十五つ目 俺、倒れます
杏先輩との問題は解決(?)し、俺は学校PR兼映画作製に執念を燃やす。
正直時間はあまり残されていない。
俺の仕事もなかなか捗っているかわからないが、着実に進んでいるはずである。
先ほどアイドルグループやバンド、お笑いなどのレベルを把握しに行ったわけだが、練習の成果なのか、それなりに実力はつき、普通に披露できるくらいにはなっている。
やはり葵の写真集が欲しいのだろうな。
俺はそんなものは持っていないのだがね。
ちょっと言い忘れていたが、葵は相変わらず学校のためだとかいって俺の周りを中心に杏先輩からもらったビデオカメラを回していた。
ちっこいやつがうろうろして鬱陶しいが、邪魔するよりかマシである。
俺は巽さんとロケ地めぐりを終え、演劇部部長である彼女に台本を任せる。
あと俺の仕事は撮影時の細かな説明や動作の確認などである。
ようやくここまで来たなぁとだんだんとゴールが見えてきた。
ああ、おそらくだが、読者にはまったくわからないだろうな。
今どんな状況か、どこまで進んでいるのか、そもそもこの作品の目的地すらわからないだろう。
気にするな! 俺もわからん!
なんだかいろいろあり過ぎてこんがらがってきた。やばいな、おい。
ま、とりあえず、映画作って賞金貰ってその賞金で生活費にしようと考えているバカな貧乏男子生徒が俺ってことだけは覚えていてくれ。
さて、今日も張り切りますかな。
ええ~、なんで俺がこんな状況にいるのか誰か教えてください。
なぜ、俺……。
体育館のど真ん中で正座して全校生徒から囲まれているのかをっ!
「ええ、今から裁判を行います」
裁判!? 俺、何かしたっけ!?
「被告、坂本秀殿。あなたは真宮杏、並びに天枷葵の両名による二股疑惑を認めますか?」
ふ、二股? 俺が? いや、そんなの記憶にないぞ! そもそも二股って、別に誰かと付き合っては……。
「早くしろ!」
「ひえっ! あ、その……違いま……」
「よし、死刑」
「ちょ! まだ判決は早いって! 俺『違いま』しか言ってないし!」
「ならなぜ否定する」
「そもそも俺……あの、杏先輩とは付き合っても、葵とは別に何も……」
「つまり、天枷葵とは何の関係もないと?」
「……はい」
うわっ、マジこえ~。早く終われ~!
「なら……なんでそんなお前が天枷葵の写真集など作ることができるんじゃあああああ!」
「えええっ!?」
「裁判長!」
誰か知らない生徒がある一本のカセットテープを持って来た。それをデッキに入れ流し始める。
『さて、その賞品はというと……葵の私生活満載写真集だ! ベッドで包まっている寝顔、寝ぼけたまま着替える姿、おいしそうに朝食を食べる笑顔、遅刻しないように走って通う慌てた顔、友達と楽しそうに話す癒し顔、こけて涙目になっても我慢しようとする顔、お風呂に入って脱力するにへら顔、ちょっと恥ずかしそうに頬を染める表情……その他もろもろ赤裸々に完全コンプリート! もちろん、それはこの世に一冊しかない貴重な代物だ。幼なじみである俺だから本人に了承を得ることができたのだ!』
「……このセリフに覚えはあるな?」
「……はい」
やっべ~! なんでそんなもんを録音してんだよ! 絶対的証拠じゃねーか!
「つまり、天枷葵の私生活を写真に記録したということになるが、このことが可能なのは親密な関係でなければありえない。ならば、被告と天枷葵が親密な関係であることが高い」
「あ、その、そうかもしれませんが……」
「裁判長! 私はこの前、被告が天枷葵の家を訪れる現場を抑えました!」
「でかした検察官A!」
「誰だよこいつっ! 勝手にそんなもん抑えんな!」
「これを」
「どれどれ。ふむ。被告。そなたは確かに天枷葵の家を訪れたな」
「あ、ああ、確かに入ったよ」
「うむ。それに、その日家に泊まったらしいが」
その言葉に周りが騒がしくなる。
「くそっ! うらやましいぜ!」
「何かしてたら絶対殺してやる!」
「葵ちゃんを汚すなんてっ……」
「許せねーぜ」
陰口叩かれてさっきから震えが止まらねー。早くなんとかしねーと。
「た、確かに泊まりましたけど、それ以上は何も……」
「ひどいっ。あのとき私を抱いたのは遊びだったのねっ」
「話がややこしくなるからお前は出てくるなぁっ!」
やっぱりここで葵が出てきやがった! 嘘泣きまでしやがって!
「はい、死刑」
「ちょ、待てって! 俺まで死ねないし! しかもなんでチェーンソーとかノコギリとか持ってんだよ! その黒い袋とスコップもなんだ! 細かくして埋める気か!」
とりあえず、しっかりと話して誤解を解かなければ。
「あの夜は~。ふふ、秀とあんなことやこんなことまでして~、秀ったら激しすぎて大変だったよ~」
「はい、惨死刑」
「葵いいいいい! 根も葉もない嘘ついてんじゃねぇー! しかも惨死って惨い死に方じゃねーか!」
もう普通にチェーンソー振り回して怖いんですけど~。
「じゃ、わかった! こうしよう! お前らは葵が俺に取られるのが嫌なんだろ? だったら、俺が葵から振られればいいんだ。うん、そうしよう」
「良かろう」
そして俺は葵に近づき、お互い真正面に見つめ合う。
俺はその間にアイコンタクトを送る。
上手く合わせて振ってくれ。
通じたのか、葵は小さくコクッとうなずく。
よし、今だ。
「葵……好きだ。付き合ってくれ」
「喜んで!」
「焼死刑」
「てっめぇぇぇぇっ!」
葵はガチで受け取りやがった! 空気読めよ! もう周りは俺を殺すという殺気に満ち溢れていた。
やばい……本気で死ぬ……。
「ちっくしょっぉぉぉぉぉ!」
俺はその場から逃げるべく全速力で走りだす。
「待て、逃がすな!」
「追いかけろ!」
「捕まえて燃やせ!」
こいつらひどすぎだろ!
俺は必死に逃げ、体育館の入り口から飛び出そうとする。
そのときだ。
「……え?」
突然体が重くなり、自由が利かなくなった。そして視界がぼやけ、ぐらっと揺れている。頭には頭痛がしてバランスが取れない。
俺はそのまま無様に転倒し動かなくなる。
周りでチェーンソーやらノコギリを振り回しているやつらは呆然と状況を読めず立ちすくむ。
いち早く状況に気づいたのは葵だった。
「秀ぅぅぅぅぅぅっ!」