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言わなくても伝わるから

「男女間の友情って成立すると思う?」 

「しない」

 テーブルの向かい側に座った友人の真面目な問いに、すっぱりと否定する。そんな私の答えは彼女のお気には召さなかったようだ。彼女はちょっと不満そうに「そうかなぁ」なんてつぶやいている。

「そんなの、千華に聞いても無駄」

 どういう意味よ、という気持ちを込めて、隣でコーヒーを飲む有子を少し睨む。

 睨まれた友人はちょっと肩をすくめてみせる。

「だって、千華が言っても全然説得力ないわよ」

「なんでよ」

「男女間の友情がないって言うならさ、千華とあの彼との関係は何なのよ?恋人でもない、同僚でもない。おまけに友達でもない?」

 痛いところを突かれた、と言葉に詰まる私を見て、有子は「ほらね」と笑った。

 この友人たちは私がユノセと度々飲みに行くことを知っている数少ない人たちだ。同僚にむやみに話して噂になるのもいやだったし、特に仲のいい友人以外には話すのをためらってしまう。

 別に悪いことをしてるわけでもないけれど。話しにくいというか、毎回のように恋愛感情があるんじゃないかとしつこく聞かれるのも勘弁だから。その点、この2人はそういうのを嫌がる私の性格をよく知っているので問題ない。

「そうよぉ。ゆのせさんだっけ?彼と友達なら、友情は成立するじゃないのっ!」 

 向かい側でオレンジジュースのストローをもてあそびながら、光がうなづく。

「友達だからって、友情があるとは限らないでしょ」

 世間には、友情のない表面上の友達だって存在する。光はそんな友達を作らないかもしれないけど、人間関係なんてそんなものだと思う。

「えー!それは友達って言わないんじゃないのぉ?」

「私はそれでも友達って言うの」

「ずるいっ!」

 そんな不平もさらっと聞き流すふりをしつつ、紅茶を一口。

 ずるいのは分かってる。でも友達っていう言葉でしか表せないんだもの。仕方ないでしょ?だからって私たちの間に、友情っていうものがあるのかどうかも不明なんだから。

「じゃあ、有子は?成立すると思う?」

 今度は矛先を有子に向ける。

「私は、そうねぇ、少ないけれどあると思うわ」

「……ほんと?」

「それに私は、一般的な友情じゃなくて何か違う形の友情で結ばれる友達ってのもアリだと思うけど?それが恋心であれ、尊敬であれね?」

 有子が意味ありげに微笑む。

「で?光には、恋心という友情を抱いてる男友達がいるのね?」

 私はにやりとからかいの眼差しを光に向けて。

 光は案の定、「えっ」と顔を少し赤くさせる。

「別にまだそんなんじゃないのよっ!」 

 必死で弁解する光を見ながら、話題を変えることに成功したんだとちょっとほっとした。 

 


××××××××××



 月曜日。

 週の始まりだというのに、私にとって最悪の一日となった。

 取引先に渡すべき書類にミスがあって、私の直接のミスではなかったんだけど気づかなかった私にも責任があった。かろうじて残業にはならなかったけど、今日はその処理に追われて大騒ぎだったのだ。

 事情を知ってる同僚の前で落ち込んだり愚痴ったりするのもアリだけど、そうするとさらに落ち込むことは必至で。さっさと忘れる派の私としては避けたいところ。でも、ひとりで落ち込むのも性に合わない。

 だから、こういう日は会社でのことを何も知らない人と楽しく飲みに行くに限る。会社のことををひととき忘れて楽しんで、そうしたら次の日また仕事を頑張れると思うから。

 誰と飲みに行ったら、気持ちが軽くなる?

 そう考えて真っ先に浮かんだのは、ユノセだった。 

 

 『今日、どう?』


 いつもと同じように素っ気無いメールを送る。いつもと少しだけ違うのは、珍しく私から誘うということ。

 すぐに返ってきた返事は『無理』で、その後に『今日は残業』とだけ書かれていた。

 そういえばこの前も忙しいって言ってたなぁと納得しながらも、あきらめきれない。

 他にいい相手が見つからないのもあるし、どうしてもユノセがいいっていう気持ちも強かった。

 

 『それでも、待ってる』


 断られるの覚悟で、そうメールした。

 ユノセからの返事は来ない。

 


 

 仕事を終わらせて、いつものベンチに座ってユノセを待つ。

「星、きれーい」

 夜風が涼しくて、心地いい。

 残業ってことは、9時くらいになるのかなぁ。もしかしたら、もっと遅いかもね。

 まぁ、気長に待とうかな。


 いつの間にか、同じように元彼を待っていた頃のことを思い出していた。

 あの時は、彼が離れていくことへの焦燥感と、もう戻れないって認めたくないという気持ちでいっぱいで、彼をひたすら待っていた時間も今思えば私にとって辛いものでしかなかった。

 でもこうして、ユノセを待っている時間はなんだかとても穏やかで。絶対に来てくれるって無条件に信じている自分がいることに驚く。

 なんだか不思議。


「おい」

「わ!……びっくりした」

 気づかないうちにユノセがうしろにいたらしい。

「終わるの早かったね」

「まぁな」

 時計を見ると、まだ7時半を過ぎたところ。

 でもユノセはいつもと変わらない余裕の表情で、疲れはまったく見えない。さすがだなって思いつつ、申し訳なく感じる。 

「無理言ってごめんね」

「まぁ、いいけど。それよりお前だろ。何かあった?」

「え?」

 さりげなく核心を突いてくるユノセに驚いた。

「お前から誘ってくるなんて珍しいからさ。仕事でミスでもしたのかと思って」

  ほぼ正解な推測に、実はエスパーか?なんて馬鹿なことまで考えてしまった。

 




 ユノセと私の間に何もないとは思わないし、思いたくない。

 私たちを結ぶモノって何?


 言わなくても伝わるから。

 そういう信頼が私たちの”友情の形”と言えるのかもしれない、と妙に納得できた。

 ユノセも、私を信頼してくれているだろうか。




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