赤田家の日常 第三和
※本作は正真正銘のフィクションです。
出てくるお店や人物、動物、悪口はすべて架空のもので、どこにもありません。
誰もいじめられてたりしてません。
どこかのなにかで「あれ?なんか似てるな〜」と感じたら、
きっとあなたの思い出の中か、もしくは前世かなんかの遠い日の記憶です。
赤田家の日常
「第三和:前に進むためだけが足じゃない、掴んだりすることだってできるのさ」
赤田家の夜は長い。
「父さんな、ママの『菜前真奈』って名前の響きに一撃でやられたんだよ、最早運命とさえ思ったんだ」
赤田家はいつものごとく急に始まる。
時を遡ること数分前、小学校に入学し、二週間ほど過ぎて名前と顔が一致し終わったころ、そんなある日に沙奈が夕食後に発した言葉がきっかけだった。
「パパぁ……、また名前のことでからかれたの、『あかさたな~はまやらわを~ん』とか、順番間違ってないか~『あかたさなじゃなくて、あかさたなだろ』って」
沙奈の箸の進みがいつもより遅いことは貴弥も真奈も気になっていた。
その言葉を聞いてなるほど、と二人は静かに目を合わせる。
「ふふっ。パパだけなのよ、私の名前のこと最初に褒めてくれた男の子って。
ほら、『なまえまな』って逆から読んでも『なまえまな』でしょ、それで沙奈みたいにね、ママも小さいころはよくからかわれていたの。
子供ってときには残酷よね、悪気はなくて、ただなんとなく『楽しい』って理由だけ、だものね」
初めて聞く母の話に、沙奈は驚く。
少し照れた様子で父、貴弥も続ける。
「父さんな、ママの『菜前真奈』って名前の響きに一撃でやられたんだよ、最早運命とさえ思ったんだ。初めてあったのは高校生の時。
パパもあの頃は若かった。今もバカだけど、あの頃はもっとバカだったよ」
父の貴弥は高校一年の時、野球部に所属し、背番号「1」を背負いながら、四番を任され野球部の全員が認めるスーパー選手だった。
中学時代は強豪校とまではいかないが、県内の私立校から声がかかるほどには逸材だったのだ。しかし、片親ということもあり無理をしがちな父を心配し、地元の公立高校に通うことを選択したのだ。
そんな高校二年の春、ある噂を耳にする。
「サッカー部にすっごい可愛い子がマネージャーに入ったらしいぞ」と。
貴弥は頼れるスーパーエース、しかしながら当然、男の子でもある。
気にならないと言えば嘘となる。
しゃあないなあ、お前らが言うならと一歩下がって謎の意地を張り、同じ野球部の仲間とサッカー部へ向かう。
そこで運命と邂逅する。
「菜前 真奈」 なんと素晴らしい響きなのだ、そして真奈という名。
全て「あ」が母の音色を持つではないか。
「父さんな、貴雄で最後の『雄』だけがあの段じゃなくて、なんか微妙だなあって、ずっと過ごしてて、だからお前は『貴弥』って全部揃えたんだ」
そんな父の言葉が妙に記憶に残っていた貴弥。
その言葉に惹かれたのか「真奈」こそ運命の相手では、そう思ったのだ。
「俺さ、運命ってあるんだなって、今なんか燃えてるわ」
そう言いながら退部届と入部届けに署名する。
「あなたの名前は最高だ!!好きだ!!あなたのことも好きだ!!」
サッカー部、入部初日の第一声だった。
ちなみにその年サッカー部は全国大会へ進み、野球部は初戦敗退に終わるのであった。
愛の力は偉大だったのだ。
全国大会への切符を掴む大事な試合前に再度告白をする貴弥。
「君のために決めてくる、だから君も決めてくれないかな。俺とともに歩んでくれることを!」
その試合貴弥はMFながらハットトリックを記録した。
前半の序盤は完全なゲームメイク。相手のフォーメーションや選手個々の癖や好みのプレイ等、情報収集を行いながら守備の統一まで行った。
前半中盤、ゲームが動き出す。
わざとスペースを空け、相手の動きを誘導しパスカット。その後は息をつく暇を与えない速攻。
エースストライカーを囮に使い、自らの足で決めた貴弥。
彼はゲームを完全に支配していた。
ここまでの試合も十分に相手の脅威にはなっていた。しかし今日はそれを遥かに超えていたのだ。
彼はその足で見事に掴んだのだ、全国への切符と愛の物語の続きを。
そんな彼にも当然、弱点があった、勉強は大の苦手。
2分も教科書を読めない、ずっと座っているのすらなんだか難しい。
そんな天賦の才は次女の奈々に色濃く継がれているよう、なのかもしれない。
「子どもの名前って本当に大事なものなんだよ」
そう重く言葉を紡ぐ貴弥。
「ダジャレみたいに『ひろしのおでこはひろし~』とか『ひかるのおけつがひかる!』とかでからかわれたり、ママや沙奈みたいに子どもならではいじられたり。
でも沙奈?いいか、沙奈は特別なんだよ?とくに響きがいいと思う。
パパ一生懸命考えたんだよ、最高の響きだよ、沙奈は」
父の言葉になんだから涙が込み上げそうになる沙奈。
さっきから沙奈だけなんかめっちゃいいな、と次女の奈々は小さな怒りのようなものを覚える。
「嫉妬」という文字が読めない奈々には「しっと」という言葉なぞ辞書に載っていないのだ、わかるはずもない。
長女の華奈は「ああ、またあれか」と先にこの後の展開を読み切り、一人自室に戻って大好きな勉強を始める。
ちなみに華奈の辞書には「嫉妬」はきちんと載っている。
「あかさたなはまやらわをん、って続くだろ? パパの『たかや』の『か』から『や』までに、『さな』もきちんと収まってるから、パパがいつも沙奈たちのこと守ってるんだよ」
父の「たち」という言葉を聞いて、奈々の怒りのようなへんなものは静かに消えていく、そして夜も更けていく。
赤田家はいつにも増して平和なのだ。
第三和~完~
名前ってさ、親から貰う最初のプレゼントじゃないですか、そう調子乗った様子で語るのは「あかたさな」。赤田家の作者である。
今回は聞くに絶えない内容なので番宣とさせていただきます。
燃える炎は全てを焼き尽くす勢い。しかし愛とパンだけは灰にはしない。
愛のスーパンヒーロー青井くんがメインのお話!
赤田家の日常サイドストーリー1~青井くんにはいろいろあるけど美味しいパンを焼くんだZ~、読んでくれよな!