君がいい
「京谷、俺もう帰るね。満足したら京谷も帰りな」
「え...、ま、まって尚樹くん」
二人の間に流れた緊張感のある空気を見ていて感じた。告白だろうな、加奈はきっと受け入れるのだろう。
大丈夫、邪魔はしない。ただの幼馴染に見られているのはいい気がしないだろうから、俺はもう帰ろう。
まさか、恋を自覚したとほぼ同時に失恋とは...。うまくいかないものだ。奏汰はすごい、ちゃんと自分の気持ちを自覚して行動しているのだから。こんな俺とは正反対だ。
『呆れたとしか言えないんだが、』
『現実見ろって...』
過去の自分の言葉がそのまま突き刺さる。
自分が言えた立場じゃない。本当は見たくないだけなんだ、加奈が他の奴と結ばれるところを。
相手が奏汰でよかった。潔く俺は身を引こう、奏汰なら俺みたいなひねくれたことをして加奈を傷つけたり、悲しませたりはしないだろう。
だから、これで―
「尚樹っ!」
後ろから加奈の声が聞こえ、慌てて声の方を向くと同時に、身体に大きな衝撃が訪れた。
なんとか受け止め、何があったのかと下を見ると、加奈が俺に抱き着いていた。
加奈の背中に腕を回す勇気はなくて、行き場を失った俺の腕は中途半端な空に置かれたままだ。
「は?え、ちょ、加奈?どうしたんだ?奏汰は―」
「尚樹がいい!」
「え...、な、何言って」
「今更気づいたの、わたしね、尚樹が好きっ、急にこんなこと言ってごめん、でも、言わなきゃって」
なんでこんな、って、じゃあ奏汰は、
慌てて奏汰の方を向くと、悲しそうに微笑みながら静かに首を振っていた。
その姿に背中を押された気がした。
「俺から言うべきだった、ごめん、俺も、ずっと加奈が好きだった、あとこれからも、ずっと好きだ。」
「えへへ、私達気づくの遅かったねぇ」
そう言って笑う加奈をみて、やっと背中に腕を回した。
もう二度と、加奈の笑顔が他の奴に取られないよう、強く抱きしめた。
―よかった、尚樹くんも同じ気持ちだったみたい。
僕といた時とは違う、輝くような笑顔を浮かべる加奈ちゃんに僕も自然と笑みがこぼれる。
よかった、またその笑顔を見ることができて。
「やっぱり加奈ちゃんには、その笑顔が似合ってるよ」
拙い数字の羅列が書かれた古びたメモを、強く、優しく、握りしめて胸に当てる。大丈夫、これで十分なんだ。
「僕はもういっぱい助けられたから、いいんだ。加奈ちゃん。」
失恋したとは思えないほど、温かい気持ちにあふれたまま、大水槽の光に包まれて笑う二人を眺めて、静かに祝福を送った。
―よかった、本当によかった。
尚樹くんが帰るといった時は、本当にお終いかと思った。
ねーちゃんからの告白とは予想外だったけれど、それも二人らしくてつい笑ってしまった。
そういえば、かなたは振られてしまったのか?それにしては清々しい表情をしている気がする。
二人の様子を微笑みながら見ているし、実はいい奴なのかもしれない。髪バチバチかなたとかいってごめん...。
ねーちゃんと尚樹くんは、まるで祝福されるかのように大水槽の光を浴びていた。
周りのお客さんは大水槽に夢中で気づいていないが、ようやく結ばれて気持ちの通じ合った二人は、この水族館のどんな展示物よりも美しかった。
...あれ?
尚樹くんがねーちゃんの頭に手を置き、そのまま普通の距離に戻っていった。
はぁ!?うそでしょ!?やっとくっついたのにそれで終わることある!?
告白してもらったんだからキスくらいしろよ!!尚樹くんのへたれマッシュ!!
加奈と尚樹編、これにて一度終了です。
次は加奈と尚樹付き合ったあとのおまけ話
奏汰の過去編を予定しています。
読んでいただけたら嬉しいです。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。




