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そのオネェ、異世界に降り立つ  作者: Saaaya


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第12話:よろず屋の朝は、新たな厄介事と共に


 王宮からの美味すぎる誘いを蹴り飛ばし、いつも通りの定時退勤を決めてから一夜。

 明けた翌朝、俺の『よろず屋オネェ』は、見事に復活を遂げていた


 ――いや、復活させたのは、朝一番から叩き起こされた俺たちなんだけどな。


 午前8時55分。

 開店前の静かな店内で、俺は新しくなった特注看板(前作よりさらにピンク度3割増しのネオンサイン)の電気系統を最終チェックしていた。ガイルが朝一番で資材の買い出しに走ってくれたおかげで、看板は朝の光を浴びて神々しくギラついている。


「配線はこれで大丈夫か? レンちゃんどののお手を煩わせぬよう、完璧に仕上げたつもりだが!」

 ガイルが爽やかに太い腕を鳴らす。俺は気だるげにタバコの煙を吐き出しながら、冷徹な目でそれを見上げた。


「あぁ、問題ねぇよガイル。上出来だ。……おいニア、開店5分前だ。表の様子はどうだ?」

「ボス、もう変なのが並んでるよ。しかも結構な大物がね」

 ニアが呆れたように親指で外を指差す。カウンターの隅ではルミナが「ふわぁ……眠い……朝からピンクの光が眩しすぎるわよ……」とアクビをしていた。


 ピピッ、ピピッ。

 午前9時ちょうど。腕時計のアラームが鳴る。


 俺はタバコを灰皿でもみ消し、前髪を乱暴に上げると、ピンクのシュシュをバチィィン!とセットした。

 一瞬で目つきが華やかになり、オネェのオーラが全開になる。さぁ、営業時間オンモードスタートよ!


「はぁーい、お待たせ! いらっしゃい! 今日の一番乗りはどんなお困りかしら……って、あらやだ」


 入ってきたのは、仕立ての良いスーツを泥だらけにした、これまた見事なエリート風の青年。

 ……って、よく見たら数日前にハーブローションを抱えて逃げ帰った、王宮財務省の眼鏡監査官、レイモンドじゃないの!


「お、おい……! 例の、あの頭皮ローションを……もう一本、いや、売れるだけ私に譲れ!」

 レイモンドは眼鏡をガタガタと震わせながら、カウンターに金貨の袋をドサッと置いた。見れば、心なしか頭頂部の髪がいつもよりフワッとしてツヤが出ている気がするわね。


「あらぁ、レイモンド! 効果があったみたいでアタシも嬉しいわ♡ でもねぇ、あれは希少な野草をアタシの美意識で黄金比率ブレンドした一点モノなの。そんなにガツガツ欲張ると、逆に毛根がびっくりして抜けちゃうわよ?」


「くっ……! なら、裏の畑の利権でもなんでも王宮の力で手配してやる! だから……だから私をこれ以上、深夜の書類仕事のストレスでハゲさせるなーッ!」

 現役のエリート監査官が、よろず屋のカウンターでまさかの号泣。

 物陰からニアが「……ボス、王宮のストレスって本当にブラックだね。あのハーブ、もっと量産したら国家予算レベルで儲かるんじゃない?」と目を輝かせ、ルミナが「ハゲの救済とか、もはや神の奇跡を超えてるわね」とタルトを齧りながら呟く。


「はいはい、分かったわよ。じゃあレイモンド、特別に次のロットを取り置きしておいてあげるから、泣くのをおやめなさい。男の涙は、ベッドの上だけにしときなさい?」


「な……ッ!? き、貴様……っ! あっ、ありがとう……!」

 レイモンドは顔を真っ赤にして、取り置きの領収書を大事そうに懐へしまうと、コソコソと裏口から帰っていったわ。相変わらず忙しい男ね。


 ◇ ◇ ◇


 そんなコミカルな朝のひと幕が終わり、お昼過ぎ。

 今度は、仕込みの合間に店内の荷物を整理していた時のこと。


 トントン、と裏口のドアが控えめに叩かれた。

 ニアがすっとナイフに手をかけ、ガイルが身構える。アタシが「はぁーい?」と扉を開けると、そこには大きめのフードを深く被った、小柄な人物が立っていた。


「……あの、お姉様から、ここならどんな厄介事も、スマートに解決してくれると聞いて……」


 顔を上げたのは、まだ幼さの残る、だけど気品に満ち溢れた少年。

その瞳の色は、昨日お茶を飲みに来たエリーちゃん――王女様と全く同じ、綺麗なサファイアブルーだった。


「(……あらやだ。エリーちゃんが『お姉様』って呼んでるアタシのところに、この瞳の男の子が来たってことは……)」


 アタシはフッと口角を上げ、腕時計に目をやった。

 現在の時刻、午後14時30分。

 定時まで、あと3時間30分。


「いいわよ、可愛い坊や。アタシの営業時間は18時まで。それまでなら、どんな泥沼のトラブルだって、アタシの美意識で綺麗に『仕分け』してあげるわ。……さぁ、よろず屋オネェに、あんたの厄介事を話しなさい?」


 少年の背後に、王宮のさらに深い闇の気配を感じながらも、アタシは極上の営業スマイルで彼を店内に迎え入れるのだった。


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