五話 憧れの人とお茶をしました
その日の夜、寮に帰って冷静になった私は、自分に突っ込んでいた。
【レイナ】
「何してるのよ私。何を喜んでいるのよ」
目的はそうじゃないでしょう?
【レイナ】
(何でビビアナは優しいままなの? 嬉しいけど困るのよ。やきもち焼いて、敵意を向けなさいよ)
まあ、今日はいい。
嬉しかったんだから仕方ない。
明日からだ。
もっと王子と話して、ビビアナの嫉妬を煽るのだ。
学園生活はまだ残ってる。
まだ一年生だ。焦ることはない。
ビビアナは優しいから大好きだけど、このままでいたいけれど。
【レイナ】
(私は王子ルートで何不自由のない生活がしたいの)
翌日、レイナは初めて自分から王子に話しかけた。
【レイナ】
「トリニダード王子、この公式を考えたのは、たしか数学者のアブラーンでしたわよね」
【トリニダード】
「ああ、そうだな」
【レイナ】
「こんなのを思いつくなんて、すごいと思いません? この数式がなかったら、わたくしたち問題が解けませんもの」
【トリニダード】
「そうだな。この式の発見は、数学界に大きな発展をもたらしたらしい――まあ、0を発見した時には叶わないだろうがな」
【レイナ】
「0の発見は、すごかったでしょうね。可能性が一気に広がりますし……」
【ベアトリス】
「……あの二人の会話がわからないわ」
【アンナ】
「何で式の使い方じゃなくて、発見者の話になってるのぉ……?」
【ビビアナ】
「二人にとって、式を使えば解けるのが当たり前だから、もっと踏み込んだところに目が行くのでしょうね」
またビビアナが笑っている。
嬉しいけど困る。
【トリニダード】
「そうだレイナ。次の休みに王立図書館にいかないか?」
【レイナ】
(きた!!)
【レイナ】
「ぜひまいりましょう! ビビアナさまもいらっしゃいますわよね!?」
【ビビアナ】
「わたくしは遠慮しておくわ、二人の会話について行けそうにないもの」
【レイナ】
(またまた、嫉妬しちゃうからでしょー?)
【レイナ】
「……え、でも王子と二人きりだなんて……」
【トリニダード】
「なんだ、私と二人では不満か?」
【レイナ】
「いえ、そんなことは……!」
【トリニダード】
「では決まりだな」
王子の言葉で、二人きりで出かけるのが決定した。
これには、さすがにビビアナも冷静ではいられないだろう。
レイナは一人ほくそ笑む。
そして休日がやってくる。
王子が女子寮の門の前まで迎えに来るというので待っていた。
【トリニダード】
「またせたな。では行こう」
王子はそう言って歩いて行く。
王子は派手な装いこそしていなかったが、いい生地の服を着ているのが一目で分かった。
【レイナ】
(私も数年後にはもっといい服が着られる)
学校では制服だが、寮での私服姿はどうしてもビビアナたちに見劣りしてしまう。
それが少し恥ずかしかった。
【レイナ】
(王妃になれば、誰もが羨む服を着られるわ)
楽しみだ。
ワクワクしながら、私は王子に話しかけた。
【レイナ】
「なぜ、ビビアナさまを誘わなかったのですか? きっと王子とご一緒したかったと思いますよ」
【トリニダード】
「だったら、自分もついてくるとビビアナが言うだろう。お前の誘いを断ったのだから、興味ないのだろう」
【レイナ】
「そうでしょうか?」
首をかしげながら、私はこっそり笑った。
この朴念仁。
そんな態度だから、ビビアナが嫉妬するのよ。
私には好都合だけどね
【トリニダード】
「ビビアナも一緒がよかったのはお前だろう? 本当にお前達は仲がいい。」
【レイナ】
「ビビアナさまは、入学初日にわたくしを助けてくれた恩人ですもの」
【トリニダード】
「ビビアナも言っていたぞ。入学式のお前の態度に好感を持ったと」
【レイナ】
「嬉しいです。ビビアナさまとこんなに仲良くなれて」
話していると王立図書館にたどりつく。
本来ならレイナのような庶民は入れないところだ。
けれど王子が事前に説明して入れるようにしてくれた。
どんな本があるのか、少し楽しみだった。
【トリニダード】
「レイナはこんな本が好きなんじゃないか?」
【レイナ】
「まあ、よくおわかりになりましたね」
トリニダードが持ってきたのは、有名な学者の生涯をえがいたものだった。
実はそこまで興味はなかったが、喜んでおく。
【トリニダード】
「――ついでにこれも読んでおけ」
【レイナ】
「心理学?」
【トリニダード】
「……お前は人がよすぎる。これで人の心理を学んでおいた方がいい」
【レイナ】
「……はあ、ありがとうございます……」
気のない返事をしたが、これこそがレイナの読みたい本だった。
前世も今も、他人のことはよくわからない。
だからわかりたかった。
レイナは心理学の本から読み始めた。
本を読み終わる頃には、お昼になっていた。
【トリニダード】
「お前はここにいつでも入れるようにしておいたから、好きなときに来るといい」
【レイナ】
「何から何まで、本当にありがとうございます」
【トリニダード】
「もう昼だ。食事してから帰るとしよう」
【レイナ】
「それなら、ビビアナさまも誘いましょうよ!」
トリニダード王子が珍しく、表情を変化させた。
困ったように笑っている。
【トリニダード】
「お前は口を開けばビビアナだな。そんなにわたしと二人きりは苦痛か?」
【レイナ】
「違います! でも、せっかくならビビアナさまも一緒がいいなって思っただけです」
【トリニダード】
「ビビアナと食事したかったら、ビビアナを誘え。今は私と食事だ」
【レイナ】
「はぁい」
平坦に返事をしながらも、レイナは喜んでいた。
【レイナ】
(とうとう、二人で食事だ。これでビビアナも黙っていられないはず)
ようやく、王子ルートが動き出すのだ。




