七話 優しい時間の裏で、胸がざわついていた
【レイナ】
「ビビアナさま、少しよろしいですか?」
ビビアナの部屋のドアをノックする。
【ビビアナ】
「まあ、どうしたの? 入って」
【レイナ】
「すぐにすむので、ここで大丈夫ですよ。ビビアナさま、明日から寮で勉強会しましょうよ」
【ビビアナ】
「勉強会?」
【レイナ】
「ええ。ビビアナさまと二人で勉強できたら楽しいなって。それに、一緒に勉強してたら、王子もわたくしよりビビアナさまとお話しすると思うんです」
【ビビアナ】
「わたくしが教わる一方になりそうね。いいわ、レイナにも王子にも負けてるのは悔しいし、やりましょう」
【レイナ】
「ありがとうございます! 明日からよろしくお願いしますね。では失礼します」
私は満面の笑みで挨拶をし、ビビアナの部屋を後にした。
勉強会なんて嫌がられるかと思ったけど、王子の名前を出したらすぐにつれた。
【レイナ】
「本当にこの世界は単純だわ」
――それから私とビビアナは、毎日クラスに居残り、勉強会を行った。
よくしているのは、お互いのノートを交換し合い、教師の話をどうまとめているのかをチェック。
その際、互いのノートを借りる事もあり、私はビビアナの筆跡を何度もなぞった。
そうして一か月もすれば、私はビビアナの筆跡を完璧にまねることができた。
【レイナ】
「よし、仕掛けるわよ」
私はビビアナが好みそうな便箋に、ビビアナの筆跡で私宛の手紙を書いた。
そしてその翌日の勉強会。
クラスで帰り支度をしている生徒はまだいる。
部活や生徒会に行く、生徒達もいて、王子もまだ残っていた。
私はいつものように元気よくビビアナにノートを返す。
【レイナ】
「はい、ビビアナさまのノートです。私のノートと似てきましたね」
【ビビアナ】
「貴方のまとめ方がうまいから、真似してるの」
ビビアナがノートを返した際、わざと手の中でかさりと音を立てる。
そして初めて気づいたかのように、手の中に隠し持っていた手紙を取り出した。
よく前世でみた、クラスの女の子達がやっていた、小さく折りたたんだ手紙は手の中に隠しやすくていい。
【レイナ】
「今日はお手紙付きなんですね、ビビアナさま」
【ビビアナ】
「え? わたくし手紙なんか……」
【レイナ】
「ええと、レイナへ。貴方のお友達だからこそ言わせていただきます。あなたはトリニダード王子に近づきすぎで、す……? あの方は私の婚約者なのです。貴方が気軽に近づいていいような存在ではありません……? えっと……えぇ?」
私は読み上げながら、困惑気味にビビアナと手紙を見比べる。
ビビアナは驚いたように言った。
【ビビアナ】
「わたくし、手紙なんて書いてないわ。それに、レイナに対して、そんなこと思ってもないわよ」
いつも静かな話すビビアナにしては、大きな声だった。
クラスに残っていた全員が、こちらを見ている。
勿論王子も。
私は不思議そうに首をかしげてみせた。
【レイナ】
「そうですよね、ビビアナさまがこんなことするはずがありませんものね。わたくし、すっかり騙されちゃいました」
【ビビアナ】
「わたくしの選びそうな便箋ですものね。でもわたくし、誓ってそんな手紙は書いていないわ」
【レイナ】
「もちろんです、わたくしはビビアナさまを信じていますわ」
【トリニダード】
「レイナ、その手紙を見せてみろ」
【レイナ】
「はい、ノートのこのページに挟まっていたんです。こうやって」
私は嘘の再現をしながら、王子に手紙を渡す。
【トリニダード】
「筆跡までそっくりだな」
【レイナ】
「ええ、ですからわたくしもすっかり勘違いしちゃいました。ビビアナさまがくれたものだと。ビビアナさまが、こんなこと言うはずがないから、違うってすぐわかりましたけれど」
【ビビアナ】
「本当に、わたくしの筆跡そのままね。気味が悪いわ」
【レイナ】
「たちの悪いいたずらですね、全く」
【トリニダード】
「レイナ、これはいたずらではなく嫌がらせだ。お前達二人に対しての」
【レイナ】
「わたくしたち、嫌がらせされる覚えもないんですけどね」
私は曖昧に笑う。
ビビアナは露骨に気味悪そうな顔をしていた。
【トリニダード】
「おおかた、お前達が仲がいいと面白くない奴の仕業だろう。庶民と私の婚約者が仲がいいと面白くないと思う奴もいる」
【ビビアナ】
「誰なのかしら? 本当に気味が悪いわ」
【レイナ】
「……わたくしの、生まれが悪いのですね」
【ビビアナ】
「違うわよ、レイナは悪くなんかない。生まれは選べないんだから」
――そう、人は生まれを選べない。
私は前世で悪いことなど一つもしていない。
なのに不幸なことばかりが起きた。
だからこの世界では、どんな手を使っても幸せになってみせる。
【トリニダード】
「しばらく気をつけて周囲を観察しておけ。犯人が分かるかもしれん」
【レイナ】
「はい。よく気をつけておきます」
【ビビアナ】
「そうね。わたくしがレイナと親しくしていて、面白くない人間は結構いるわ。全く、わたくしたちが楽しいのだから、放っておいてくれればいいのに」
【レイナ】
「犯人、見つかるといいですね。しばらく、勉強会をお休みしますか?」
私が尋ねると、ビビアナは案の定首を振った。
【ビビアナ】
「続けましょう。嫌がらせで辞めるなんて、馬鹿らしいわ。それに、レイナに教わって分からないことが分かるのは楽しいもの」
予想通りの答えに私はほくそ笑んだ。
今はいい。
ビビアナが疑われなくても。
【レイナ】
(でも、これが続けばどうなるでしょうね)
勿論、頻発させる気はない。
忘れた頃にまた仕掛ける。
そして、ゆっくりゆっくりと、疑念の芽を育て上げるのだ。




