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VR世界でアバターが女体化バグったら戻れなくなって、しかもこっちの方が俺より強い件

作者: 桜木ひより
掲載日:2025/11/24


「はぁ……今日も講義サボっちまった」


俺、結城ハルトは大学二年生。特技はゲーム、趣味もゲーム。

最近ハマってるのは、人気VRMMO「エターナル・クエスト」だ。

プレイヤー数五百万人、最新技術で没入感がヤバいと流行りまくっているゲームである。


没入感がすごく、ほとんど日常で暮らしているのと変わらない体験が人気だ。


VRゴーグルを装着し、ログイン。

いつものように男性アバター「ハル」で世界に降り立つ——はずだった。


『本日のログインボーナス:アバター変更チケット』


「お、これって課金アイテムじゃん。ラッキー」


アバター変更チケット。性別や外見を自由に変えられるレアアイテムだ。

普段は課金しないと手に入れれなくて、それも千円くらいするやつ。


「せっかくだし……女キャラ、作ってみるか」


正直、興味はあった。

女性アバターって装備が可愛いし、フレンドの女子アバターのプレイヤーたちが楽しそうに着せ替えしてるのを見て、ちょっと羨ましかったのだ。


キャラクリ画面で適当に——いや、けっこう本気で——容姿を調整する。

銀色のロングヘア、青い瞳、スレンダーだけど戦闘向きの体型。


名前は…「ハルナ」。


「よし、完璧」


決定ボタンを押した瞬間。


『ERROR、システム障害が発生しました』


視界が真っ赤に染まる。警告音が俺の頭を揺らす。


「うわっ、何だ!?」


そして——世界が、反転した。




気がつくと、俺は草原に立っていた。


「……あれ?」


まず気づいたのは、視点の高さ。低い。

いや、元々俺は170cmで平均的だったけど、今は160cmくらいか?


次に気づいたのは、胸の重さ。


「うわっ!?」


見下ろすと、確かにある。胸が。しかもけっこう大きい。

俺、キャラクリで控えめにしたはずなのに…


髪が視界の端で揺れる。銀色の、長い髪。


「マジか……本当に女になってる」


慌ててメニューを開く。ステータス画面を確認。


名前:ハルナ

性別:女

レベル:27(変更なし)

職業:剣士


ここまでは想定内。問題は——


HP:9800

MP:5600

ATK:7240

DF:5580


「は?」


数値が、おかしい。


元々レベル27の俺のステータスは、HP2000、ATKも1500程度だった。それが全体の5倍以上に跳ね上がっている。


しかもスキル欄には見たこともないものがずらり。


『【真・女神の加護】【限界突破】【完全回避】【超速再生】……』


「何だよこれ、チートじゃん」


興奮と困惑が入り混じる。そして一番の問題。


「……戻れない」


アバター変更の項目が、グレーアウトしている。

エラーコードが表示され、元の男性アバターに戻る選択肢が消失していた。


「ちょ、待てよ。ログアウトすればいいか」


ログアウトボタンを押す。


『ERROR、現在ログアウトできません』


「嘘だろ……」



パニックになりかけたが、とりあえず状況を整理する。


一、女性アバターに変更された。

二、戻れない。

三、ステータスが異常に高い。

四、ログアウトできない。


「まずはサポートに連絡するか」


ヘルプデスクに問い合わせメッセージを送る。

自動返信で「順次対応します」との定型文。なかなか役に立たない。


「じゃあ、この状態で遊ぶしかないのか……」


そう思った瞬間、背後に気配。

振り向くと、巨大な魔獣——レベル50のデスウルフが3匹。


「うわっ、なんでこんなとこに!?」


普段なら確実に逃げる相手。でも、なぜか体が勝手に動いた。


剣を抜く。

いや、抜く前に既に手が剣の柄を掴んでいた。圧倒的な速度。


「え——」


一瞬だった。


3匹のデスウルフが、同時に消し飛んだ。


俺の剣が、見えない速さで3体を両断していた。


「……マジか」


手応えがない。まるでバターを切るような感覚。


経験値とドロップアイテムがざくざく入る。

こんなの、元の俺なら10人パーティでも苦戦する相手だぞ。


「これ、本当に俺のキャラか……?」


戸惑いながらも、心の奥底で、何か熱いものが湧き上がってくる。


この力。

この強さ。


——なかなか悪くないかもしれない。




女性アバターで冒険を始めて三時間。

俺は、いや「ハルナ」は、既にレベル40に達していた。成長速度も異常だ。


「本当に何なんだよ、このバグ……」


フィールドボスを単騎で撃破し、レアアイテムをゲットしたところで、通信が入る。


『こちらリオ。今、話せる?』


女性の声。フレンドリストを見ると、見知らぬ名前。「リオ」。


「誰だ?」


『あなた、ハルトでしょ。元は男性プレイヤーの』


「——なんで知ってる!?」


『システムログを追跡してる。あなた、とんでもないバグを引いたわね』


背筋が凍る。この人、何者だ。


『安心して。敵じゃない。むしろ、協力したい。場所を送るから、来て』


通信が切れ、座標データが送られてくる。


「……行くしかないか」


指定された場所は、辺境の森の奥。

そこに、ローブを纏った魔法使い風のアバターが立っていた。


「リオ、か?」


「そ。初めまして、ハルト——いや、今はハルナ?」


リオは気さくに笑う。

現実でも女性だろうとわかる、落ち着いた話し方。


「単刀直入に聞く。あなた、何が起きてるか分かってる?」


「バグでアバターが戻らなくなった。それだけだ」


「それだけじゃない」


リオは真剣な顔になる。


「あなたが引いたのは、『真実の性能』よ」


「真実の……性能?」


「このゲーム、実は性別によって能力が調整されてるの。それは噂でも聞いたことあるだろうけど…男性アバターは基礎ステータスが+20%。女性アバターは——」


リオは唇を噛む。


「-15%よ。意図的に、弱くされてるの」



「は? どういうことだ?」


「運営が隠してるの。表向きは『バランス調整』って言ってるけど、実際は差別。

男性プレイヤーを優遇して、女性プレイヤーのデータを制限してる」


信じられない話だ。だが、リオの目は嘘をついていない。


「でも、俺のステータスは——」


「あなたのバグは特別。

運営が封印してた『女性アバターの本来の性能』を引き出しちゃったの」


リオはデータウィンドウを開き、俺に見せる。


そこには、膨大な内部データ。開発段階のログ、運営の内部メモ。


『女性アバターの基礎設計:男性比150%』

『→リリース前に60%に下方修正』

『理由:男性プレイヤー層への配慮』


「……最悪だな」


「そう。最悪。私たち女性プレイヤーは、ずっと不利な状態で戦わされてた。

で、今、あなたはその『封印された力』を持ってる。運営にとっては、消したい存在」


「消したいって、まさか——」


その時、警告音。


『GMによるアカウント停止処理が開始されました』


「来たわね。逃げて!」


空から、黒いアバターが降下してくる。それも複数。

GM権限を持つ追跡者たちだ。


「イレギュラープレイヤー『ハルナ』、アカウント削除を執行する」


無機質な声。


「待て、俺は何も——」


「問答無用」


追跡者の一人が魔法を放つ。即死級の攻撃。


だが——


『【完全回避】発動』


俺の体が勝手に動き、魔法を全て避ける。


「なっ——」


追跡者が驚愕する間に、俺の剣が一閃。

GM権限持ちの追跡者が、一撃で倒れる。


「嘘だろ、GMを倒した!?」


残りの追跡者が慌てて撤退。


俺は呆然と、自分の手を見る。


「これ、マジで……強すぎるな…」




追跡者を退けた後、リオに連れられて隠れ家へ。


そこにはもう一人、アンドロジナスな見た目のアバター——「ケイ」がいた。


「よう、噂のバグ持ちプレイヤー」


ケイは性別不明の声で言う。


「俺は情報屋。システムの裏側なら何でも知ってる」


「……今の状況、どうすればいい?」


「簡単。運営の不正を暴いて、公開すればいい」


ケイはニヤリと笑う。


「あんたが生きた証拠だ。『女性アバターの本来の力』を持つ存在。

これを世間に知らしめれば、運営は終わる」


「でも、どうやって——」


「運営のメインサーバーに侵入する。そこに全ての証拠がある。あんたの力なら、セキュリティも突破できる」


リオが頷く。


「私たちも協力する。もう、黙ってられない」


俺は——ハルナは、迷った。


これは、ただのゲームのバグじゃない。現実の問題だ。企業の不正。差別。


「……分かった。やろう」


そう決意した瞬間、頭痛。

激しい眩暈。視界が歪む。


「おい、大丈夫か!?」


ケイの声が遠くなっていく。


そして——


ログアウト音。



気がつくと、俺は自室にいた。


VRゴーグルを外し、肩を上下させ荒い息を吐く。


「何だ、今の……」


時計を見る。現実では三時間しか経っていなかったようだ。

だが体感では、もっと長く感じた。


鏡を見る。


「——は?」


顔が、違う。

いや、俺の顔ではあるんだが…少し雰囲気が変わってる。


肌が滑らかになってる。輪郭が、少し丸くて柔らかい。


「まさか……」


着ていたシャツを脱ぐ。

胸に、わずかな膨らみ。


「嘘だろ……」


手が震える。


VRの影響が、現実に漏れてる。

ネットで調べる。

「VR 身体変化」「長時間没入 副作用」。


いくつかの論文がヒットする。


『長時間のVR没入により、脳が仮想と現実を混同し、身体イメージに影響を与える事例』


『稀に、ホルモンバランスの変化や身体的変化が報告されている』


「マジかよ……」


このまま放置したら、俺は本当に——女になる?


携帯が震える。メールだ。


送り主不明。だが内容は——


『ハルト。現実でも逃げられないみたいだ。真実を暴くか、消されるか、選べ。——ケイ』


「……現実でもかよ」


笑うしかない。

もう、後戻りはできない。



翌日。


体の変化は進行していた。

声が、少し高くなってる。髪が伸びるのも早くなっている。


「ヤバい……」


だが、ここで逃げるわけにはいかない。


VRゴーグルを装着。再ログイン。

ハルナとして、世界に戻る。


リオとケイが待っていた。


「準備はいい?」


「ああ」


三人でメインサーバーのダンジョンへ。


通常はGM専用エリア。だがケイのハッキングで侵入路を確保。

奥へ進むと、無数のセキュリティプログラムが襲いかかる。


だが、ハルナの力は圧倒的だった。


全てを斬り伏せ、最深部へ。


そこにあったのは、巨大なデータクリスタル。


「これが、運営の全記録……」

ケイが解析を始める。


「あった。性別調整のログ、開発者の内部メモ、全部だ」


リオが頷く。


「これを保存して外部に送信すれば——」


その時、背後から声。


「そこまでだ」


振り向くと、最上位のGM——運営の管理者が立っていた。


「君たちの行動は、すべて監視していた。その証拠、渡すわけにはいかない」


管理者が権限を行使。空間が歪む。


「ここで、消える覚悟はできてるか?」


ケイとリオが身構える。だが——


「待て」


俺が前に出る。


「消すなら、俺だけにしろ。二人は関係ない」


「ハルナ——」


「いいから」


管理者が笑う。


「感動的だね。だが、これを見てしまったからには、全員消す」


攻撃が放たれる。


だが——


『【真・女神の加護】発動』


俺の周囲にバリアが展開。攻撃を全て無効化。


「な——」


「分かったよ。これが、俺の力なんだ」


ハルナとして。


女性アバターの、真の力。


「お前らが封印した、この力——」


剣を構える。


「——返してもらうぞ!」




管理者との戦闘は一瞬で終わった。


管理者のGM権限さえ、ハルナの力の前では無意味。

最後の一撃を放ち、管理者を倒す。


「はぁ……はぁ……」


データクリスタルが輝く。


「ケイ、送信を!」


「もうやってる!」


ケイが操作すると、全世界のプレイヤーに通知が届く。


『エターナル・クエスト運営の不正について』


証拠データが、一斉公開。


ログイン中の五百万人全員に、真実が届く。


「やった……」


その瞬間、運営からのシステムメッセージ。


『緊急メンテナンスを実施します』


世界が崩壊し始める。


「強制ログアウトだ! 急いで!」

リオとケイが消える。


俺も——ハルナも、光に包まれる。

最後に聞こえたのは、リオの声。


「ハルト、現実で会いましょう!」




目覚めると、また自室。


また体が、重い。

鏡を見る。


俺は完全に、女性になっていた。


「……俺、完全に女になってる」


驚きよりも、不思議な納得感。

携帯を見る。ニュースアプリが通知で埋まってる。


『人気VRMMOで性差別発覚、運営企業に批判殺到』

『エターナル・クエスト、サービス停止へ』

『内部告発者はプレイヤー、現在行方不明』


「成功、したのか……」


だが、問題は俺自身。


この体。

この姿。

元に戻れるのか——いや、戻りたいのか?


その時、玄関のチャイム。


「誰だ?」


ドアを開けると、見知らぬ二人。


女性と、中性的な人物。


だが——分かる。


「リオ……ケイ?」


「正解」

リオが微笑む。


「現実でも、よろしくね」


「あんたの体のこと、調べたぜ」

ケイがタブレットを見せる。


「VRの影響で変化したホルモンバランス、医療技術で戻せる。でも——」


「でも?」


「完全に戻るまで半年。その間、中途半端な状態が続く。それか——」


ケイが真剣な目で言う。


「このまま、女性として生きる道もある」


「…………」


選択。


元に戻るか。

このまま、女性として生きるか。


俺はは、窓の外を見る。

夕日が、街を染めている。


「……半年なんて待てない」


二人が驚く。


「じゃなくて」


俺は笑う。


「元に戻ることも、完全に女になることも、選ばない」


「え?」


「俺は俺だ。性別なんて、他人が決めるもんじゃない。これから生きていきながら自分で決める」


リオとケイが、笑顔になる。


「そっか。それが、あんたの答えか」


「ああ」

三人で、夕日を見る。


「これから、どうする?」


ケイが聞く。


「運営は潰れた。でも、また似たような新しいゲームは生まれるだろう。

今度は、ちゃんとした世界を作る必要がある」

リオが頷く。


「むしろ私たちで、新しいゲームを開発する?」


「……面白そうじゃん」


俺は笑った。


「性別関係なく、みんなが楽しめるゲーム。作ろうぜ」



それから三ヶ月。


俺たちは、新しいVRゲームの開発を始めた。

性別による能力差なし。すべてのプレイヤーが平等。

クラウドファンディングで資金を集め、賛同者は十万人を超えた。


俺の体は、今も中性的なまま。

男性と女性の中間。だが、それが心地いい。


鏡に映る自分を見て、微笑む。


「これが、俺だ」


携帯が鳴る。リオからのメッセージ。


『開発ミーティング、今日の夜ね。遅刻しないでよ』


「はいはい」


返信して、外へ。


空は晴れている。

新しい世界が、始まっている。


性別に囚われない。

アイデンティティは、自分で選ぶ。


これが、俺の——ハルナの、新しい人生。


「よし、行くか」


街へ歩き出す。


前を向いて。

自分らしく。



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