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五つ目 俺、考えます

 昼休み、俺と葵、杏先輩の三人は生徒会室で会議をしていた。


会議というより、ランチタイムである。


 もちろん、俺は水で済ました。


「それで、これから本格的に動けるようになったけど、何を作るか決めてあるの?」


 杏先輩がタコさんウインナ―を箸で摘みながら言う。


ああ~、うまそ~。


「う~ん、まだ決まってないんだよね。私はやっぱり恋愛映画がいいんだけど」


 葵がウサギさんの形をしたりんごをサクッと言わせながら食べる。


それもうまそ~。


「ね、秀くんは、どんなの作りたいの?」


「え? ……あ、俺は、やっぱり、こうおもしろいのがいいですね」


「おもしろいの? 例えば?」


「みんなが見て、笑って、楽しめそうなやつです」


「っていっても、よくわかんないわね」


 杏先輩は腕を組んで考える。


「あっ、秀って、将来プロデューサーになりたいんだよね」


 葵がプチトマトを食べながら言う。


うまそう。


「へ~、秀くん良い夢持ってるのね」


「ええ、まあ、はい」


「それなら、プロデューサーっぽくする?」


「といいますと?」


 杏先輩は立ち上がると、ホワイトボードに書き始めた。


「プロデューサーにも、いろんなジャンルがあるわよね。もちろん、映画やドラマ、アニメとか、他にも、お笑い担当とか、アイドル担当、歌手、そういったエンターテインメントをね。つまり――」


 杏先輩はさっきまで書いていたものを大きく丸で囲んだ。


「これを全部するの」


「えぇっ?」


「これだと、秀くんの将来のためになるし、けっこうおもしろいのが作れそうでしょ?」


「でも、それをどう結びつけるんですか? ちょっと、無理がありすぎるんじゃ……」


「それを考えるのが、敏腕プロデューサーの仕事でしょ」


 杏先輩はニッコリと微笑む。


 ああ~、その天使のような笑顔を見ると断れないんだよな……。




 結局、俺は少し学校と近くなったニューマイホームの滑り台の上で考え込む。


親父は砂場でいじいじと遊んでいる。そうとう重症だ。


「さて、どうするかな~」


 俺は星空を見上げながら考える。


 全部を繋げる。でも、映画なのでストーリー性がまったくなくなったらダメだ。ならば、何か共通点を見つけなければ。


 共通点か……。あっ、これ学校のPRも兼ねてるんだよな。うわ~、もうめちゃくちゃじゃん……。


 学校のPR、つまり、我が校はこんな学校であり、こんな生徒がいる。そして、映画なのでストーリーがある。


「…………………………」


 そこで俺はガバッと起き上がった。


「そうだ。これでいいじゃん」


 俺の親父が顔を上げて呆けた表情で俺を見る。


「そうだよ……。アイドルも、お笑い芸人も、歌手も、生徒で作ればいいんだ!」


 俺は立ち上がった。


「つまり! 学校のPRなんだから、こんな学校で行事があって、こんな生徒がいるということをアピールしながら、そこで生じる壁や事件、問題、そして友情の感動ストーリーを織り交ぜ映画にする……。そうだ。これだ!」


 俺は一人興奮し、そんな姿を見て親父はなぜか哀れな目を向けていた。


「いける……。これならいけるぞ……。みんなを俺がプロデュースすれば、俺は最強だ! はははははははっ!」


 ということで、俺のプロデュース業初仕事が始まった。


 なぜか親父は俺を見て小さく、「とうとう息子がおかしくなった……」と呟いていたが気にしない。




 翌日。俺はさっそく生徒会室に向かい、杏先輩に昨日の考案を告げる。


杏先輩は俺を抱きしめるなど感激していた。


「それでこそ、私が認めた敏腕プロデューサー桐谷修二よ!」


 俺の名前は坂本秀です……。


 俺はさっそく人材集めを開始する。


まずはスタッフが必要だ。この人たちがいなければ、一つの作品は完成できない。


ま、一番偉いプロデューサーを俺で、あとは監督やカメラマン、照明係や音響係などが必要だ。


ま、主な役職は俺の友人でいいだろ。必要な器具は放送部に借りる。学校全体で動いているので、それくらい貸してくれるはずだ。


 俺は思いつくことをどんどんメモしていく。


 そしてメインキャストは、男性アイドルグループの五人組。


今ジャ○ーズの風とか有名だしな。そういったイケメン揃いのグループを作ろう。歌って踊れて、おまけにおもしろい。うん、いける。


 男性グループがいるなら、女性アイドルグループも必要だな。


モー○ング娘やA○B48みたいなやつだな。ま、人数は十人いればいいだろ。振り付けはダンス部にでも頼むか。


 そんで、あとはお笑い芸人。


まあ、なりたいやつはそういないだろうな。一人いたらラッキーくらいの確率だ。おもしろくなかったらもっと最悪。いなければ、強制的に作るか。


 それと、バンドもあったほうがいいな。


映画なんだし、主題歌も担当してもらおう。かっこいいメンバーを探そうかな。歌って盛り上がれば最高だ。UVERworldやflumpool的な感じで。


 あとはここからが本番で、映画も兼ねるからストーリーも必要。


そこで考えたのは恋愛ものだ。やっぱり高校生だし、恋愛ものを取り入れた方がいいだろ。これは、演劇部とかにも協力してもらおう。シナリオは任せる。人数も任せよう。あ、でも、泣けるものがいいな。現代もので、高校生が主役で。


 現代ものがあるなら、あとはファンタジーっぽいのもあったらいいな。若干コメディっぽくても良いし。うん、おもしろくなってきた。これは俺も参加しよ。


 あとはストーリーをワクワクドキドキさせるために、映画専門のキャストも集めよう。不良とかそういう人を。俺が探すかな。


 俺はすっと立ち上がった。


「なんか、これ……いけるんじゃね!」




 俺は早速生徒会室で自分の案を発表する。


杏先輩はもちろん、ほとんどの生徒がうなずいてくれた。


 うん、俺の才能も開花し始めたな。


 内容も大まかに決まり、あとは人数集めである。


男性アイドルグループは、ナイトに頼むとイケメンを紹介するということですぐに決まった。


 最初は興味なさそうだったのに、今ではやる気十分だった。


 あとは女性アイドルグループだが、これは杏先輩の友人が探すということだ。


うん、さすが杏先輩。自分が美少女なので、友達も美少女ばかりだ。類は友を呼ぶ。この言葉を使うとは思わなかった。ついでにリーダーに任命しておいた。


 バンドメンバーはあっさり見つかった。なぜか泣いて喜んでくれた。俺も嬉しいぜ。


 それとお笑い芸人。……これは思ったとおり苦戦した。誰に聞いても知らないというのだ。これはダメかと諦めたが、一人いたのだ。しかも、コンビで組んでいた。神様仏様、芸人様。ありがとうございます。


 恋愛映画は、演劇部に任せると、すぐに了承してくれた。ついでにファンタジーもしてくれると。さすが演劇部。でも二つは無理なので、現代ファンタジー恋愛物語となった。


 これで人材は集まった。あとはどううまく繋いでいくかだ。その担当が俺である。


 俺は生徒会の椅子に座りながら、鉛筆を回して考え込む。


 すると、目の前に座っている葵が俺を見つめてくる。


 なんか、気持ち悪いな……。


「あ、あのさ、秀……」


 葵が恥ずかしそうに頬を染めながら声をかける。


うわっ、寒気がする。


「あ、あのね、ちょっと、お願いがあるんだけど……」


「なんだよ、今忙しいんだが」


「あのね、その……私もアイドルグループに入っちゃ、ダメかな?」


「……は?」


「だからね、私も参加したいの。私、こんなに可愛いし、容姿ではオーケーでしょ? あとは歌って踊るだけだし、それに、私前から憧れてたんだ。ね、お願い」


 俺は納得する。そして快く一言告げた。


「ダメ」


 その言葉で葵はこの世の終わりのようにずーんと沈み込む。


「うえ~ん、秀がいじめるよ~」


 葵が杏に抱きつく。杏が優しく頭を撫でてあげていた。


いつからいたんだ?


「秀くん、あまりいじめちゃダメよ。葵ちゃんが可哀想でしょ。こんなに可愛いからいいじゃない。女性アイドルグループのリーダーは私なんだから、決定権は私でしょ」


 そこで葵が目を輝かせて顔を上げる。


「それじゃ……私参加していいの?」


 葵先輩は優雅に微笑み口を開く。


「ダメ」


 葵は部屋の隅に行き、体育座りをして落ち込む。そこだけ空間が違った。


「葵ちゃんは確かに可愛いわよ。お子ちゃまで、ロリで、胸がなくて、泣き虫で、体力なくて、歌が下手で、雑で」


「なんか欠点ばかりあげてない?」


「でも、葵ちゃんには、葵ちゃんにしかできない仕事があるの」


「ふぇ?」


 杏先輩は葵のもとにいきそっと頭を撫でた。


「秀くんのマネージャー。秀くんを手伝うんでしょ」


 杏先輩が優しく微笑む。杏は元気を取り戻すと、涙を拭いて立ち上がった。


「そうね……うん、そうだよ! 私にはその仕事があるもの! 一生懸命協力するからね!」


「だったら辞めてくれ」


 そしてすぐに葵はさっきと同じように沈み込む。


おもしろいやつだ。

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