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十一話 願っていた幸せに手が届きそう

レイナ視点に戻ります

――男が突然包丁を振り回す。痛い、苦しい。死にたくない、死にたくない!

私は何も悪いことしてないのに――!!


【レイナ】

「…………」


知らない天井だ。


【レイナ】

「……ここ、どこ?」


出した声がひどくかすれていた。

咳き込む私に、声が降ってきた。


【トリニダード】

「病院だ。水を飲むといい」


王子が体を起こしてくれて、水を差し出してくれる。

私はありがたく、コップの水を飲み干した。


【レイナ】

「病院……?」


【トリニダード】

「覚えているか? お前は毒の入ったスープを飲んで、吐いてそのまま意識を失った。保健医が病院まで連れて行ってくれたんだ」


【レイナ】

「…………毒」


そうか、全てを吐き戻したのではなく、多少は胃に入ったんだ。

よかった。


【トリニダード】

「一週間、意識が戻らなかった。高熱で目を覚まさなくて、ベアトリスとアンナも心配していた。さっきまで、二人もいたんだ」


【レイナ】

「ビビアナさまは?」


私が尋ねると、王子は苦しそうに眉を寄せた。


【トリニダード】

「ビビアナは、王都にはもういない。退学して遠くの地で、修道女として暮らすことになった」


【レイナ】

(計画は成功したわね。あとは王子が私に婚約を切り出せば全部問題なし)


【レイナ】

「……ビビアナさま……なぜ、そんなことに?」


尋ねると王子は目を閉じて、かみ殺したような声を出した。


【トリニダード】

「お前に毒を盛ったのが、ビビアナだったからだ」


【レイナ】

「そ……そんなはずがありません。ビビアナさまが、そんなことなさる理由がありません」


【トリニダード】

「だが、ビビアナはお前が飲んだ毒を買っていた。ホームレスに金を渡し、買わせていたんだ。証言はとれている」


【レイナ】

「……そんな」


【トリニダード】

「あの手紙も、教科書も、全部ビビアナがやったんだ」


【レイナ】

「……ビビアナさまが、そう仰ってるんですか?」


【トリニダード】

「いや、ビビアナは全て否定している」


【レイナ】

「なら、ビビアナさまではありません。そんなことなさる方ではありません!」


【トリニダード】

「私もそう思っていた! でもビビアナが犯人なんだ!」


【レイナ】

「でもわたくしとビビアナさまは友人です!」


【トリニダード】

「私がお前に声をかけすぎた。それでビビアナは自分の地位が危ういと思ったんだ。婚約者の座を、未来の王妃の座を奪われると」


【レイナ】

「ビビアナさまはそんな短慮な方ではありません!」


【トリニダード】

「手紙の内容を思い出せ。自分こそが私の婚約者であると書いてあった」


【レイナ】

「あの手紙はビビアナさまが書いたものではありません!」


【トリニダード】

「ビビアナが好む便箋だ! ビビアナの字だ! あれはビビアナの仕業だ!!」


王子は私にと言うより、自分に言い聞かせるように叫んだ。

私は計画がうまく行っていることに、笑いそうになった。

それでも、挑戦的な瞳で王子を見上げる。


【レイナ】

「……ビビアナさまとお話がしたいです」


【トリニダード】

「だめだ、お前をビビアナに会わせるわけにはいかない」


【レイナ】

「どうしてです? わたくしたちは友達なのに!」


【トリニダード】

「その友達が、お前の命を狙っているからだ! 優しい笑顔で騙してくる! お前は人がいいからすぐ言いくるめられる!!」


【レイナ】

「そんなのはあんまりです!」


【トリニダード】

「――ゆっくりでいいから、理解してくれ。ビビアナはお前の、いや、私とお前の敵だ。」


そう言って王子は大きく息を吐き出した。


【トリニダード】

「こんな状況で、お前には酷な話をするが、聞いてほしい」


【レイナ】

「今以上に残酷なことなんてありませんわ。ビビアナさまと、会えないだなんて」


泣くつもりはないのに、涙が流れた。

ビビアナとの思い出が駆け巡る。

頭に思い浮かぶのはビビアナの気品あふれる笑顔だ。


【レイナ】

(ありがとうビビアナ。私に優しくしてくれて。本当に、本当に感謝している。こんなことをしてごめんなさい。でも私はあなたを捨ててでも幸せになりたかったの)


【トリニダード】

「私はビビアナとの婚約を破棄した。そして今、お前と婚約したいと思っている」


【レイナ】

「……な、なぜです? だって王子は私のこと好きじゃないでしょう?」


【トリニダード】

「私の婚約者は、恋愛感情では決められない。国王の隣に並び立つ素質を持っている人間を選ぶだけだ。ビビアナとだって愛し合っていたわけではない。私とビビアナは同じ目的に向かう同士であり、互いが役目を放棄しないか見張る監視役だった」


【レイナ】

「そう思っていたのは王子だけだったのではありませんこと?」


【トリニダード】

「最初は本当にそうだった。今だってそうだ。ビビアナと私に恋愛感情はない。しかしビビアナはいつのころからか国王になる私の婚約者という位置に固執しだしたのだろうな」


【レイナ】

「ビビアナさまでさえそうなったのだから、わたくしがそうならないとは言い切れません」


【トリニダード】

「だからこそ、私はビビアナ以上にお前を監視する。私が知っている女性の中で、王妃にふさわしいのはお前だ」


【レイナ】

(本当に、何て単純な世界なの。王子はビビアナの気持ちに気づかず、ビビアナは私をいじめた罪で婚約を破棄されて学園を追われた)


王子が深々と頭を下げる。


【トリニダード】

「お前を傷つけたビビアナの後釜に、お前を選ぶのは酷だと思っている。だが、私はお前以上の適任者を知らない。頼む、私と婚約してくれ」


【レイナ】

「……わたくしが、王子――いえ、この国の役に立つというのであれば……」


顔をあげた王子が力なく笑った。


【トリニダード】

「お前はそういうと思っていた。最終的には断れないと。お前の人の好さに付け込んでる私を恨んでくれてもいい」


【レイナ】

「わたくしが王子を恨むとしたら、ビビアナさまと会わせてくれない点だけですわ。王子もわたくしの友人ですもの。手助けが必要なら、全力で応えて見せます」


冷たい声でそう言った私は、内心で小躍りしていた。


【レイナ】

(やった! これで王妃の座が手に入る!! バイトに明け暮れることもなく、明日食べるものや、毎月の生理用品を買うお金に悩む必要もなくなるわ!! もうあんな惨めな思いはしなくてすむ!!)


ありがとう、ビビアナ。

全ての罪をかぶってくれて。

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