異世界でも、お金は全てを解決するのですわ!
突然ですが転生しました。
にわかには信じがたいことでしょうが、冗談じゃなくってよ。
わたくし前世は【地球】という惑星にある【日本】という国に生きる男性でしたの。
そして何やかんやあって死にましたわ。
穏やかな死因じゃなくってよ。思い出すだけで腸煮えくり返るような死に様でしたわ。
平たく言うと妻が知らないうちに多額の借金をこさえた挙げ句、間男と逃げましたの。株とオンラインカジノでしたわぁ。ガッデム。
そしてわたくしは借金地獄でトリプルワークして、栄養失調と過労のコンボで死んだのですわ。
ね、他人事だとしても腹が立ちますでしょ。
「それが今や貴族のお嬢様。勝ち確ですわー」
性別には目を瞑ることにします。
お金に困って死んだことを思えば、立派なお屋敷で使用人に傅かれる生活は天国でしてよ。
転生直後は前世と違って人に守られるのが嬉しくて、よく泣いたものです。オギャア、オギャアと。
四十年近く男として生きたおかげで、まだ若干違和感がありますが、わたくし第二の人生に感謝しておりますの。
この地に根を張って貴婦人として生きるために、こうして普段からお嬢様らしい言葉遣いを徹底しているのですわ。なまじ男の意識が残っているために、ナチュラルな女性の話し言葉がわからなくて少々不自然ですが、家庭教師にしか指摘されたことはなくってよ。
ここら一帯では、そこそこ有名な権力者の娘ですものね。おほほほほ。
*
科学の大勝利だった地球とは違い、この世界は錬金術と魔法が半々ですわ。
貴族という単語からわかる通り封建社会で、地球の歴史だと産業革命前といった文明レベルですが、魔法のおかげで衛生環境はまずまずでしてよ。
トイレの後には必ず手洗い、食後は歯磨き、店に出入りする度に手を消毒していた日本人の感性で、ガチモンの中世ヨーロッパな世界に放り込まれたら心が死んでましたわぁ。
ガス代払えずお風呂が沸かせなくなっても、毎日電気ケトルで沸かしたお湯で頭を洗って、体を拭いていたくらい、わたくし綺麗好きでしてよ。
異世界にも女としての人生にも適応して、優雅なお貴族ライフを送っていましたが、平和の終わりというのはいつも突然やってくるのですわ。
「オーレリア。お前の婚約だが、……白紙になった」
「へ?」
あら、今のは反応はいけませんでしたわね。お嬢様失格でしてよ。
わたくしは花も恥じらう十五歳の乙女。蝶よ花よと育てられ、お家のために嫁ぐ定めの貴族令嬢。
「その、スチュワート殿は別の家と縁を結ぶことになったそうだ」
「どういうことですの?」
わたくしは頭に「元」がついた婚約者の顔を思い浮かべました。
スチュワート様は、若干お鼻と顎と目元が個性的な顔立ちの二才年上の男性です。
わたくしも前世はイケメンとは言い難かったので、冴えない男の気持ちはわかります。だから外見よりも内面や将来性を評価するようにしております。
その点でスチュワート様は、まあまあでしたわ。
容姿のおかげで女っ気がなく、わたくしが主導権を握りやすいのが最大の魅力でした。
ええ。この国、女性の社会進出を許さないほどではありませんが、女性の立場はあまり強くなくってよ。
どうせ政略結婚する羽目になるなら、好き勝手できそうな嫁ぎ先を求めるのは当然でしょう。
亭主元気で留守がいい。全くもってその通りですわ。
我が家には後継ぎの弟がおりますので、わたくしが嫁に出されるのは確定。
スチュワート様と結婚したら、彼が継ぐ領地で伯爵夫人として采配を振るう予定でしたの。
広い屋敷ですので、同居したところで義両親と顔を合わせる機会はそこまで多くなくてよ。
スチュワート様と義父様は一緒に仕事をすることが多々あるでしょうが、わたくしと義母様はそれぞれ同年代と交流するので、出席するお茶会などは滅多に被りませんの。
これもある種の金持ち喧嘩せずかしら。小さなお家で二世帯暮らすなんて、よっぽど相性が良くないと地獄でしてよ。
やはりお金! お金は全てを解決するのですわ!
「……彼には秘密の恋人がいたらしい」
「あら。もしかして結婚前の火遊びが、大火事になってしまわれたのかしら」
「ああ。町娘だと思って市井で囲っていた女が、実は子爵家の一人娘だったそうだ」
「あらあら、まあまあ。してやられましたわね」
ちゃんとした家の令嬢が町娘に間違われることなどありません。おおかた没落貴族の娘です。
親の命令か、本人の野心か。はたまたその両方か。既成事実を作って、なんなら子供まで作った上で責任を取るよう迫ったのでしょう。
平民相手なら権力でどうにかできたでしょうが、相手は貴族。
たとえ借金抱えた貧乏貴族だろうと、相手は国王陛下から与えられた爵位を持っているのです。計画的な行いなら、スチュワート様が油断している隙に色々と準備したに違いありません。
今からひっくり返すのは無理ですわね。
というか労力に成果が見合いませんわ。わたくし前世は伴侶に裏切られて死んでますの。
わたくしと婚約していながら、女囲っていたとかクソですわ。それに親に養われてる分際で生意気でしてよ。
言いなりにできそうなのが魅力だったのに、わたくしを軽んじる行動をするなんてがっかりですわ。
「かしこまりました。矜持は傷付きましたが、未練はございません。というか、簡単に嵌められるような男だと結婚前にわかって命拾いしましたわ」
ええ。前世の二の舞は真っ平ごめんですもの。
結婚後に女に騙されて金を巻き上げられるとか笑えませんわ。
「まあ、なんだ。その。お前が気にしないのであれば良かった」
気まずそうな顔をするお父様に、はっきりと「スチュワート様のことは、もう終わったことです。あちらが原因の破談なので、きっちり損害賠償請求してくださいまし」と告げました。
乙女の数年は安くなくってよ!
「……いささか逞しすぎる気もするが、そんなお前ならこの先も大丈夫だろうな」
「あらお父様、もう次のお相手が決まっていますの?」
前世ではセールで掘り出し物をゲットするのが好きでしたわ。
誰も価値に気付いていない、お買い得な物件が残っていたのなら嬉しい限りですわね。
「いや。探してはいるが正直に言って厳しい。まともな人物は既に相手がいる」
「……」
「しっかりしているお前なら、自力で良い相手を見つけられるだろう」
お父様は何故か良いことを言った風な表情です。
もしかして恋愛結婚させてやるから感謝しろとでも思っているのかしら?
全然嬉しくありませんわぁ。
というかわたくし、男に性的な魅力を感じたことないのですわ。
女として十数年生きたおかげで、男と結婚する忌避感はなくなりましたが、恋をするには至っていなくてよ。
「お気遣いはありがたいのですが、我が家のために利となる相手に嫁ぎたく存じます。お父様が最良と思われる相手を見つけてくださいまし」
「家の繁栄と自分の幸せ。オーレリアなら、賢い選択をするだろう」
「いえいえ。貴族の結婚は家同士の問題。両親が認める相手でないと。というわけで、お父様が良き方を見つけてくださいまし」
「この際身分や、家の利益は二の次で構わん。行き遅れる前に幸せになれる相手を探せ」
「無理ですわ!」
この男、親の義務を放棄しましたわー!
優良物件も普通の物件も軒並み売却済みだったから、娘に自分の行き先を探させるつもりですわね!
そうは問屋が卸しませんことよ!
「淑女として浮ついた心は持たないようにしてきましたもの。男漁りなんて、とてもできませんわー!」
「そこまでは言っておらん! 伯爵家の娘が恋愛結婚できるなんて、滅多にないことなんだぞ。ここは喜ぶところだろう」
「決めつけないでくださいまし! 恋愛なんて無理無理無理ですわ!」
「どれだけ無理なんだ。お前こそ決めつけるんじゃない。まだ試してもいないだろうが」
「こうしている間にも適齢期は過ぎていくのですわ。時間を無駄にしないために、親として責任を持って素敵な旦那様を探してきてくださいませ!」
はっきり言い切ると、お父様は仕方ないとばかりに溜め息をつきました。
やれやれみたいな態度にイラっとしますわ。
念入りに手入れされたそのお髭をむしってやりたいですわぁ。
「折角好きにさせてやるというのに……」
「ちょっとお待ちになって」
お父様の言葉に、わたくし気付いてしまいました。
「わたくしが家に残ると、弟の結婚に差し障る。わたくしがつつがなく家を出るなら、家の利益にならない相手でも構わない――そうですわね」
「そこまでは言ってないが」
「つまり穏便に済むなら、必ずしも結婚する必要はないのですわ」
「まさか修道院に入るつもりか!? あんなつまらん小倅のせいで出家するなどならん!」
「ご安心くださいませ。あんなくだらない男のために人生捨てる気は、これっぽっちもありませんわ――わたくしお金を稼ぎます」
ええ。ガッポリ稼いで悠々自適な独身貴族ライフを送ってやります。
「とりあえず、スチュワート様のお家と子爵家から巻き上げたお金を資本金にさせていただきますわ。おーほほほほ!!」
これですわ!
せっかく生き直すチャンスをもらったのに、妥協して結婚して許される範囲で自由に過ごすなんて勿体ないですわ。
こう見えて前世は、土木工学部出身の技術士でしたの。
まだまだ発展途上なこの国は、うちの領地を含めてインフラが整備されていない場所がごまんとあります。
素材も計測道具も前世並のものはありませんが、そこは錬金術と魔法でカバーですわ。
土木施工管理技士の資格はございませんが、本業の後に建設現場でバイトしてたので、現場もそこそこ知っていましてよ。
うふふ。見えますわ。各地の領主がお得意様になる姿が。
大規模工事は大きなお金が動きますからね。がっぽり荒稼ぎさせていただきますわ。
そしてゆくゆくは建設業界の女王になってやりますわーー!!
わたくしの物語は異世界恋愛ではなく、内政チートの成り上がりでしてよ!
ガテン系令嬢ここに爆誕ですわ!!
ちなみに独身貴族宣言からほどなくして、奴隷に身をやつしていた亡国の王子をお買い上げ。数ヶ月後に結婚したのは余談ですわ。
旦那様は男の感性が残っているわたくしでも、クラクラするくらいイケメンでしてよ! おほほほほ!
やはりお金の力は偉大ですわ!!!!




