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三つ目 俺、作ります

 俺は肩を落としながらトボトボと登校している。


 そんな俺を見る犬の散歩をしている人は哀れに見ている。犬は吠えずにじっと見てくる。


 いっそ吠えてくれ……。


 俺は重いため息を吐き、力なくへらへらと笑った。


 へへ、いいさ。いいんだよ、これで。俺も覚悟はしてたさ。あんなダメ親父なら、近いうちにクビになるって。


へへ、少し唐突過ぎて心の整理ができないだけさ。


 ふっ、すぐに元気になるさ。


 俺は声を上げて高らかに笑う。胸を張り、沈んだ気持ちを無理矢理上げる。


 でも、最後には沈んだ自分がいた。


 ああ、いっそ死んじゃえばいいのかな。死んだら、楽になるかな。


 はは。まだやりたいこともあるのに、いいのかな、俺。


まだプロデューサーの夢があるのに、まだ彼女すらできてないのに、まだ童貞なのに……。


 そのとき、またあの電柱に頭から追突してしまった。


「うっっああっっっっっっっっっっ~……………………」


 俺は声にならない叫び声を上げ、頭を抑えてその場にうずくまる。


「くっそ! バカにしやがってぇ!」


 俺は電柱に向かって怒鳴り声を上げる。


 そのときあるチラシが目に入った。


 電柱に張られているチラシで、それを見て俺は釘つけになった。


「なっ!」


 それは創作映画の募集のチラシだった。


『さ、今こそ君たちの力が試されるときだ! どしどし応募待ってるよ!』


 そんなチラシを見て、俺は興奮していられなかった。


 なんと、大賞賞金は一千万なのだ。


 その金額だけで俺は鼻息を荒くしていた。


 言っておこう。変態ではない。


 これしかない。これで、俺の生活費を稼ぐしか……。


 俺はぐっと拳を握り、わなわなと震えていた。


 その隣で犬もなぜか怖がるように震えていたが気にしない。




 俺は昼休みになると、さっそく行動を開始した。


 もちろん、朝は怒られたが。


 まずは映画を作るのだから、映画の創作について認知しなければならない。


 俺は図書室にいってそれらしき本を数冊借りると、中庭に移動した。


 映画を作るには、やはりそれなりに道具が必要だ。それもだが、一番重要なのは、どんな作品を作るかだ。


 あのチラシにはジャンルは自由と書いてあったが、俺は何を作ればいいのか検討もつかなかった。


ましてや、映画なんて見たことないので、どんなものがあるのかも知らない。


「う~ん、どんなのが一番良いんだ?」


 俺は唸りながら、手を後ろにやって寝転がると、空を見上げる。


「何してるの?」


 俺を見下していたのは空ではなく、葵だった。風が吹き、葵のスカートがふわっとめくれる。


 俺は上半身を起こし、体勢を戻すと後ろを振り返る。そして、葵にいう。


「お前のパンツ見ても、俺はなんとも思わなかった」


 それだけで葵は泣き出した。


 そっちで泣くより、見られたことで泣けや。


 葵を宥め、俺は映画のことを話した。


「ふ~ん、映画で賞金をね」


「その賞金さえあれば俺はお金持ちの仲間入りだ! 俺の力が発揮するときが来たんだ。今しかない……。目覚めよ! 俺のプロデュース力!」


 俺は立ち上がり太陽に向かって高らかに宣言しながら手のひらを突き上げる。


その様子を見てクスクス笑っている生徒が何人もいるが気にしない。


「どんな力だろうね。でも、何を作るの?」


「そこなんだよ。俺も悩んでね」


 俺は座りなおして頭を悩ませる。


「ふ~ん。それなら、まずは道具とか、人材を集めたら? みんなで決めたらいいし」


「そうだな。よし! まずは材料集めだ!」


「うん! 私も手伝うよ!」


「いや、いい」


「うっ」


 俺にきっぱりと断られた葵は、目を潤ませ、なんで? という感じで見てくる。


「お前がいると、いろいろと仕事が増える。うん、そうに決まってる」


 俺は腕を組んで納得するようにうなずく。


「なんでよ~。私も手伝いたい。秀に協力したいの~」


「なら俺に着いて来るな。それが一番の協力だ」


 俺はビシッと爽やかな表情で親指を見せ、スタスタと立ち去る。


 でも、葵は着いて来ていた。


 もう勝手にしろ……。




 映画を作るには、やはり人材はかっこいい人や可愛い人がいいな。普通の人が出てもインパクトないし。


 一つ言っておくが、俺はこう見えて顔は広い。


ま、部活をしていない分、後輩や先輩の知り合いはそんなにはいないが、同級生ではほとんどが友達だ。


 もし携帯を持っていたならば、俺のアドレス帳は二百を越えるだろう。


 ふふ。羨ましいだろ。友達二百人できちゃった~。


 そんな小学生が歌うような昔の歌を頭の中で流し、俺はず~んと沈み込む。


 よく言われるのだ。なんでお前携帯買わないのって。


 俺はかっこよくこう言う。


 いや、俺けっこう友達多くてね。いろんな人からメールきてうざいんだわ。バイトとかあるから連絡あんまできないし。ま、俺には必要ないってことよ。


 そんなことをよく言えたものだな。実際欲しくておかしくなりそうなのに。


 俺は廊下を歩きながら、まずはあの人物に会いに行っていた。


 あるクラスを覗き込み目的の人物を探す。


 そいつは思ってた通り教室の中におり、複数の女子に囲まれていた。


 おお~、おお~、今日もモテモテですね。


「お~い、ナイト~」


 俺の声に気づき、女子たちに手刀を切ると、俺のところに来た。


「なんだよ、秀」


「ああ、ちょっとね。それにしても、相変わらずモテモテですね。羨ましい~」


 俺は手でごますりをしながらニヤニヤ笑みを浮かべ言う。


ナイトは爽やかに笑った。


「はは。そんなことないよ。秀だってモテるだろ。俺はただ仲良く話してただけさ」


 それがモテるってツッコミたいが、今はそんな場合じゃない。


 ナイトとはあだ名である。本名は騎士惇(きしあつし)。騎士からナイトといっているのだ。名前までかっこいい完璧な奴である。


 俺の友達の中でこいつがダントツにイケメンだ。多分だが、街とかを歩けば、すぐにスカウトに来て芸能人やモデルになれるほどの容姿だ。


 家もお金持ちで本当に羨ましい。


 俺は咳払いをして単刀直入に話した。


「実はな、俺映画を作ることにしたんだ」


「映画? 秀がか? そりゃまたどうして?」


「ま、おもしろそうじゃねーか。ちょっとした娯楽って感じかな」


 内心では賞金が欲しいからと何度も叫び続けていた。


「それで、ナイトに主役をやって欲しいわけよ。な、頼むよ。お前しかいないんだ」


「う~ん、別にいいけど……」


「マジでか!」


 俺はしめしめと笑いながらナイトの手を掴んで握手する。


「でも、あまり時間無いと思う。部活あるし、デートの約束あるし」


 そういってナイトはスケジュール帳を俺に見せる。


毎日ビッシリと日程が組まれていた。休日は女の子とのデートだけで、一日に二回はデートである。


 今初めてこいつに殺意が芽生えた。


「ま、時間が空いたらいいよ。じゃ、またな」


 そういってナイトは席に戻り、女の子たちと話し始めた。


 ああ~、俺の人生は茨だらけ~。




 それでも、俺はくじけずに、他の生徒に交渉を続ける。


でも、皆忙しいと言い、誰一人協力する志願者は出てこない。


 俺は中庭の椅子に座りながら重いため息を着いた。


 その隣でも、葵が同じようにため息を吐く。


「お前、まだいたのか……」


「ぐす……だって、協力したいんだもん……」


 葵はうるうるとした瞳で俺を見てくる。


 ま、今は猫の手も借りたいくらいの状況だ。協力してくれるなら、その言葉に甘えるとしよう。


「それじゃ、協力してくれよ、葵」


「え? ほんと?」


 俺はニコッと笑う。


「おう! よろしく頼むぜ」


「うん! そしたら、私主役にしてね!」


「……はい?」


「ジャンルはもちろん、恋愛映画ね。私が主役で、相手はかっこいい人。二人は恋におちるんだけど、なかなか結ばれなくて、苦難が相次ぐ……。でも、二人は協力してどんな壁も乗り越えていくの! そして二人は結ばれて、最後は……。いやん! そこはダメ! もっと優しく! ははっ、もういやっ!」


 一人暴走する葵を置いて、俺は人材集めに取り掛かる。


 やっぱり間違えだった。


 結局その日、俺の言うことを聞いて参加してくれる人はごく少数で、それでも皆予定が空いていればとの条件付きだった。


 俺って知り合い多くても信頼はないのかも……。


 夜の公園の滑り台の上でそう思う俺だった……。

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