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私たちのあいまいな関係

とりあえず書けているところまでアップしました。

これから順次改稿していく予定です。ご了承ください。

 『仕事早く終わりそう』


 定時間近に届いた、絵文字ひとつない素っ気無いメール。他の人なら「だから何?」と言いたくなるような内容。送信者ユノセマサヤ。それはいつものこと。

 もちろん慣れている私は、これが飲みに行こうと誘うものだとすぐに理解する。

 まるで流れ作業のように、すばやく『了解』と打ち込んで返信ボタンを押した。

 こちらも負けないくらい素っ気無いメールなところが、私たちの関係を表しているようでちょっと笑えた。


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 いつも通り定時に会社を出ると、暗黙の了解で待ち合わせ場所になっているベンチへと向かう。

 

 オフィス街のビルとビルとの間にひっそりと作られた緑の空間。公園とも呼べないくらいの狭さのその場所には、少しでも疲れた人々を癒そうと、小さな花壇が作られ木が植えられている。

 その横にふたつだけ置かれたベンチは、昼時は休憩中のOLたちで賑わうのかもしれない。

 しかし、誰もが自宅やデートへと急ぐこの時間には見向きもされないらしく、あいかわらず人もいなかった。

 デートの待ち合わせには地味すぎるかもしれないが、私たちの待ち合わせ場所としては十分だ。


 ベンチに座って、仕事の疲れを吐き出すかのように大きく息を吐いて、夜空を見上げて、そしてユノセを待つ。

 こうやってユノセと飲みに行くのは何度目だろう。出会ってからそんなに経ってないはずなのに、最近はどの友達よりもユノセと会うことのほうが多いなんて不思議。


 お腹すいた。

 早く終わるなんて言うわりには遅い。

 これで、急に残業になりましたーなんてナシだからね。

 そんなこと言ったら、絶対高いもの奢らせてやる。 


 そんなことを思いながらも、別に怒りの感情を抱くような仲でもなく。とりあえずユノセが来たら何を食べに行こうかと思考をめぐらせる。中華やイタリアンなんておしゃれなお店はもちろん論外。ムードも何もない安くておいしい居酒屋が私たちの定番。


「悪い。遅くなった」

 ちっとも悪いって顔をせずにユノセは現れた。もう少し申し訳なさそうな顔をしろ。そんな心の声が聞こえたのか、ユノセは軽く笑う。言い訳する気もないらしい。いつものことだけど。

「で、どこ行く?お腹すいたんだけど」

 私は腰を上げて、大きく伸びをする。

「串焼きは?いつもの店。久しぶりだろ?」 

「ふぅん。いいね」

 素っ気無い返事は肯定。

 そのお店は、小さいわりに串焼きがおいしい居酒屋。串焼き以外もなかなかおいしくて雰囲気もいいから、このお店をユノセと偶然見つけて以来、なにかとそこに行くことが多い。

 あぁ、あの店の甘いだし巻きたまごが食べたくなってきた。

「――今、だし巻きたまご食べたいとか思ってただろ?分かりやす過ぎ」

 ユノセがからかうように笑いながら言う。何がおかしいのよ。ちょっと睨んでやると、楽しそうな笑い声が返ってくる。こんなやりとりも、いつものこと。




「最近、仕事忙しいみたいね」

 念願のだし巻きたまごを頬張り、日本酒をひとくち。あぁ、幸せ。

 何気に出した話題だったのに、ユノセは苦く笑う。

「……まぁな」

「ここ二週間くらい、メール来なかったから。珍しいと思って」

 私たちの間でメールといえば、つまり飲みの誘いを意味する。それ以外でメールすることなんて皆無だから。

「あ、もしかしてデートで忙しかった?」

「お前なぁ」 

 にやりとからかえば、ユノセからは呆れた視線。

 ユノセに本当に恋人がいるのかは知らないけど。それなりに整った顔とシャレの通じる気さくな性格から考えれば、たぶんモテるほうだと思う。

 恋人からすれば、私の存在は嫌なものなのかもしれない。そりゃそうだよね。二週間に一回、多くて三回もふたりで飲みに行く女の存在なんて。まぁ、その辺の兼ね合いは当事者のユノセの問題だから、口出す気もないけど。

「最後の串焼き、もーらった」

 最後の一本を遠慮なく頂く。

「おい」

「ふふふ、早い者勝ちよ」

 堂々と言い放つ。

 女友達との間ではなかなかこうはいかない。一応、最後だけど食べてもいい?ってさりげなく聞いてから、少し遠慮しつつ食べなくてはいけない。

 気兼ねしない。それがユノセと飲んで楽なところ。

「やっぱ、チカと来るのが一番いいな」

「は?どうしたのよ、突然」  

「お互い遠慮なしだからさ。気楽だろ?」 

 そう言って笑ったユノセも、きっと私と同じことを感じてる。

 とりとめのない話はたくさんするけど、深いプライベートの話はほとんどしない。異性でもなく、同僚でもない、限りなく近いけど他人。そんな気楽な関係。




 どんな関係かと問われれば、たぶん「友達」だと思う。たぶんってところが私たちらしいけど。でも同僚に聞かれたら、私はきっとそう答えるんだろうな。

 「友達」っていう言葉は、すごく便利だと思う。ちょっとの顔見知りでも「友達」で通じるし、長年親しくしている人でも「友達」って言える。とりあえず「友達」って言っておけば、どんな相手でも当たり障りがない。

 範囲が広くて、そのぶんかなりあいまいな言葉。

 

 そんなあいまいな言葉でしか表現できない私たちの関係は、きっと、あいまい。

 



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