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面接、そして……

響也たちは、つきぎり探偵事務所にその外観を拝む。

 

「ここが、我らが拠点『つきぎり探偵事務所』よ!」

「はえー……すっごいおっきい」

「テナントの一室借りてるんですね」

「そうなんだよ。ま、普通の依頼も受けるから、できるだけ普通にしとかないとね」

「雑談はいいので、3人とも早く着いてきてくださーい」


少し他の3人よりも早く歩いていた小町は、後ろを向いて立ち止まっている響也たちにそういうと、小町の後を歩いた。


「ここかー」

「……あの所長、いちいちボケるのやめて下さい。突っ込むの面倒なんで」

「ごめんねー……それじゃ、開けるよー」


由紀乃が事務所の扉を開けると、そこには普通の探偵事務所が広がっていた。扉が開いたことに気づいたのか、応接用のソファであろうものに寝転がっていた男性が、体を起き上がらせて響也たちの方を見てきた。


「お、所長。やっぱりこまちゃんと一緒やったかー」

「かーなーたー?私、言いましたよね、所長にだけは響也さんのこと言うなって」

「いやー…ごめんなー。やっぱ所長の命令には逆らえないからね、しょうがないね」

「初めまして」

「邪魔するでー」

「邪魔すんのやったら帰ってかー」

「ほなー」


そう言って、本当に村正は出て行こうとする。それを止めるため、響也と小町が村正の肩を掴んだ

「まてまて…このやりとりでほんとに出ていくやつがあるか」

「あるんだな〜これが」


「あっはは……なんやおもろい呪いやな、俺は(さかい) 彼方(かなた)。どうぞよしくな」

「僕は童斬村正、名前長くて村正って呼ばれてるZE☆」


「そうかい……ん?隣のもう一人の見ない奴が、融媒さんか……よろしくな」

「……今のところ、ここで働く気は無いのですが……あくまで見学的な奴ですがよろしくお願いします」

「……あんたの話は聞いとる。響也さんやっけ、まあ、面接だけでも受けてみいひんか?」

「……いや、だから見学だって…」

「ま、あんたみたいなのは、そう簡単に"はい"とは言わんからな、始めるで」

「見学なんだよ?!」

「はいソファ座って」

「いや、だから待ってって…」

「えー…まず自己紹介と好きなもの、得意な武器をお願いします」

「強引にはじめるなぁ?!……はあ、仕方ない。とりあえずやるだけやるか。山崎 響也、19歳です。好きなものは刀で、と、得意な武器?!はえとー……刀です」

「はいありがとー面接終わり、一次試験突破!」

「はっや?!」

「はいじゃあ2次試験の実技行きますよー」

「ま、待って!せめて着替えさせて」


「………流石に強引すぎませんか?」

「いやー…彼方の手際の良さには脱帽するわー…」

「それはそうと、これ僕も言った方がいいかな?」

「おーい、そこの村正。あんたも来るんだよ!」

「はいはーい。じゃあパイセン!頑張るZE☆」

「んー…気をつけて」


由紀乃は、手を振って村正を見送った。


「……所長、見に行かないんですか?」

「そういう小町ちゃんこそ、行かないの?」

「……いや、商品を修理しないといけないので一旦家に帰ります」

「そっかー…私は外出るのがだるくなったからしばらく休んでるねー…」

「……このぐうたらが……あ、実技終わったら連絡してくださいね」


そういい、小町は事務所を出た。


「……本当に運が良かった……まさか、村正(ようとう)に取り憑かれてくれるなんて……さて、つきぎり探偵事務所(ここ)で働いてくれることを期待してまっていようかな………」


さて、響也の方はというと、服を着替えさせてもらい、いつもの和服姿になった後に町外れの廃工場に連れて行かれていた。実技ということで、村正は、竹刀袋に入れた妖刀(ほんたい)を持ってきていた。


「ここは……?」

「廃工場や……ちょっと前、事故で大量の人が亡くなっただけの……な」

「へえ……で、僕たちはどうすればいい?」

「……あんたら二人で、俺を倒すんや」


「………え、それだけ?」

「ただぁ!廃工場(ここ)にわざわざきて戦うだけなわけないよなあ?!」

「あ、読めちゃった」

「え、なに?教えて、響也」

「ここ出なくなった人たち、その幽霊を守りながら戦えってことですよね?」

「せいかーい!ま、正式に言うと、俺が幽霊をタッチしきる前に、俺に三発当てたらあんたらの勝ち。無理やったら俺の勝ち。あ、もちろん幽霊の方々には許可もらってるから、安心して?じゃ、はじめるでー」

「え?待って!まだ準備できてないですから」


そんな響也の制止も聞かずに、彼方は突っ込んできた。


「あぶない!避けて、響也」

「うわっ!」


響也を庇い、村正が彼方の攻撃を受けてしまった。


「ぐぁっ……これは、でっかい定規?…剣みたいに持ってやがる…」


彼方は持っていた定規を剣のように持ち、村正の背中に直撃させた。


「村正!大丈ぶ…」

「よそ見しとる場合か?」

「くっ……?!」


響也も背中を叩かれた。


「……こうなったら、響也あれやるぞ!合体するやつ」

「わかった。じゃあ、お願い」

「任された!……って、あれ?」

「?どうした、村正」

「ごめん、響也。どうやら、僕たち、"切り離された"みたいだ。だから、もう一回刺して貰わないとダメだ」

「切り離された?」

「……鋭いなぁ、さすがは呪い。呪いの流れを簡単に把握する。でも、これで弱体化や……まずは…」


彼方はそういうと、響也の後ろにしがみついていた幽霊をタッチした。そうすると、その霊の触られたところが黄色くなった。


「ひとお〜つ……あ、これ、十数え終わったら俺の勝ちな」

「ずるい!」

「……ごめんごめん、じゃあお詫びに、俺の融合異能(ゆうごういのう)を教えてやるわ」

「融合異能……って、あ?!」


響也がそう言った頃には、また一人タッチされていた。


「ま、そのまんまや。融合したやつの異能力、俺のは『境界(きょうかい)』。いろんなもんの区別をごっちゃにしたり、逆にはっきりとわかることもできる」


「だからさっき、僕と響也の融合した魂を分けて…」

「あんたらは理解が早くて助かるわ……みっつ!」

「まあいい、今ならいけるでしょ?響也」


その時、彼方は3人目をタッチするため、少し離れたところにいた。だから、隙が生まれていた。村正は、持っていた竹刀袋から刀を取り出す。


「握れ!」


そう言われて響也は刀を握り、そのまま村正の体に刺した。


しかし、何も起こらなかった。


「え?何も…変わらない?村正の方は?」

「…お腹を刺しちゃって怪我したけど、これくらい何ともない……一応、融合し直せたにはできたみたい」

「何はともあれ、残念やったな……よっつ」

「ぐっ……こうなったらこのままやるぞ!村正」

「合点承知のすけ!」


そうして、ようやく二人は戦う気になった。


「……?!やるなぁ、村正」


村正は、5人目をタッチしようとした彼方の手を紫の刀で打ち落とした。


「これで一発。斬っちゃいけないから刃はついてないよ。響也も、呪いで刀を覆ったから切れないよ。安心して!」

「……!」


響也は彼方の後ろをとり、無言で刀を振り下ろした。が、彼方は定規で二人を叩き、よろけさせた。


「……響也!」

「わかってる!」


響也は、まだ呪いが繋がっている刀を彼方に当てて、もう一度村正を刺した。


「村正、大丈夫か?」

「ヘーキヘーキ……こんなもの、まち針指に刺しちゃったぐらいの痛みだよ」

「それ地味に痛くない?」


「……うまく呪いを制御するなあ…俺を打つ時だけ呪いを纏わせて、村正に刺す時は解除する。ほんと……まだ融合異能を発現させてはないけど、これは結構センスあるわ……じゃあ、こっちも本気出すか!」


そう言うと、彼は一度深呼吸して、神々しい煙を纏う。


神開放(しんかいほう)


「……?!気をつけろ響也。これは、まずい」

「まずいって……一体何が…」


その先を言いかけた時、神々しい煙から線が引かれ、響也と村正を区切った。


「……言い忘れてたなあ……俺が融合したのは、ローマ神話の境界神『テルミヌス』」

「テルミヌス!!………響也テルミヌスって知ってる?」

「いや全く」


「はあ…あんたら、もうちょい勉強した方がええんちゃうか?」

「う……と言うか神?!そんなの勝てるわけがないって…」

「心配せんでも、神と融合しとるやつはぎょうさんおる。何やったら、俺以外にも『テルミヌス』と融合しとる。それに、神の力のごく一部や……俺でも本物には到底敵わん」

「へえ………なら安心だ…ね!」


村正は彼方に斬り掛かったが、彼の前にあの神々しい線が敷かれ、その上に刀がきた時、刀が弾かれた。


「な?!」

「残念、この境界を越えることはできないんよなあ……ま、がんばれ」


そういって、彼方は手から波動を出して村正を弾き飛ばした。


「うわー……」

「村正!……くっ!」


響也は、彼方に近づいて刀を上段に構えて最後の一発を当てようとするが、また彼方の前に線が現れて邪魔される。何度か境界を叩くが、全く動かない。


「ダメか……」

「だから言っとるやろ……力押しはダメやってな!」

「くそ!バレたか」


彼方が響也に気を取られている間に村正が狙うが、それも防がれる。


「こうなりゃやけだ、響也!」

「わかった」


響也と村正は、同時に近づく。そして、いろんな方向を同時に打つ。しかしやはり、全て弾かれてしまう。 


「………何か、突破口はないのか?」

「さて、境界線は絶対に越えられないのか……ん?」


響也と村正は、少し彼方から離れて作戦を立てていた。その時、ふと村正が何かに気づいた。


「どうしたの?村正」

「……さっき彼方を攻撃した時、僕たち何度か周ったよね……よく考えたらおかしいよね?それって……だって」

「彼方さんは煙を纏った後、初めに私たちを分断するために一つの境界線を引いた。でも、私たちは周れた。つまり……」


「引ける境界線には限りがある!」


「……二人とも、大正解や……ま、ほぼ答え出したの俺やけど……同時に出せるのは3本。しかも長さに限りあるし、3本以上引くと一番古いやつから消えてくんや……強いけど不便やわ、これ………まあでも、わかったところで、今のままやと俺には勝てないよ」

「……いや、勝てますよ。ね、村正」

「…そうだね。僕も見えたよ!突破口」

「へえ、面白い。じゃあ、見せてもらおうか」


「いくよ!村正」

「おう!」


すると、二人の体は合わさり、紫の煙を纏いながら昨日の地面につくほど長い髪に変わった。


「……これが、呪開放(じゅかいほう)か……気配も髪色も禍々しいな」

「やった!……うまくいった。じゃあ、いきます!」

「おう、こい!」


その言葉を合図に、響也はまた彼方の前まで近づいた。


「やっぱりそれかいな……それやったら、二人でやった方が…」


その直後、彼方の周りを取り囲むほど多くの呪いの刀が現れ、全て境界線に防がれた。


「こっわ……境界線(これ)あってよかったわ」

「やっぱりだめか……じゃあ、これなら!」


響也は、強烈なバックステップで彼方との距離を取り、背中に大量の刀を出現させた。


「……一度に出せる境界線の数に限りがあることはわかるけど、線を円形に引かれて引きこもられると絶対に触れられない。なら!」


響也は、大量の刀を彼方めがけて降らせた。


「………流石にこの量は怖いなあ……ん?」


彼方は、自分に向かって降り注ぐ刀の雨を防いでいた。


「これなら、どうだ!!」


ある瞬間、降っている刀が境界線に当たった瞬間、響也が彼方に近づいて境界線をもう一度当てると、境界線が砕け、その刀が彼方の体に当たる。


「彼方さんの境界線には、致命的な弱点があった。一度衝撃を受けると、境界線の光が一瞬薄くなって、その瞬間に他の衝撃を与えると割れてしまう………どういうわけか、押し当て続けると、強度は硬いままになるようですが」 


そういうと、響也は刀を納め、いつも通りの髪にもどった。


「………正直、驚いたわ…まさか、こんなに一瞬で見切られて対処されるなんてな……」

「たまたま、見切れただけです。ずっとこんな調子が続くとは思ってはいません」

「……そうかい、謙遜するなあ……もっと胸張ってええと思うで?俺は」

「いえ、それより………どうして五人目を阻止されてから、幽霊をタッチしなかったのですか?」


「言い訳すると、あの境界線、厄介なことに俺も越えられへんねん……せやから動けんかったし、自分で好きなように消すことは出来ひんから、タッチする余裕が無かったんよ」

「なかなか使い勝手悪いですね、それ」

「ま、俺もまだまだやったな……ええ戦いやったわ」


そうして響也たちは握手を交わし、周りの幽霊たちは拍手をおくった。


「あ…緊張なくなると………痛みが」


そう言い終えると、響也は倒れて意識を失った。


「え?お、おい?!大丈夫か?」


響也は、前と同様あの『心の中』にきていた。


「やあ、お疲れ。響也……ナイスコンビネーションだったネ☆」

「………」

「おや?どうした、響也」

「はあ、楽しんじゃったな…」

「……やっぱり、好きなんだね。戦うのが」


「あんまり声を大にして言えたことではないけどね」

「僕知ってるよー……昨日、あの子供と戦ってる時、呪開放(じゅかいほう)してから、人を斬るのは躊躇ってたけど打ち合うのは楽しんでたよね」


「…呪開放ってのは……あ、あの白赤長髪フォームのことか……言われてみれば、確かにそうだ……でも、この気持ちがどういうものなのか、まだよく分からない」

「ま、おいおいわかっていくさ。それがまともでも、狂っていても、どう生きるかは、響也次第さ。もちろん、僕も勉強がてらアドバイスさせてもらうけど」

「……村正って、いいこと言うんだね」

「……まあ、僕呪いだから全然役に立たないかもしれないけど……へへっ☆」

「………村正って、無神経なこと言うんだね」

「へへっ…いやー……それほどでも」

「あはは…褒めてないんだよなあ………」

「まあまあ…あ、そう言えば、響也はやるの?探偵」

「意地悪だね、村正は………わかってるくせに……って、また体が透けてく…もう起きるのか」

「あ!まってまって。僕も行くー」


今度は、響也と村正、二人で心の中から出てきた。響也が目を覚ますと、探偵事務所のソファの上にいた。響也が目を開けたと同時に、村正が彼の体から飛び出てきて、回転しながら着地した。


「……は!」

「へやっ☆」

「うわあ?!急に目をかっぴらかんで…びっくりするやろ………村正も、何やその声、『へやっ☆』て……ブ○リーでも『へやぁ?!』やぞ」

「……何言ってんですか、彼方。落ち着いてください」

「ん?おおーおはよう、響也くん。聞こえるかい?」

「……寝起きなので耳元で大声出さないでくれますか、先輩」

「あ、ごめんねー……」

「で、なぜ響也さんは倒れたのでしょう」

「ま、それは後で聞くことにしよか……今はそれよりも、試験結果や」

「あ…」

「結果自体は合格なんやが……響也さん、あんたの気持ち次第や。あんたは、ここで働きたいか?」

「はい」

「……まあ、そう簡単に頷くわけがないしな……強引なことしてごめんな…って、ん?」

「ぜひ、やらせてください」


「………えええぇぇぇぇええ?!?!?!」

「ちょっ、小町ちゃん。声が大きいよ?!今は夜だから、もう少し抑えて……」

「あ……すみません……き、響也さん。本気なんですか?」

「本気ですよ?」

「……死ぬかもしれないのに?」

「死にはしませんよ……私には、村正がいる」

「村正さんがいつ裏切るか……」

「裏切るわけないですよ……私の経験を反映しているならね」

「はあ……あなただけがまともかと思ったのですが…まさかこうなるとは……見損ないました。響也さん!」

「ちょっ、どういうことや?!所長はともかく、俺までイカれとるとか」

「いやいや、私がまともじゃないって言われてること、擁護してよ……」


「………あっはははは」

「……にひひ、嬉しいこと言ってくれるね、響也は」

「………これから、よろしく。村正」

「おう!こちらこそ、響也」


響也は、その日の間ずっとソファで横になって過ごした。

〜人物紹介〜

(さかい) 彼方(かなた)…響也、小町と同じ19歳。関西弁が特徴の男性。人と呪い(や霊など)を分離する力を持っている。地味に小町の幼馴染である。

融合異能は『境界(きょうかい)』、ありとあらゆるものの区別を弄る能力。

ローマ神話の境界の神『テルミヌス』の力の一部と融合しており、自己解釈を通して霊や呪いと人の魂を切り離す力を得ており、そう言ったお祓い的な仕事を得意としている。

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