでそんな哀れな目で見るのっ! さっきからずっと呼んでるよ!」


 子供のようにわめいてプンスカ怒っているが、まったく怖くないし、どうでもいい。小さな子供が駄々こねているようにしか見えない。


「お前と遊んでる時間はないの。さっさと教室戻らないと、授業に遅れるぞ」


「次の時間は先生いなくて自習だから大丈夫だよ」


「あ、そうなんだ。じゃ、ここにいよ」


 自習ならわざわざ教室に戻る必要はない。出席なんて、どうせ取ってないんだし。


 俺は元いたベンチに座り直した。その隣にちょこんと葵も座る。


「ねぇ、学校PR兼映画の作成はどんな感じ?」


「お前はマネージャーのくせに何も知らないのな」


「だって、秀何も教えてくれないじゃない」


 葵は涙目になってこっちを見る。


「仕方ね~な」


 俺はとりあえず今の状況を説明してやる。


「かくかくしかじか」


「えっ、ええ? ちょ、ちょっと! かくかくしかじかって口で言われても何も理解できないよっ!」


「いや、なんでもこれで通じるから」


「それは本の中での話だよっ! 現実でそんなことできたらこの世は『かくかくしかじか』しか言ってないよっ!」


「あれ? お前通じないの?」


「通じるわけないじゃんっ! 私超能力者じゃないよっ!」


「だって、ここ本のせ――」


「それ以上カミングアウトしちゃダメぇっ!」


 葵が止まらないので仕方なくしっかりと説明してやる。


葵はなるほどと、腕を組んでうなずく。ほんとに理解できているのか心配だ。


「みんなの質を上げさせるためにやる気を起こさせるね。それなら、一番良かったグループに賞品をあげればいいんだよ」


「賞品ね。例えばどんな?」


「普通なら賞金だけど、高校生だし無難にお菓子とか?」


「それ貰って喜ぶのはお前だけだ」


 葵なら嬉しそうにそのお菓子を貰うだろう。お子ちゃまだからな。


「なら、お菓子引き換え券!」


「だからお菓子はお前だけだ!」


「それなら、お買い物券!」


「どこの主婦だよ!」


「優しくなでなで!」


「喜ぶのは小学生までだ!」


「どーんとお米一袋!」


「なんで副引き商品!」


「大きく世界一周旅行!」


「どこにそんな金があるんだよ!」


 そこで思った。あれ? いつもと立場逆になってね?


「も~う、文句ばっかいって。だったら秀は何かアイディアあるの?」


 葵がふくれて頬をリスみたいにプクッと膨らませる。


俺はそれを見て、そっと手を伸ばすと掌で葵の顔を掴み、左右の頬を一緒に摘まんだ。すると葵の口から『ブフォッ』と空気が出てきた。


「ちょっとっ! 乙女に向かって何てことするのよっ!」


「わ、悪い。ちょっと試したくなって……」


 俺は葵から背を向け口に手を押さえ笑いを堪える。意外におもしろかった。


 俺は落ち着くと葵に向き直る。


「まず物でつるってダメじゃないか? そんなの中学生までしか通じないだろう」


「じゃあ、高校生ってどうやったらやる気が起きるの?」


「やっぱり、興味があることを知るだろ。例えば、今まで知らなかったものとか。禁止されているものとかな」


「知らないものか。確かに、高校生っていろんなことに興味津々だよね。でも何興味引くかな」


 そこで俺は葵を見て小さく驚嘆な声を上げる。


「あっ」


 目の前にあったわ……。




  そして次の日、俺は選抜したメンバーを体育館に集め、第一回目となる集会を開いた。


 意外にけっこう人数がいて驚いてしまった。


 あ、ちなみにここに葵はいない。というか、わざと知らされていない。


 俺はステージの上から話し始める。


「え~、今日みんなに集まってもらったのは他でもない。ちょっと言い忘れたことがあってね」


 俺は偉そうに後ろで手を組んで右に行ったり左に行ったりと歩く。


 周りは、


『早くしてくんねーかな』


『面倒だな~』


『偉そうにしちゃってキモ~イ』


 と、不満の声を上げている。


 あれ? 俺ここまで信用なかったんだ……。


 俺は軽く咳払いをして告げる。


「えぇ~、今回のこの催しなんだが、実は生徒全員にも視聴させ、その後アンケートを取る予定だ」


 そこで全員が頭の上に?を思い浮かべる。もちろん、『アンケート』という言葉だ。


「そのアンケートで一番人気のあったものには、なんと……賞品が貰えます!」


 その言葉に全員の興味が惹かれる。


 ふふ、みんなじっくりと聴いているぞ。


「さて、その賞品はというと……葵の私生活満載写真集だ!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉおおおおお~!」」」」」


 賞品の中身を聞いた瞬間一気に全員の眼の色が変わった。


「ベッドで包まっている寝顔、寝ぼけたまま着替える姿、おいしそうに朝食を食べる笑顔、遅刻しないように走って通う慌てた顔、友達と楽しそうに話す癒し顔、こけて涙目になっても我慢しようとする顔、お風呂に入って脱力するにへら顔、ちょっと恥ずかしそうに頬を染める表情……その他もろもろ赤裸々に完全コンプリート! もちろん、それはこの世に一冊しかない貴重な代物だ。幼なじみである俺だから本人に了承を得ることができたのだ!」


「「「「「ふぉぉぉぉぉおおおおお~!」」」」」


 全員が目に炎を宿して雄叫びやら奇声やらを上げる。


「しかもなんと……葵のシークレットプリント、袋とじ内蔵だっ! これで葵のあんなところやこんなところまで見られるぞっ!」


「「「「「やっふぉぉぉぉぉおおおおお~」」」」」


「さあっ! もっともっと実力を上げて、今以上の力を手に入れるんだ! 目指せ! 人気ナンバーワン!」


「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉ~!」」」」」


 男女関係なしにみんなはいつもの百倍以上のやる気を発揮し各自の練習場所へと走っていく。


 俺は一人ポツンとステージの上に立ち、静けさだけが残った体育館で深く嘆息した。


「なんで葵でこんなにやる気が出るんだ……」


 でも、これはなかなか良いアイディアだと思う。


なぜかこの学校の生徒は葵に興味を持ち、そしてその葵の知らないことを知ることができる。この上ない極上な賞品だろう。


 だが、もちろん、俺はそんな葵の写真集なんぞ持ってないし、撮ろうとすら思わない。


「ま、みんな忘れるだろ」


 俺は呑気にそう思い、生徒会室目指して歩き出す。




 その日から、学校でみんなが葵を見る顔つきが変わり、いつ襲うかわからないような犯罪者の顔となっていた。


 葵は怖がって四六時中おどおどして助けを求めていた。


 もちろん、俺は気にせず知らんぷり。

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