妖刀、それは非日常への入り口
とある大学の一室で、風を切る音が響き渡る。
中にいるのは、一人の男、大学一年生の山崎 響也。講義を受ける時ですら決まって和服を着ているので、大学内でちょっと噂になっている。入学してすぐに殺陣のサークル「剣劇研究会」を立ち上げており入学して1ヶ月、誰もサークルに入る人がいなく一人で模造刀を振り回している。
「ふう…こんなところかな」
彼はそういい、刀を納めた。
「いやー…まさか、あなた程のお方が見学に来てくれるとは思ってもいなかったので、こんなものしか見せられなくて申し訳なく思ってます…先輩」
「いや、こちらこそ。急に来てしまったから…」
「……あの、本当に何で来てくださったのですか?二年連続ミスコン1位の月切 由紀乃先輩?」
「うふふ…褒めても何も出ないわよ?」
「で、何で来たんですか?」
「えっとね……私が入ってみたかったと言うのもあるんだけど……」
「ど?…」
「……まあ、ちょっとね」
「……ちょっと?」
「気にしないで?そういえばあなたは何でこのサークルを作ったの?」
「単純な話です。好きなんですよ」
片付けをしながらそう答える。
「え?私のこと好きなのぉ〜//もう、可愛い後輩くんなんだから」
「え……えと…すみません。私、先輩と今初めてあったので好きかどうかはわからないんですが………今の流れからして、刀と刀を振ることが好きなこと、わかりませんか?」
「あっはは……からかっただけよ?可愛いわねえ……」
「そ、そうなんですか……えと、先輩は好きですか…刀」
「好きよ、鰹節くらい」
「そ、そうですか…(鰹節って、どれぐらいだろ?)」
「ん?どうしたの?」
「いや、なんでも……とりあえず、やってみます?」
「良いわね!教えて?」
そこから響也は、優樹菜に竹光(竹で作った振るための刀)を渡し、振り方を指導した。
「やー!」
「声とかいらないですよ」
「ぬん!」
「………あー…腕伸ばし切ったまま振ると関節痛めますよ」
「どっせーい!」
「腰が引けてます。もっと背筋はピンと!」
「チェストォォォォオ!!!」
「まさかの示現流?!ってかこれだけ上手だな…」
「ひー……やっぱり難しいわ…今日は帰るわ」
「ま、何事も経験が大事ってことです。興味を持ったら、ぜひまた来てくださいね」
「今日はありがとうねー後輩くん」
「山崎 響也です。一応覚えておいてください」
「響也くん。ありがとねー……あ!そうだ」
「ん、どうしました?」
「そういえば、大学近くの『篁屋』って骨董品屋で響也くんが好きそうなものが売ってたのわ…よかったら場所教えようか?」
「…….へえ、好きそうなもの、それは興味があります。もしよろしければ、教えてください」
そうして、場所を教えてもらった響也はその篁屋に向かった。
「………ここか」
響也が篁屋につき、その外観を拝む。そこはいかにも昭和からありましたと言わんばかりの骨董品屋と思える店であった。
「………ん?いらっしゃいませ。見ない顔ですね……まあ、ゆっくりしていってください」
店の中には、響也と同年代程の眼鏡をかけた大人しそうな女性が扇を仰ぎながらそう言った。響也は優樹菜の言っていた"好きそうなもの"を探しながら店の奥まで入っていった。
「うーん……これじゃないな……あれでもない……ん?あれは?」
彼は、ガラスのケースに包まれた拵えに入った直刃の刀を見つけた。
「へえ、いい刀だなぁ……」
「その曰くつきの刀に興味がお有りで?」
「誰?!」
「失礼しました。驚かせてしまったようですね。私はここの店員の小町です」
「そ、そうなんですか…ところで、その曰くつきって?」
「何でも、昔、ある一人の子供を斬り、その血を浴びたんだそうです。それ以来、一切錆びたり折れたりすることがないんだとか……」
「……そんなことが…もしそれが作り話でないならなんだか怖い話ですね」
「まあ、それくらい良い刀ってことですね」
「……でも、いいなぁ…こんな刀、一つは家に置いてみたいなぁ……」
「ん?欲しいんですか」
「はい。それで、この刀っていくらなんですか?」
「うーん…そもそもこれ、売りものじゃ……」
そのとき、響也は小町の後ろに立っている、髪を束ねた長髪の子供を見た。
「?!あの、店員さん。いま、何かいませんでしたか?」
「え?……?!まさか、あなた"見えた"のですか?」
「え?見えた……多分?」
「………その見えたものは、どんな姿をしていましたか?」
「………えーっと、15歳前後くらいの見た目で、長髪で髪をくくってて…あと、巫女装束を着ていました」
「巫女装束……もうちょっと詳しく聞いてもいいでしょうか?」
「あの……どうしてそんなことを聞くのですか?」
「え?そ、それは……その…」
その後、小町は考える仕草をとり、いかにも苦渋の決断の顔で、
「………すみません。とにかくこれは売り物ではないので……売ることは出来ません」
そう言うわけで、響也は篁屋を出てアパートに向かっていた。子供のことについては、ひとまずは考えないことにした。
「………欲しかったなあ…あの刀。ま、非売品じゃなかったとしても、高くて買えてないか…トホホ…というか月切先輩ここにいいものがあるって言ってたのに………あの刀のことを言ってたなら、なんで……ま、切り替えるしか無いか…」
「どんまい、そういうこともあるよ」
「そうだね………ありが……ん?」
響也は、しれっと話しかけてきていた声の方を向き、その姿を見る。その顔は、さっき骨董品屋でみた子供と同じに見えるが髪は束ねておらず、何より服装があの子供とは全く違うのである。着ている服は和服に見えるが、袴はそう見えるズボンでベルトが通してあり、服の袖は広いが、よく見たとカッターシャツのように真ん中ぎ切れていてボタンで止めてある。襟はセーラー服のようになっていて、ネクタイが巻かれていた。とにかく、今まで見たことない服であった。
「ん?どうした?響也」
「え……だれ、ですか?」
「……あ!そっか、初めて会ったもんね。ごめんごめん……つい、ね?……じゃあまずは自己紹介をしないとね……僕は童斬村正。さっき君が篁屋で見ていた刀の呪いだよ」
「………呪い?」
「そう、呪い。君に取り憑いちゃった☆」
「…………はあ、何で私のことを知っているかは知らないけど、もうちょっとマシな嘘を…」
そう響也が言うと、童斬村正と名乗った子供は手から紫の炎を出し、それを刀の形にした。
「ね?これで信じてくれるでしょ?」
「な、何だこれ?!?!す、すごい……けど、それって呪いなの?」
「…………………そうだよ!……マアイチオウ…」
「………やっぱ信じない」
「ええ?!………ご、ごめんって。本当に呪いなんだって!信じてよ〜〜〜!!」
「うわっ?!急に泣きつかないでくれます?」
「うえ〜〜ん………本当に呪いだもん。このままだと響也が危ないから話しかけたのに〜……」
「……私が、危ない?それってど…」
「…………あの」
突然、響也たちの後からそんな声が聞こえる。何の変哲もない言葉であったが、とても禍々しいと感じる声であった。
「ここらで、奴をみませんでしたか?」
「え?この子供は……それに奴って?」
響也が振り返ってみたのは、村正そっくりの、篁屋で見たあの子供がいた。
その手には、直刃の見たことのある刀が握られていた。
「響也!横に避けて!」
「え?……うわ?!」
「………見ていないのなら、あなたを殺す!」
気づいた時には、子供は響也の眼前で刀を上に構えていて、刀が振られる。が、村正に言われた通りに避けて何とか斬られなかった。追撃を恐れた響也は子供を見たまま後ろに下がった。村正が紫の刀で子供の刀を捌いてくれているおかげで響也は怪我一つ負わなかった。
「……ふう、いきなり斬りかかるのはよくないよ?」
「不思議だ……どことなくぼくに似てる」
そして戦いは始まった。二人の打ち合いは、とても子供が出せる力以上の音が響き、響也は恐れを感じた。
「わ、私はどうすれば……」
「ごめん響也!動けるなら、篁屋に行ってあの店員を探して安否を確認してきてくれないか?」
村正は打ち合いの最中、響也に話しかけた。
「こんなことに巻き込んじゃって、本当に申し訳ないと思ってる……何が起こっているのか分からず、困惑しているだろう……でも、今は僕の言うことを信じて欲しい。根拠も説得力も提示できないけど、それでもお願いだ!彼女を、死なせてはならない」
「………わかった、信じるよ」
「ありがとう。じゃあ、今からこいつの体勢を崩す。その隙に、行ってくれ!」
そういうと、村正は子供の足を引っ掛けて転ばし、紫の炎で手足を拘束した。「今だ!行け!」村正はそういい、それを信じた響也はその間に二人の横を通り、篁屋の方へと向かった。
「はあ…はあ……小町さん!!大丈夫ですか?って、酷い……ぐちゃぐちゃだ……」
あたりはすっかり真っ暗になっていたが、響也は走って何とか篁屋まで着き、小町を探した。
篁屋の品は壊され、倒され、崩されていたがなんとか掻き分け、奥まで着いた。
「大丈夫ですか?小町さん……あ、いた!こまちさ……ん?」
響也が刀のあった方を見ると、ガラスが割られており、刀は無くなっていて、鞘が下に落ちていた。そして……
小町がそこにうつ伏せで倒れていた。
それだけであれば、響也はそこまで動揺しなかっただろうが、彼女の肩を怪我をしていて、血溜まりができていた。
「………ここの刀が無くなってて、それはあの子供が持っていた…それにこの肩の傷……おそらく刀で切られてる………最悪、もしかすると小町さんはもう……」
「……ん、あれ?あなたは……」
小町は起き上がって横の響也を見てそう言った。小町の体には、腹部に刀で突かれた跡があり、そこから血がダラダラと出ていたり
「ああ……生きてた……って、その傷で動かない方がいいですよ!!」
「この程度では私は死にませんよ……って、そんな場合じゃないんでした。あいつは、『稚児斬り』は?!」
「ち、稚児斬り?ってそれより大丈夫なわけないでしょ、その傷で。救急車を……」
「あ、あなた!夕方の?……なんでここに」
「あ、えっとー…な、何から話せば良いのか……と、とにかく救急車を…」
その時、何かが店の前に飛んできた。
「いっててて………ねえ、なんでぼくの邪魔をするのかな?」
「ごめん!響也、間違ってこっちに飛ばしちゃった……店員さんは……よかった、生きてる」
「村正くん。こっちは大丈夫、救急車を呼んでおくね」
「……いや、多分大丈夫、救急車がきた時までにこいつを倒せる気がしないんだ……むしろ、呼ばない方が被害が少ないと思う」
「……わかった。そうする」
「……さっきから、よそ見が多い。だから、守れないんだよ……こんなふうにね!」
「?!それだけは、やめろ!!!」
「残念、もう遅いよ」
『稚児斬り』は瞬きする間に響也のいる方に行き、小町の首を刀で斬り落とした。
「まずは一人」
「………あ」
「まずい!響也はパニック状態に、このままじゃ………っぐ?!しまった……呪いの力を使いすぎた」
小町の首を斬った時の血飛沫が顔にかかり硬直している響也の首に向かって、稚児斬りは容赦なく刀を振り、斬ろうとした。村正は、助けに行こうとするが、さっき飛ばした子供の所へ向かうために足に紫の炎をまとわせてより速く走れるようにしたせいで、体を限界まで酷使してしまったのでその場に跪いてしまう。
「………へえ、すごい、君よく生きてるね」
しかし、響也の首から上はなくなっていなかった。何故なら、さっき首を斬られたはずの小町が、鍔と稚児斬りの右手を掴んでいたからだ。
「……私が相手で、残念でしたね……私、死なないんですよ」
「………なるほど、融合か……面倒だね」
「……はあ!」
小町は稚児斬りの腕に膝蹴りを入れて、刀を落とさせた。
すぐさま小町は刀を持ち、響也に話しかけた。
「かあっ……」
「響也さん……ですか、目を覚ましてください」
「………っは!な、何ですか?小町さん」
「これを、髪をくくってない方に刺してください!」
「え?!な、何で」
「……これをしなければ、稚児斬りに勝てないんです」
「………」
「私では、稚児斬りを倒すことはできません」
「…でも…そんなことしたら、村正はどうなるの?」
「響也、僕はいい。だって、それくらいしか勝つ方法がないんだ。だって、もう……僕は動けない。僕だけだと、これくらいの間しか戦えないんだ。正直今はこの刀を持つので精一杯だ。でも、こっちも最後の力を振り絞ってやる!響也……お願いだ!」
「……わかった」
「ありがとうございます…では、この刀をもってください」
響也は、小町から刀を受け取りそのまま村正の方へと走り始める。
「……?! それはさせない!」
稚児斬りは彼らの魂胆を阻止すべく、すぐさま紫色の炎で刀を作り、響也に斬り掛かる。が、その刃は小町の腕で止められる。
「……っち、しつこい!!」
「あなたには言われたくないです……稚児斬り……はあ!」
「……っく!」
小町は、刀を止めた手と逆の手で稚児斬りを殴り、よろけさせた。
「村正、いくよ!」
「わかった、響也!!」
響也と村正は、互いに近づき……そして。
「うわ!な、なにかが……入ってくる……いや、それだけじゃない……何だこれ……力が、湧いてくる?」
村正を刺すと、体が霧散し響也に入っていった。
その霧が晴れた時、響也の体から紫の炎がメラメラと燃え上がり、髪が肩まで伸びて、色は白く毛先は赤くなった。
「………これが呪開放…しかも、ここまで変化が起きるとは…」
「………止められなかった、か……まあいいや、どうせすぐ死ぬんだし」
「………まだ何が起こってるかよく分かってないけど、これなら君を倒せるってことはわかった………覚悟して、『稚児斬り』」
〜人物紹介〜
・山崎 響也…大学1年生 文学部 殺陣サークルを立ち上げるほど刀が好き。高校生の頃に居合をしていたことがある。
紺のじんべえの上に赤い和服をきて、紺の袴と雪駄をはいて大学生活を送っている。
中学時代は剣道部、高校時代は演劇部に所属していたので、それが殺陣の基礎となっている。
刀以外の趣味は、サブカル全般と歌である。
・童斬村正…骨董品店にあった刀の呪いが人の形になったもの。食べることが好きで、どんなものでも噛み締めて食べる。
呪いの力で刀を作ることができる。
初めて響也と会った時からセーラー服と和服のハイブリッドな服を着ていて、15歳前後の見た目をしている。
・御小野 小町…19歳。大学には通っておらず、家業の骨董品屋「篁屋」を営んでいる。 とても顔立ちが整っており、小中高と学校で多くの生徒達の初恋を奪った。
性格はお淑やかだが、仕事となると多少強引になる節がある。
名前の割に、短歌は上手ではなく、仲のいい友達からはよくからかわれていた。