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プロローグ

ふとした拍子に、見覚えのある風景が、心の奥をかすめていくことがある。

ほんの一瞬、胸の内に淡い波紋がひろがり、言葉にならない余韻だけが残る。

それが記憶なのか、夢の名残なのか――自分自身でも判然としないまま、気配だけがそっととどまり、日々の隙間に沈んでいく。

繰り返す日々のなかで、気づかぬうちに、何かを失っている。

思い出せそうで思い出せないもの。その気配が、静かな影となり、心の底にじっと留まっている。

夕暮れの光、窓辺の薄明かり、絶え間なく響く電話の音――そんな静かな気配や音の断片が、言葉にならない空虚を胸の奥にそっと波立たせる。

いつか見たはずの景色。その場所も季節も、もう思い出せないけれど、光の加減や土の匂い、誰かの声の残響だけが、そっと記憶の片隅に残っている。

記憶の輪郭は曖昧なまま、やがて色と温度を取り戻し、遠ざかったはずのものが、ふいに傍らで息づいていると知る瞬間がある。

光よりも淡く、それでも確かに胸に沈んでいた小さな断片。

時の流れの底でゆらめく水泡のように、いまもなお、かすかに――けれどたしかに、私を呼び続けている。


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