十つ目 俺、壊れます
その日の放課後、俺は演劇部の部長と生徒会室で会議をしていた。
「して、その件はいかほどに……?」
部長から問われ、俺は神妙にうなずく。
「うむ。実は……」
俺はパッと笑顔になった。
「まったくおもいつきませ~ん。はははっ」
部長は飽きれスタスタと出て行こうとする。
「ちょ、すみません! 待ってください!」
演劇部部長はやれやれといった感じに席に座り直す。
「まったく。協力はしますが、しっかりとまとまった案がなければストーリーなんて簡単にはできませんよ?」
「はい、面目ないです……」
今話し合っているのは映画のストーリーについてだ。
役柄はそれぞれ頑張っているのでいいのだが、彼らをどうストーリーと織り交ぜ、そしてどこで演出させるか練っている。
その前に、まずはどんなストーリーにするか明確な案が思い浮かばない。
「要望では現代ファンタジー恋愛ストーリーですが、これと彼らを結びつけるのは難しくないですか?」
「う~ん。やっぱりそうですよね。ファンタジーなんて、どう結び付ければいいのかも」
「まあ、そこまで難しく考えなくてもいいと思いますよ。現代をメインとしていますので、ちょっと魔法や願い事が叶ったりできる程度でいいと思いますけど」
「そうだな。でも、これは学校PRも兼ねてるから、こんな学校であるという宣伝もしないといけないんだよな」
「ちょっと小耳に挟んだのですが、今回のこの企画は新入生の学校紹介や説明会でも起用するらしいですよ」
「え? マジかよ」
ちょっと大任し過ぎる気が。
「とりあえず、まずはストーリーが大まかでも決まらなければ演劇部もどう動いていいのかわかりません。次の会議までに決めておいてください」
「は~い。わかりました」
「では」
演劇部部長は立ち上がると生徒会室を出て行った。
俺はぐて~んと机に突っ伏した。
くそ~、ストーリー作りなんて難しすぎるぜ。役はたくさんいてもどんな物語にするかだなんて。
ジャンルは現代ファンタジー恋愛ストーリーと言っても、けっこう無理あり過ぎだな。
あのときの俺は何を考えていたんだ。
「くっそ~、タイムマシンで過去に戻って俺をぶん殴りて~」
そこで俺はハッと顔を上げた。
「タイムマシン……過去……未来……」
俺は立ち上がった。
「そうだ。これだ!」
そして次の日、俺はさっそく演劇部部長を呼んだ。
「ん?」
部長は生徒会室のドアを開け目の前の状況に疑問を抱いた。
「何をしているのですか?」
生徒会室で一人奇妙な行動をしているバカな生徒が一人。
椅子の上に乗り、机の引き出しを開け、その中に足を入れている姿が見えた。
「いや、タイムマシンに乗れないかと」
そのバカは秀だった。
「ドラ○もんの見すぎです。それより、ストーリーは決まったのですか?」
俺はシュタッと椅子からジャンプし華麗に着地する……つもりだったが失敗して尻餅ついたが何事もなかったかのような表情でかっこつけて応える。
「ふふ。完璧さ」
部長の心は不安でいっぱいだった。
二人は向かい合って席に着く。秀の隣には珍しく葵もいた。
「では、さっそく聞かせてください」
「おう」
俺は自信満々に説明を始める。大まかなストーリーの流れ、起承転結、アイドルグループやバンドの器用、そして恋愛、ファンタジーを取り入れた要素、全て織り交ぜ俺は説明を終える。
聞き終えた部長はそっと手を差し出した。
「いいでしょう。それで行きましょう」
俺はニッと笑みを浮かべ手を握り返す。
「おっしゃ!」
そして、その日から本格的にストーリー作りも活動を始めた。
その日、俺は葵と演劇部部長と共に学校中を歩き回る。
今回はアイドルグループやバンドなどの見回りではなく、ロケ地を探しているのだ。
どの場所でどのような演技をするかなどを考えているのだ。台本も作らなくてはならない。
文章がいまいち苦手な俺なので、台本作りは部長に任せてある。
あ、ここでちょっと部長の紹介をしようか。
演劇部部長は、久崎巽と言い、同じクラスの女子生徒だ。
メガネにセミロングの黒髪に、クールで真面目な姿勢でクラス委員長でもある。なぜ演劇部に所属しているのか聞いてみると、将来は女優になりたいらしい。
まあ、巽さんは普通に容姿はいいと思うし、演技も上手かった。
「さて、最初に聞いたストーリーに寄れば、場所は学校だけでいいわね。わざわざ郊外に出る必要もなさそうだわ」
「そうだな。面倒だし、学校内だけで撮影すればいいだろ。あとはその場所だけど」
「とりあえず、まだ台本もできてないし、坂本くんが思うストーリー通りに進めましょう。だいたいのストーリーは頭の中に入っているのでしょ?」
「ああ。上手く文章で表せられないけど、頭の中では出来てるよ」
「なら、その妄想……想像通りに校内を歩いて、そこで何をするかメモしながら探索しましょう」
「あの、さっき妄想……とか言わなかった?」
「さっさと行くわよ」
「あ、あれ?」
巽さんの背を追いかけ、秀は困った表情でいた。
大まかに良さそうな場所を選び、ここで何をする、ここで事件を起こす、ここであれをするなど、二人で検討し合う。
ん? 一人足りないって? 葵なら保健室に訪れたときベッドでお昼寝だとよ。
まったくだぜ。
それからは巽さんと二人での行動だ。
下校時刻になると、俺らは生徒会室に戻った。
「それじゃ、明日も続きをしましょう」
「おう。ありがとな」
「いいえ。それにしても……」
「ん?」
巽はそっと笑みを浮かべて秀を見る。
「一年生の頃はほんとにやんちゃで、遊ぶことしか考えてないだろうと思っていた人が、まさかこんなことをして生徒を引っ張るなんて、思いもしなかったわ」
「そ、そうかな。俺けっこうすごい?」
「ええ。相変わらずおもしろい人だわ」
巽は資料を持ってドアに近づく。
「頑張ってね、プロデューサー」
巽は去り際にそう言い残し帰っていった。
俺は少し満悦になり、椅子に座る。
確かに、昔の俺を考えたら、それはそれは今の現状はありえないほどだな。
一年の頃はそれはバカなことばかりで、いろんな人を騒がせたな。
おかげで学年内では知らない人はいないほど有名になったけど。
ま、おかげで知り合いもたくさんできたし終わりよければすべてよしだろ。
俺はそろそろバイトに行こうと思い席を立つ。
そのときだ。
「うっ」
俺はいきなりふらつきはじめ、机に手置いて頭を抑える。
なんだ、今の。疲れでも溜まっているのか?
秀はそのまま気にせず、バイト先へと向かった。