本当の優しさ
「あのさぁ、俺にも予定とかいろいろあるんだよ?なーんで急に水族館?」
「いいじゃん!イベントでなんか可愛いキーホルダーあるの!早くいこうよ!」
「京谷の好きな動物は海系にいないよ。ライオンとかは動物園にいるんだぞ?」
「そのくらい知ってるよ!ほら、あの、えー、アザラシとかいるでしょ!僕アザラシほしいな!」
「絶対今考えた!本当はそんなこと思ってないだろ!」
ねーちゃんがデートに行く準備をしている家を抜け出し、尚樹くんを水族館に連行するために尚樹くんの家に押し掛けた。
都合のいいことに家には尚樹くんしかいないらしい。
「ねー、こういうときお兄ちゃんなら絶対連れて行ってくれるよ?」
「世の兄はきっとそこまで優しくないよ、せめて前もって言っててくれよ」
「ね、お願いっ、イベント今日までなんだって!ねーえー!!」
「わかった、わかったから!じゃあ10時20分着のバスでいい?俺なんも準備してないから」
「ううん、あと20分で来るバスに乗るよ。9時20分着のやつ」
「いつからそんな鬼になったんだ京谷は...!」
そう言いながらも急いで準備してくれるから流石だ。思った通り尚樹くんは押しに弱いから直前に言った方が成功しやすい。
「尚樹くん、あと10分で向かわないと遅れちゃうからね」
「わかったから!ちょっとリビングにでもいてゆっくりしといて」
「はーい」
これできっと、かんた?とかいう人よりも早く水族館に着けるだろう。あの二人がくっつくのを阻止するためにも監視しとかなきゃ!
「ごめん、準備終わったよ、行くか」
「うん!」
見てろよ!かんた?って人!あんたなんかより尚樹くんの方がずーっとかっこよくて優しいんだからな!
なんてこった、まさかそんなことがあるのか、
「あれ、そこにいるの奏汰じゃん」
「え?誰それ」
「...加奈がデート行く人だよ。って、誰かと待ち合わせか?一人だし、妙に気合入った格好だ...な...。」
デート40分前につくような男だったのか!?いや、しかも僕らのバスにはいなかったから...70分前!?噓でしょ!?
「なぁ京谷、加奈って今日予定あるとか言ってた?」
「うん、水族館でデートって言ってた」
「どうしちゃったの!?なんでそれ聞いてるのに来ちゃったの!?」
「しーっ!バレたら大変だから先に入って待ち伏せしとくよ」
かなたに気づかれないように遠回りして水族館に入った。
「かなたってあのセンター分けしてた人?」
「こら、先輩なんだから呼び捨てしないの。まぁでもあってるよ。一年の時にイメチェン成功してそれから結構人気だよ」
「くっ、結構イケメンだな...。まぁ僕と尚樹君の次にだけど」
「いやいや、京谷はいい勝負かもだけど俺は惨敗だろ」
「うっさい、無自覚マッシュ」
「本当に最近どうしたの、反抗期?」
どこが惨敗なんだ全く。...でも確かにかなりいい勝負なのは認めざるを得ない。尚樹くんよりイケメンなんてそういないだろうと思ったんだけどな~。
そんな話をしていたら、ねーちゃんたちが入ってきた。
「加奈さん今日の恰好すごく似合ってるね。いつも制服だから新鮮かも」
「奏汰君もすごく似合ってるよ、髪もいつもと違う?」
「そうだよ、よく気付いたね。加奈さんも髪留めつけてるの初めて見た」
けっ、関係性が浅いからお互いの見た目についてしか話題がないんだっ!これは勝った、勝ち確だ
「加奈、またあのスカート履いてる、大丈夫かな」
「ん?どうしたの?」
「あぁ、いや、大したことじゃないんだけど...」
尚樹くんがねーちゃんの服装を心配そうに見ていた。確かにスカートの丈が短い気がしなくもないが、まぁそこまで心配するほどでもないだろう。
―やばい、私今めっちゃ青春してる!
ふわふわと漂うクラゲを一緒に見ながら、これ可愛いとか、これはちょっと怖いとか、他愛の無い話をする。
―『加奈のスカート短くない?寒くない?』
―『平気!水族館のクラゲさんたちよりもふわふわで可愛いのがいいんだもん』
中学生の時に限定公開されているラッコを見るために尚樹を連れて行った時のことをふと思い出す。
そういえばあの時もこのスカートだったな~、お気に入りで大切な日にしか着ないからまだ新品のように綺麗。
「あ、加奈さん、イルカショーがあるらしいよ。ちょうどもうすぐだから見ていく?」
「うん!行きたい!」
「まだ全然人来てないね、どこに座りたいとかある?」
「一番前!いこっ!」
イルカショーといえば一番前だ。大迫力でとっても楽しめるし!それにこの水族館は前の席は上向きに傾いていてほぼ水中から見ているかのような視点で見られる。
「えっと、加奈さん、やっぱり一番前はやめとこうか」
「えっ、あ、ごめん!そうだよね、濡れちゃったりするし...」
「ああ、いやその、一番前ってほとんど寝るような体勢でしょ?だからスカートが危ないかなって...」
「あ、そっか、ごめん。ありがとう」
「ううん、僕こそ気づくのが遅くなっちゃってごめん」
確かに、私が着ているのはフレアスカートでしかも短いからかなり危ういかもしれない。
そして、ふと前に尚樹と来た時のことを思い出した。
「ほら、尚樹!一番前空いてる!はやく座って!」
「わかったから、......加奈、これ持ってて」
「はぁ?上着くらい自分で持ちなよ」
「いいじゃん、暑いんだって」
そう言って尚樹は上着を私の脚に乗せてきた。
「全くレディに物を持たせるなんて」
なんだかイラっとしたからぐしゃぐしゃにしておなかで抱える
「ちょっ、それだと意味ないんだって、こうやって持ってて、あの、しわができちゃうから」
「そんな文句言うなら自分で持てばいいじゃん~」
「お願いだから、あっ、じゃああとで加奈の好きなペンギンのキーホルダー買ってやるから」
「本当!じゃあいいよ」
そう言って脚を隠すように尚樹の上着を持った。
もしかして、あのとき、尚樹はこのことがわかってて上着を持たせたのだろうか。
大きくジャンプをするイルカを上から眺めながら気づいた。




