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1 タイムスリップ

私は大阪府堺市の女子高生、朝比奈彩羽あさひなあやは。去年の進路選択では文系.....選択科目は日本史を選択した。まあ、文系を選択した理由なんて、数学が出来なかっただけなんだけど。なんやかんや進級したある日、私は交通事故に巻き込まれて....過去にタイムスリップしちゃった!?


そんなこんなで目覚めたら堺の町っぽくて、今年は大永(だいえい)7年(1527)らしい。帰り方も当然わからず、道端で彷徨っていた私を拾ってくれたのは、同い年くらいのひ弱そうな武士、足利義維あしかがよしつなさん。一応、堺政権のトップ「堺公方(さかいくぼう)」らしいんだけど……周りのメンツが濃すぎて、命令を聞いてくれないらしい。そんな毎日に嫌気がさして、地元の阿波国に帰ろうと思ってたところなんだって。


話を聞き終わったら彼の口から衝撃の一言。「あの、元の時代に帰れないんだったらさ.....代わりにこの私、足利義維をやってくれない?私はあなたの影に隠れておくから」だって!?


あまりに荒唐無稽な内容で最初は拒否しようと思ったけど、彼は「お願いだ。私はもう、あの丹波衆の柳本とかいう粗暴な男や、思春期全開の晴元に振り回されるのは限界なんだ。側近の奉行衆(ぶぎょうしゅう)奉公衆(ほうこうしゅう)と女房たちには話を通しておくから。私は地味キャラだったし、たとえ公家の訪問があっても常に側近が対応していたから、バレないバレない」


私は、「えー....まあ、現代に帰りたいと思っても今の平民のままじゃどうすることも出来ないし.....良いですよ」


ということで、彼の身分をお借りして情報収集することにした。昔なら、こういう偉い身分の方が不思議な情報も入ってきやすいだろう。


そして、彼は自邸に帰ると早速大広間に家臣を集めて評議を開いた。私はタイムスリップした制服姿のまま、彼の隣に座らされた。家臣の皆さんは何やら珍しいものでも見るかのように私をジロジロ見ている。重苦しい沈黙が続くなか、彼が口を開いた。


「私はもう限界だ。今日からこの方に足利義維を名乗ってもらうことにした。私は雑用でもなんでもするゆえ、職務を投げ出すことを許してほしい。今日から『お掃除係のヨシ君』として生きていくから。.....じゃ、後のことはよろしく」


俯いた様子で彼は今までの思いを吐き出すかのように早口で言い切った。最初に話していた時の感じからしても大人しめの部類に入るだろうと思われるので、今まで公方という大役と周囲の期待に押しつぶされそうになっていたのだろう。


家臣一同はしばらく呆気に取られていたが、案の定一斉に驚きの声が上がった。


「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」


そりゃ、そういう反応になるよね.....と思いつつ、とりあえず自分も自己紹介しておく。


「私、彩羽と言います.....義維様とは同い年らしいので、その.....よろしくお願いします?」


すると、何やら私よりも若そうな、それでいて落ち着きのある雰囲気の、しかしまだあどけなさの残っている少年が、何か聞きたそうにチラチラと私の方を見てくるので、


「あぁ、何か質問があれば遠慮なくどうぞ?」


と、投げやりな調子で言うと恐る恐るといった風に彼は口を開いた。


「では、申し上げます。私は、細川京兆家(ほそかわけいちょうけ)の晴元と申します。その、恐れながら、彩羽.....殿はどう見ても男性.....には見えないのですが.....今後の外部への対応はいかがなされるおつもりでしょうか」


「あー、やっぱり気づいちゃいますよねー。でも元・公方様は、外部への対応なら側近たちに任せているから大丈夫って言ってたし、良いんじゃないんですか?それともやっぱり、女が領主やるのは良くない.....?」


「はい、うーーーーん、ぶっちゃけて言いますとやはり将軍としてのコンセプトが崩壊してます! 京の将軍様.....あ、御諱(おいみな)義晴(よしはる)様と仰るのですが.....に対抗する『正統な後継者』が、いきなり女子(おなご)にチェンジして、しかも本人が雑用係になったって、国人衆やお公家様への説明がつかないですよ!」


なんだ、この時代、この見た目でも今っぽい言葉を話すんかい。


そう思ったのも束の間、晴元が頭を抱えている。隣にいる本物の公方様に聞いた話だと、この堺政権を軍事的に支える大名の一角で、家柄も良くて成人したら管領(かんれい)というポストに就けるのだそうだ。見た目はまだまだ幼いように見えるが、この前の桂川の戦いでは天才的な統率力で勝利に導いたらしい。


そんな彼がパニックになっていると、その背後からスッと手を挙げる影が差した。


「私もよろしいでしょうか。義維様の奉行衆筆頭の荒川維国(あらかわつなくに)と申します。……彩羽様、そのお姿、そしてその言葉遣い。あまりに斬新すぎて、逆に『神の啓示』か何かに見えてきました」


進み出てきた彼は公方様の書類執務を処理する奉行衆という役職の一人らしい。その横にいる斎藤時基(さいとうときもと)という人は奉公衆という将軍直属の戦力だそうだ。彼も深い隈の浮いた目でじっと私を見つめている。


「義維様のご交代、分かりました。我ら直臣はどのような方が公方様になられようとも、お支えするまで。この命尽きるまでお仕えいたしまする。それに、義維様は亡くなった訳ではないのだから、表面上は何も問題はございませぬぞ。そうでござろう、皆様方」


そう維国が言うと、奉行人や奉公衆の方々は納得したように平伏した。残る問題は外様の軍事顧問たちだ。腕組みをしてこちらを睨んでいる柳本賢治と、その横でニコニコ微笑んでいるのは人一倍豪華な服装の波多野元清である。彼らは公方様に本心から臣従を誓っている訳ではなく、細川高国という彼らの主君に対抗するために担いでるに過ぎないと義維から聞いていた。


「義維様を頂いて朽木の将軍と憎き高国を倒すという方針に異論はござらぬ。それは荒川殿が仰せになったように、誰が義維様であっても構わない訳だが..... 問題は、彩羽殿と言ったか。あんたに我らのための神輿になる覚悟があるかという話だ。どうなのだ?」


「もちろん!私は京に上洛して将軍になるまで諦めない。たとえ、向こうが10倍以上の強敵だとしても!」


最初はそんな戦うつもりは微塵もなかった。ただ、せっかく転生?したのだから、思いっきりこの時代を満喫してみようと思った。私の剣幕に押されたのか、彼も先ほどまでの険しい顔を綻ばせ、


「ふむ。よくぞ申された!我ら外様も彩羽殿.....もとい、公方様を信じ、高国めを滅ぼそうぞ!」


「お〜〜!!!!!!!!」


柳本賢治が賛成したことで、管領の晴元もため息をつき、仕方ないですねと言った風に肩をすくめた。これでこの場は満場一致で支持にまとまった。ようやく、私を将軍にプロデュースしてくれるはず.....?


「よ〜し、じゃあ皆の衆の意見がまとまったことだし、打倒将軍目指して頑張ろ〜!」


「では、まずは彩羽殿を公方様に見えるように装いを整えなくては参りませんな。」


「ちょっと、私の服引っ張らないでよ!離して〜〜〜〜〜!」


こうして、わちゃわちゃした、賑やかで楽しい戦国ライフが、幕を開けたのであった。


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