side日代2
柚乃と一緒に、私はリビングでじっと待っていた。
あまりに落ち着かなくて、私はずっとテーブルの上を眺めていた。
柚乃には事情を話さないで、ただ夜は私と一緒にいなさいとだけ伝えていた。
奏くんとお父さんは、今頃月島神社に着いているだろうか。
リビングの時計を確認すると、時刻は20時25分をさしていた。
もしも、奏くんが提案した作戦が上手くいかなかったとしても、奏くんやお父さんが私や柚乃のために一生懸命動いてくれたことが嬉しかった。何も、不満はない。
奏くんが生き返ったのかどうかも分からないままあの三叉路まで走っていたときのことがふと頭に浮かんだ。
一年前に亡くなった奏くんが、当たり前のようにそこにいて、私は走りながら涙が止まらなくなった。私が大好きだった奏くんともう一度会えたことが嬉しくて、信じられなくて、触れたくて。
奏くんが抱きしめてくれた時のことは、一生忘れられないだろうな。
もう、お母さんと会うことはできないけれど、後悔なんてこれっぽっちもしてない。私が月島神社で願った時、お母さんじゃなくてもう一度奏くんと会うことを選んだのは紛れもない私だった。それで、良かった。その選択は、間違いじゃなかった。
「お母さん?」
柚乃の声がして、私は思考の海から抜け出した。
「柚乃?」
私の呼びかけに答えないで、柚乃は台所の方を見つめていた。柚乃の視線をたどった私は、声を上げることもなく涙が止まらなくなった。
「日代、柚乃、学校は?」
戸惑いながら私と柚乃を交互に見るお母さんの姿がそこにあった。
「おかあ、さん」
柚乃は拙い足取りでお母さんに近づいた。そして、抱き着いた。
「うわあああああん」
「あらあら、どうしちゃったのよ」
柚乃を宥めるお母さんが、困ったように私の方を見て微笑んだ。
私は、お母さんに微笑み返して言った。
「お母さん、ひどいこと言ってごめんね。大好きだよ」