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七つ目 俺、焦ります

 杏先輩と共に女性アイドルグループの練習場所である体育館のステージへとやって来る。


 その周りでは普通に部活に励む生徒もいる。


 杏先輩が選抜した生徒たちはステージの上で駄弁って休憩していた。


「みんな、プロデューサーが来たわよ」


 杏先輩が声をかけると皆こちらを見て、最後には秀に視線が集まる。


 うおっ! さすが杏先輩が集めたグループ。皆レベルたけ~。普通にアイドルとかになれそうな容姿だ。


 ま、その中でもやっぱり杏先輩が一番だけどな。


 杏先輩はみんなに説明すると、それぞれ納得し立ち位置へと向かう。


「それじゃ、いくわよ、秀くん」


 杏先輩がステージのセンターで手を振りながら合図を送る。


 俺は片手を上げて応える。


 十人のアイドルはその場で一時停止し、音楽が流れるのを待つ。


 一人がスタートのスイッチを入れ、スピーカーからイントロが流れ始め、彼女たちは一斉に舞い始めた。


 その様子を俺は腕を組みながらじっと鑑賞する。


「……………………」


 俺は目の前の彼女たちのダンスに言葉がでないほど見とれてしまっていた。


 ぽかんと空いた口が塞がらず、ただただ無言が続く。


「……………………」


 うん。ここで感想を言わないといけないってことは十分わかっているつもりだ。じゃないと、読者にはどんなことになっているのか検討も付かないからな。


 ただ……。……………………うむ。


 よし、一言で表そう。うん、そうしよう。それじゃ、いうぞ……。


 ……………………へた。


 いや、もっと適切な表現ができればいいけど、ほんとにこの言葉に尽きるんだ。


 多分だけど、みんなは俺の感想が、この華麗な舞に魅了され、言葉がでないほど感激し、しなやかな動きと激しさのあるかっこ良さに空いた口が塞がらず、感銘を受けていると思っただろう。


 いや、まったくの逆だ。


 伸ばすであろうところで、腕は普通に肘が折れているし、移動は普通ならスキップやなめらかに動くのにだらだらと歩行のように歩いているし、全体の動きなんてぎこちなさがあってキメがないし、ほんとお子ちゃまのお遊戯って感じです。


 俺はその目の前で行われるお遊戯に唖然としていたのだ。


 あ、でも、杏先輩は一番上手かったし、普通に良かったよ。


 曲が終わると、全員は終わったと背伸びをしてすぐに休憩に入る。


 センターにいた杏先輩はタオルで汗を拭きながら俺に駆けながら近寄ってきた。


「どうだったかな? みんな動きは覚えているし、あとは上達すればいいかなって思うんだけど」


「あ、そ、そうだね。このまま頑張れば大丈夫じゃないかな」


 俺はなるべく傷つけないように笑みを浮かべて感想を述べる。


 いや、笑っていても、苦笑いになってそうだけど。


 俺の感想を聞き、杏先輩は少しだけうつむき、そっと目を閉じながら笑みを浮かべた。


「ごめん、みんな。ちょっと休憩してて。飲み物買ってくるから」


 ステージの上で座りながら駄弁っているメンバーに声をかけ、


「秀くん、行きましょ」


 俺の手を掴み体育館を後にした。


 二人は自販機のあるところまで歩き、俺は椅子に座って、杏先輩が人数分のジュースを買うのを無言のまま見ていた。


「……ごめんね」


「え?」


 杏先輩はジュースを買い終え、先に買って置いてあった椅子の上にあるジュースに残りを置き、その中から一つを俺に渡しながら話し始めた。


「しょうじき、幻滅したでしょ。みんな下手すぎて……」


 杏先輩は申し訳なさそうにうつむき長い髪が顔を隠した。


「いえ、そんなこと……」


「うそ。顔にそう書いてあるよ」


 俺は指摘され口を閉ざしてしまう。それが肯定ととられ、杏先輩は額に手を置きため息を吐く。


「リーダー失格ね。秀くんの期待に応えたかったけど、どうも無理みたい……」


「いえ、気にしなくていいですよ。まだ時間ありますし、ゆっくりと頑張ってください」


「……うん」


 杏先輩は顔を上げると空を仰ぎながら話し始める。


「実はね、今回のこの企画、いや、新しい学校行事なんて、どうでもよかったし、私はしたくなかったの」


「……え?」


「だって、もう私受験だし、勉強もあれば、将来のことも考えないといけないし。こんなことしてる場合じゃないのよね」


「あ、そうなんですか。だったら、今からでも辞退していいですよ。無理にさせようとは俺も思ってませんし。他に探しますので――」


「秀くんはさっ」


 話してる最中に杏先輩が口を開き遮られた。俺は少し困惑したが黙って杏先輩の言葉を待つ。


「秀くんは……私を必要としてくれないの?」


「え?」


 杏先輩は俺を見つめ、そして少しだけ潤った瞳を向ける。


「……そうやって、使えない人が出てきたら次の人って、捨てるように変えて、それで秀くんは満足なの?」


「い、いや、俺はそんなつもりじゃ――」


「だったら! 秀くんは何で私をリーダーにしたの? なんで選抜したの? 秀くんは私に何を求めているの?」


 杏先輩は立ち上がり俺に迫り寄ってくる。俺はその勢いに負け後ずさりする。


「あ、杏先輩……?」


 杏先輩の目から一滴の涙が頬を伝う。それでもじっと見つめてくる。


 杏先輩は目を閉じると、俺の肩に優しく手を置き顔を背ける。


「ごめん……。卑怯よね、こんなこと言って……。ちょっと焦ったのかも……」


「あ、いえ、気にしないでください」


「うん……。ごめんね……。あと……」


 杏先輩は目じりを拭い、俺を見つめる。


「秀くんが私を選んだときは嬉しかったよ」


 そしてニコッと可愛らしい笑顔を見せる。


「杏……先輩……」


「……秀くん、あのね――」


 そのときだ。


「あ、秀いた――――――――――――――――――――!」


 数メートル先から小さな物体、いや、小さな少女が勢いよく走ってくる。


 だが、足が短いので思ったよりもこっちまで来るのは遅かった。


 その正体は思いつく人物は一人だけで、やはり葵だった。


 さっきまでいつのまにか見なかったが、どうやら途中ではぐれたようだ。


「もうこんなところで何してるの? 見て回るのは他にもあるんだから。早く行くよ!」


 強引に葵に手を引っ張られ、杏先輩と離れてしまう。


「ちょ、葵! まだ杏先輩と話が!」


「秀くん、また見に来てね。それじゃ」


 杏先輩はみんなの分のジュースを腕いっぱいに担ぎ先に行ってしまった。


「ほら、行くよ」


 そして葵に急かされ、俺は次のグループの様子見に向かった。




 最後に杏先輩は何か言いかけていたが、いったい何を言おうとしていたのだろうか。まぁいいか。今度会ったときにでも話してくれるだろう。


「ほら、早く行かないと全部回れないよ!」


 葵は小さな体をバタバタ忙しそうに動かしながら俺の手を引っ張るが、力がなく俺は見た目は引っ張られているようだが、普通に自分のペースで歩いている。犬の散歩みたいな感じだ。


 俺は急かす葵などどうでもよく、考えるべきシナリオの方に頭を動かす。


 しかし、それ以前の問題ができてしまった。




「……やばいな」


 俺は全ての見回りが終わり、生徒会室に戻ると椅子に座って頭を悩ませた。


 いや、マジやばいって。これは映画とか製作する以前の問題だった。


 もう何でこうなったかな~。


「はぁ~」


 俺の隣で葵もため息を吐いている。意外にも同じことを考えているようだ。ちょっと関心――。


「今日のおやつはクッキーとチョコどっちにしようかな~」


 ……しなくてよかったようだ。一瞬でもそんな甘い感情を出したのが間違いだった。


 さて、もったいぶらずここで俺が何を悩んでいるのか説明しよう。


 そう……みんなの出来具合だ。


 もう予想意外にまったくダメだった。へたくそ。実は今回初めて見回りしたのだけど、まるで見てられないものだった。


 まだ漫才の方が見れたものだった。あまり笑えないけど。


 とにかくセンスがないんだ。全員見た目はオッケーだ。雰囲気、容姿など外見なものは問題ない。それより平均を軽く越えている。


 しかし、問題は中身だ。センス、能力、技術など重要なものが足りなかった。


 ダンスは動きが鈍い、バンドは音がずれているし歌も微妙、お笑いはおもしろくない。


 これでは学校PRは良くても映画の賞の方には応募しても入賞はおろか、視聴5分で止められるだろう。


 俺はみんなのやる気、技術や能力の向上、センスを上げる手段を考える。


 これができてこそ、本物のプロデューサーというものだ。


 しかし、俺にはダンスの知識も、音楽もお笑いについても詳しくない。


 やはりここはやむを得ないが、彼らが自力で、または他者の力を借りて成長しなければならない。


 しかし、それ以前に彼らに欠けているものはやる気だ。


 確かに彼らは多くの生徒の中から選抜され、その時は容易に了承してくれても、いざ始めるとだんだんと意欲を無くし面倒くさくなる。


 このやる気を起こさなければ……。

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