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六つ目 俺、悩みます

 俺が集めた生徒たちは完成度を上げるため、放課後になるとそれぞれ練習に励んでいる。


 俺も休み時間や昼休みは内容の編集や総まとめに頭を使い、他にもどう映画を完成させるかと多忙な時間を過ごしていた。


 今日も生徒会室を借り、居ても居なくても変わらない葵と共にノートに映画のシナリオを書いていく。


「ねぇ、秀。ちょっと聞きたいんだけど」


「ん? なに?」


 俺はペンを回しながら頭を悩ませ、横から話しかける葵に返事する。


「へへ。さっきね、杏先輩からビデオカメラ渡されたの。ちょっと撮影するよ」


「ああ。……え? 今撮影する必要あるのか?」


「うん。この学校PR兼映画作りは、学校の行事にも因んだ催しでもあるんだよ。学校の思い出づくりとして、記録するためにビデオに収めようということで、私がカメラ役になったんだ。ふふん、かっこいいでしょ」


 葵が得意げにまったくない胸を張りながらエラそうにする。


「あっそう。ま、お前は何も仕事がないから、ちょうどいいかもな」


「へへへ」


 葵はさっそくカメラを覗き込み、俺が考えている最中の表情を撮影してくる。


 うっぜ~。




 放課後になると、俺は気分転換も兼ね、みんなの出来具合を把握するために練習場所に赴く。


 一つ言っておく。


 俺はプロデューサーなのだ。


 今回のこの催しで一番偉い立場になるのだ。


 ふふ。俺の時代が来たと言っても過言ではないだろう。


 いつも歩いている中庭がスタジオみたいだぜ。


 俺はポケットに手を突っ込みながら涼しい顔をして歩いていく。


 すると、周りから口々に応援の声をかけられた。


「あ、頑張ってください!」


「応援してますよ!」


「完成楽しみにしてます!」


 こちらは顔さえ知らないのに、俺はすっかり有名人となったようだ。


 ふふふ、俺も出世したな。


 すると、目の前にいる可愛い女子の軍団が俺に気づきパッと表情が明るくなった。


 そして満面の笑顔で手を振り声援を送ってくれた。


「撮影頑張ってください!」


「最後まで応援してます!」


 俺はつい嬉しくなり、応えるかのようにゆっくりと手を振り返そうとする。


 そのときだ。


「「「葵ちゃ~ん!」」」


 え?


「は~い! ありがと~う!」


 俺はギギギとゆっくりと後ろを振り返る。そこにはビデオカメラを片手に手を振っているマネージャーがいた。


 そんな葵を見てさっきの女子たちはキャーキャー言って喜んでいた。


「可愛い!」


「もう持ち帰りたい!」


「マスコットみたいだよね!」


 今思ったのだが、今までの声援は全部こいつのじゃなかったのだろうか。なのに俺は……。


「あれ? 秀、手を上げてどうしたの?」


 カメラ越しに俺を見て問いかけてくる葵。


 その葵に俺は無言で上げていた腕を振り降ろしゲンコツを食らわせた。


ゴチンッ!


「いった~いっ」


 葵は目をうるうるさせながら頭を抑え、その場に座り込んだ。


「もう、いきなりなにするのよ~」


 俺は葵を置いてスタスタとその場から立ち去った。


 泣きたいのは俺の方だ!




 俺は怒り狂ってヤクザっぽく歩きながらそこら辺の生徒にガン飛ばしていた。


 周りの目が微妙に痛かった。変人だとか、キモっとか囁いている。


 でも、俺は気にせず別のことを考えていた。


 くそっ! なんで葵ばっかりモテるんだよ。


 あんなお子ちゃまロリ系体質のぺちゃパイ泣き虫のどこがいいだ。


 それとも何か? 俺がおかしいのか? 俺の考えが異常なのか?


 みんなはロリがいいのか? 今はロリの時代か? ロリが流行したのか? 今年の流行語大賞はロリなのか!?


 へん! 俺はあんなんよりも、もっと知的で、スタイル良くて、美人で、ボンッ、キュッ、ボンッな感じがいいね。


 そうだな。俺の知り合いの中だと……。


 ……………………杏先輩?


 いや、これは別に好きだとかではなくてだな、その……そう、憧れというやつだ。


 うん。そう。俺は杏先輩のようになりたいと思っている。


 いや、別にボンッ、キュッ、ボンッになりたいというわけでなく、なんというか、ほら、かっこよく、クールな感じがいいんだよ。


 ふふ。知的でクールでイケメンな俺。


 さぞかしモテモテの人生だろう。


 うん。というわけで、杏先輩は好きっていうか、憧れに近いんだよ。


 あ、だからと言って、別に嫌いってわけでもないぞ。


 いや、どちらかというと……好き……。


 あ、いや、これは女としての好きではなく。その……。


「あ、秀くん?」


「ひゃいっ!」


「ひゃい?」


 俺があんなことを考えている最中に、杏先輩が話しかけてきた。


 ああ~、心臓止まるかと思った……。


「ちょうどよかった。今時間あるかな。良かったら、私のグループのダンスを見て行ってくれない? どのくらい完成してるか知ってもらいたいし。一応流れは掴んだと思うだけど」


「え……ええ、ええ。いいですよ……」


 俺は変な歩き方を辞め普通に立ち振る舞う。


……つもりだが、ぎこちなく言葉が震えていた。内心、さっきからドキドキしている。


 なっ、どうしたんだ、俺。杏先輩見てると、緊張というか、心臓がドキドキして脈打ってるっていうか、顔が熱く感じるというか……。


「あれ? 秀くん、顔赤いけど、どうしたの? 熱でもあるの?」


 杏先輩が手を伸ばして額に触れてくる。


 うおっ! やばい! 杏先輩の手が俺に……。


 俺は頭から煙が立ち上るほどショートしてしまっている。


 その間に、先輩は手を離した。


「ちょっと熱いけど、大丈夫そうね。念のため、今日はもう帰る? なんなら送って帰るけど」


 そこで俺の意識が戻りハッと驚愕する。


 その間に俺の頭はフル回転していた。


 このまま杏先輩と一緒に下校。それは何とも夢のようなイベント……って、なんかすでに俺が杏先輩のことが好きみたいなことになっているが……それよりも、このままでは俺の家が公園だとバレてしまう。


 俺が貧乏だと知っているものは葵しかいない。それ以外は誰一人知らない。


 いや、そんなことより、今の窮地は俺の貧乏生活がバレてしまう。


 これだけは避けなければ……。


 ばれればきっと……。


 俺は妄想を膨らまし、シミュレートしてみる。


『え? 秀くん公園に住んでるの? そんなに貧乏だったの? 私貧乏な人は嫌いなの。不潔だし臭いしお金ないしボロボロだし。もう秀くんとは絶交だわ!』


 …………やばい! これだけは避けなければ!


「秀くん? どうしたの?」


 杏先輩の呼びかけで俺は我に返った。


「あ、いえ、俺大丈夫ですよ。風邪なんて、引いたこと一度もないんですから」


 風邪で学校休むより、給食を食べられないほうが残念だからな。


「そう? それならいいんだけど……」


「ええ。それじゃ、ダンス見に行きましょうか」


「そうね」


 二人は体育館へと向かう。


 その間、秀は心の中で、杏先輩と下校できず落ち込んでいた。


 勿体なかったな~……。

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