転生したら農村でしたが、何だかんだで幸せです〜恋愛編〜
「リュートさん、今夜、少しお時間いただけますか?」
夕方の畑。ミーナが、少しだけうつむきながら言った。
「もちろん。……どうした?」
「……ちょっと、大事な話があって」
その言葉に、俺の心臓がドクンと跳ねた。
今までミーナとは、なんとなく近くて、なんとなく一緒にいて。でも――「大事な話」なんて、初めて聞く。
『ついに来たな……!』
トマトが全力でざわついていた。お前ら静かにしてくれ。
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その夜。
村の丘の上。俺とミーナは、満天の星空の下にいた。
「……わたし、もうすぐ二十歳なんです」
「うん、知ってるよ。ミーナの誕生日、来週だよな」
「はい。だから……えっと」
彼女は胸元から、小さな紙を取り出した。
「さっき、王都から届いたんです。見合い話の候補が、十人も」
「……は?」
血の気が引いた。
「父の知り合いが、昔の商家との縁談を持ってきて……でも、わたし、断りたいんです」
ミーナの目が、まっすぐ俺を見ていた。
「――リュートさん、わたし、ここにいたい。あなたの隣に」
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答えなんて、決まってる。
「俺も、ミーナといたいよ」
でも、それだけじゃ足りない気がした。
この世界に来てから、ずっと畑に生きてきた。
だけど、彼女の手を取るには……もう一歩、前に進まなきゃいけない。
「待っててくれ。俺、ちゃんと……用意するから」
「……はい」
星空の下、俺たちは言葉以上のものを交わした。
そして俺は、ある“指輪”を作るために動き出した。
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翌日から、俺は農作業の合間に“材料探し”を始めた。
『お、ついに告白か?』
『いーねいーね! 愛は水よりも必要よ!』
『まずは土台は鉄? 木? 貝? 宝石いる?』
野菜たちがうるさい。いや、ありがたいけど。
俺は森で拾った“月鉄鉱”という小さな鉱石と、畑の端で見つけた“銀葉花”の種を使って、自分なりの指輪を作った。
銀葉花は、夜にだけ白く光る、不思議な花。
『彼女、絶対喜ぶぞ。根拠? ワシら野菜の直感』
……信用していいのか? いや、今回は信じる。
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一週間後。ミーナの誕生日の夜。
あの丘で、ふたり、再び並んでいた。
「これ……俺が作った、指輪だ」
「えっ……手作り、ですか?」
「不格好かもしれないけど、気持ちは込めた。
ミーナ、これからも、ずっとそばにいてほしい」
「……リュートさん」
ミーナの目に、星よりも強い光が宿った。
「はい。わたしでよければ、ずっと一緒に……畑、手伝わせてください」
指輪をはめたミーナの指は、少しだけ震えていた。
『おおお〜〜!!』
『キターーー!』
『愛の芽が出た〜〜〜〜〜!』
遠くの畑で、野菜たちが勝手に盛り上がっていた。
そして、カボチャが小声で言った。
『……で、式はいつだ?』
「まだだよ!!」
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翌朝。
指輪をはめたミーナは、なんだか少し照れていた。
「この指輪……夜になると、光るんですね」
「銀葉花っていう花を混ぜたんだ。お前みたいに、夜でも優しく光るから」
「……リュートさん、それ、ずるいです」
「そうか?」
「はい。好きになっちゃいます」
もう好きだろ、と思いながらも、俺は言わなかった。
代わりに、彼女の手をそっと取った。
畑の緑も、野菜たちの声も、風の音も――
全部が、「おめでとう」と言ってくれてる気がした。
次もミーナとのお話にしようと思います!明日収穫予定!