九話 少しずつ、望んだ未来に近づいている気がした
それから私は、チャンスを虎視眈々と狙っていた。
ゲームでは、階段から突き落とされた。
私はビビアナに階段から突き落とされないといけない。
【レイナ】
「ビビアナさま、成績が上がってきましたね」
【ビビアナ】
「貴方と毎日勉強会をしてるんですもの。上がってくれなきゃ困るわ」
私の言葉にビビアナが笑う。
しかし、私はまだ止まらない。
ベアトリスとアンナがきっとぎょっとする言葉を言う。
私は歩きながら、わざとえらそうな表情を作って笑う。
【レイナ】
「わたくしも、ビビアナさまの成績におびえる日々が来るのですね」
【ベアトリス】
「……っ!」
【アンナ】
「ちょっ……!」
予想通り、ベアトリスとアンナが固まる。
ビビアナは笑いながら私の肩をたたいた。
【レイナ】
(チャンス!)
【ビビアナ】
「もう……」
【レイナ】
「きゃあぁぁあああっ!!」
私は肩を軽く叩かれただけなのに、強く押されたかのように転んだ。
目の前の階段を、身を守ることなく転がり落ちる。
このぐらいの痛み、どうってことない。
あの時、突然包丁を振り回れた時に比べたら、痛いうちに入らない。
【ビビアナ】
「レイナ!?」
【ベアトリス】
「大丈夫!? 貴方が生意気なこと言うから!」
【アンナ】
「ビビアナさま、申し訳ありません! レイナは悪ふざけが過ぎただけなんです!!」
私に駆け寄ってくるビビアナ。
その後に続いた、ベアトリスとアンナの言葉に驚いていた。
【レイナ】
(やったわ! とうとう、ビビアナがやった思わせた!!)
【ビビアナ】
「……な、にを、言っているの、あなたたち……?」
【レイナ】
「ったたた……ビビアナさまのせいじゃないわ、二人の方こそ、ビビアナさまに失礼よ……」
私はわざと大袈裟に痛がりながら、それでも笑顔を作って見せる。
実際は痛みはなかった。
多分、思惑通りに事が進んでいることに興奮しているからだろう。
右足首が動かないのは骨折しているからだ。
ゲームでも階段から突き落とされて足を骨折していた。
あとから痛むだろうけど、今はそんなことはどうでもいい。
【レイナ】
「わたくしが、勝手に体のバランスを崩しちゃっただけなの。恥ずかしいわ」
【ベアトリス】
「……え?」
【ビビアナ】
「わたくしは、軽く肩を叩いただけよ」
【アンナ】
「そ、それは失礼いたしました!」
ベアトリスとアンナが慌ててビビアナに頭を下げる。
けれど二人の顔には「本当に?」と書いてあった。
【レイナ】
「いたた、えっとね、このくらいの強さだったわよ」
レイナはビビアナに叩かれた強さをベアトリスの肩で再現する。
【ベアトリス】
「じゃあ、どうして階段から落ちたのよ」
【レイナ】
「だから、体のバランスが崩れちゃったのよ。昨日よく眠れなかったからかしらね。ふらついちゃって、紛らわしくてごめんなさい」
【アンナ】
「そんなことより、保健室に行きましょう。立てる?」
【レイナ】
「それが、さっきから立とうとしてるんだけど、右足が動かなくて……」
【ビビアナ】
「ごめんなさい、レイナ。階段の前でふざけるべきではなかったわ。わたくしが支えるから、保健室へ急ぎましょう」
【ベアトリス】
「いえ、ビビアナさまに一人では、レイナは重いでしょう。わたくしとアンナで支えますから」
【アンナ】
「さ、レイナ捕まって」
【レイナ】
「ありがとう、二人とも。ビビアナさまも、変な誤解を与えて申し訳ありません。わたくしが勝手にふらついただけですから。気にしないでください」
【ビビアナ】
「いえ、あそこで悪ふざけをしたわたくしが一番悪いのよ」
【レイナ】
「それを言うなら、ビビアナさまをからかったのが、悪いのです」
【ベアトリス】
「レイナあまり喋らないで、息が上がってるわよ」
【アンナ】
「あんまり頭も動かしちゃだめよ。無理に足も動かそうとしないで」
ベアトリスとアンナが、ビビアナと私の会話を遮るように口を開く。
【レイナ】
「はーい」
【ビビアナ】
「…………」
ビビアナは私が怪我をしたこと、ベアトリス達に疑われたことにショックを受けているようだった。
【レイナ】
(ごめんね、ビビアナ。あなたが王子との婚約を破棄するまでは、やめてあげられない)
そしてそれは、あと一歩で完成される。
ゲームでも、あの一手が最後になった。
私にも痛みと苦しみはあるけれど耐えられる。
だってもっともっと辛い目に遭ってきたんだから。
【レイナ】
(幸せを掴むための痛みと苦しみなら、耐えられる)
ビビアナと別れる痛みも――
だって、ビビアナはいなくても、ベアトリスとアンナがいてくれるから。
翌日から、レイナの足が治るまで勉強会は中止となった。
四人で学園や寮で歩いていると、生徒や先生たちがあからさまに奇異の目で見てくる。
加害者と被害者が仲良くしているのが、ひどく奇妙にみえるらしい。
ベアトリスとアンナは、私とビビアナを二人きりにしないように振る舞っている。
王子も、私とビビアナを見て難しそうな顔をしていることが増えた。
全てが計画通りに言っている。
【レイナ】
(あと一押しね)
今日のランチで、私はビビアナに毒を盛られる。
毒をビビアナの名で購入した。
お金を貯めてウィッグと服を買い、ビビアナのふりをして、ホームレスの男に買いに行かせた。
その毒が入ったスープを、これから飲む。
一口だけなら、一週間ほど意識不明になるだけですむはずだ。
【レイナ】
(最終仕上げよ)
祈りを捧げてから、パンをかじり、スープを一口口に含む。
【レイナ】
「!?」
思った以上に変な味がして、飲み込むことができなかった。
私はその場でスープを吐き戻してしまう。
それ以降の記憶はない――




