TIMES
ジータは寝ようと目を閉じてスグに異変が起きた。
「ドンドン!ドンドン!」
ジータはベッドから跳ね上がるように体を起こし、時計を見た。
AM4:28分。
ジータはしばらく動けずにいた。
「ドンドン!ドンドン!」
それでも、玄関の扉を叩く音が聞こえる。
「誰だ、こんな時間に。」
恐怖からか、ジータは自分一人が聞こえる声の大きさで喋っていた。
「ピンポーン!」
チャイムの音まで聞こえてきた。
ジータは台所に置いてある包丁を手に取り、玄関へと向かった。
ゆっくりと足音をたてずに、薄明かりの中、玄関へと向かう。
「ドンドン!ドンドン!」
玄関の扉を叩く音はまだ聞こえてくる。
「誰だ!こんな時間に!」
「・・・・・」
何も返事がない。
ジータは扉の覗き穴から玄関先を見た。
「嘘だ…。こんな事あるはずがない…」
思わずジータは手に握っていた包丁を落としてしまった。
ジータは鍵をあけ、玄関の扉を開けた。
「兄貴!何で早く扉を開けてくんないんだよ!」
そこに立っていたのは紛れもなく弟のキーファだった。
部屋の中に入っていくキーファをジータは目で追う事しかできなかった。
「兄貴。何そんなとこでつったんてんだよ。」
キーファは玄関先で呆然とするジータを見て不思議そうな目をしていた。
キーファは兄のジータと違い、活発な性格をしていた。よく街中で喧嘩をしたり、酒を飲みにいったり、女遊びやギャンブル、マフィアとの付き合いもあった。
しかし、兄貴のジータには何一つ迷惑をかけない良い弟でもあった。
「何してんだよ!弟が遊びに来たんだぜ!コーヒー位だしてくれよ!」
「…あぁ…」
あまりの出来事にジータはしばらく理解できなかった。
キーファは間違いなく、事故で死んだ。
ジータは鮮明に覚えていた。
警察から電話がかかり、弟の名前を告げられる。
話は事故を起こし、亡くなったという内容だった。
病院の名前を教えてもらい、すぐへ駆けつけたが、そこには変わり果てたキーファの姿が横たわっていた。あの時の絶望感は未だに忘れられないでいた。
世界でたった一人になった気持ちだった。
自分の事を子供の頃から理解してくれていた、たった一人の弟の死は、ジータの精神までも破壊したのだ。
その事故に合い死んだはずの弟が、椅子に座り、テレビを見ている。
ジータはキーファの言われた通りコーヒーを作りに台所へと向かった。
「兄貴、悪いなこんな朝方に来て。」
「いや、いいんだ。」
「どうしたんだよ?兄貴、様子が変だぞ。」
「いや、別にどうもしてない。」
「何だよ!悩みでもあるのか?俺が悩み聞こうか?」
常識はずれの弟ではあったが兄貴のジータには優しい弟だった。
コーヒーを入れ終わり、テーブルの上に2つ置いた。
「キーファ、こんな時間にどうしたんだ?」
ジータはキーファへ質問した。
「あぁ。あんまり夜遊びが酷すぎるっていってオヤジとオフクロに追い出されたよ。酷い両親を持ったもんだよ。」
キーファはコーヒーを一口飲むと、苦い顔をした。
「兄貴、これブラックだよ。」
「あぁ悪いな。」
ジータは台所に砂糖を取りに戻った。
キーファはブラックが飲めないのを忘れていた。
前までキーファはよくジータは家へ遊びに来ていた。
コーヒーには砂糖を三杯入れる。
キーファのコーヒーは少し甘い味だった。
しかし、ジータはもう1つ気になることがあった。
"オヤジとオフクロに追い出されたよ" と言うキーファの言葉だ。
ジータは産まれて一度も両親の顔を見たことがない。
キーファを産んでスグに自動車事故に合い、赤ん坊のジータとキーファを残し、両親は他界していた。
「キーファ。1つ聞いていいか?」
「どうしたんだよ?」
「何でお前が生きてるんだ?」
「はぁ?何言ってんだよいきなり。」
「お前は去年、事故で死んだんだ…。」
「兄貴どうしたんだよ急に。俺は生きてるよ。」
「そんなはずない…俺は見たんだ。お前の亡骸を。俺はあの時に感じたんだ。世界で一人になった感覚を…」
「そう言うことかよ!」
キーファはテーブルを叩き立ち上がった。
「そう言うことなら早く言えばいいだろ!」
「何が!?」
突然、キーファは怒り出したことにジータは動揺していた。
「どーせオヤジとオフクロに頼まれたんだろ!"キーファが来たら家に入れないでくれ"とか、"甘やかさないでくれ"って!」
「違う!そんなつもりはない!」
「じゃあなんだよ!いきなり!"お前は去年死んだ"って?追い出したいなら"出ていけ!"って言えばいいだろ!」
「そう言うことじゃないんだ!」
「じゃあなんだよ!」
ジータはどう説明すれば良いのか分からなかった。
「とりあえずキーファ落ちつけ!」
ジータは頭をかきむしり、部屋の中をグルグルと回りはじめた。
「なぁ!兄貴!どうしちまったんだよ!何か変だぞ?」
「分かった、分かった。全部話すよ!でも、1つだけ約束してくれ。」
「約束?どんな約束だ?」
「今から話すことは全て真実だ。いや、俺の中だけかもしれないが、俺が経験してきた人生を話す!」
「それって説教するってこと?」
「そうじゃない!俺の体験した人生と、目の前にある映像が違いすぎるんだ!」
「・・・・・」
キーファは呆然としていた。
ジータの言ってる事が理解できないでいた。
「いいか?よく聞いてくれ。悪気は無いし、ふざけてるつもりでもない。」
「分かったよ。話してくれ。」
キーファは大人しくジータの話を聞いた。
このあと、真実と幻想の狭間で揺れ動くジータは思いもよらない言葉をキーファから告げられるのであった。