03 生き返り?
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執筆の励みになるので、何卒……
ぱちりと、何かが弾ける音がした。意識が何かにゆっくりと引っ張られるように、ゆるくゆるく、覚醒していく。目が、覚める。
「んんっ、あ、れ、私死んだはずじゃ?」
だって、私は、レオンに銃で撃たれた。しかも、2発も。アレで死なないわけがない。
あの痛み、あの熱、そしてレオンの悲しそうな顔。レオンの悲しそうな顔は、私がそう思いたいだけかも、しれないけど、思い出すだけで、胸がズキズキと痛む。
夢であってくれ、そうでなくては困る。そう、藁にも縋る思いで、恐る恐る、お腹に手を触れた。凸凹していたりは、していない。銃痕らしきあともなかった。
私は、一応服をめくって確認してみた。しかし、お腹は以前と変わらず、すべすべのままで、傷一つ見つからなかった。
「もしかして、死んでるから傷がないのかな?」
魔法で、指先を少し切ってみる。切れ目からは、熱い血が流れ出した。
私は生きていることが確認でき、安堵した。
では、アレは夢だったのだろうか。
『……まあ、レオンが、あんなことをするなんて、ないはず。いや、でも、夢とは思えないほど、リアルだったし。もしかして、誰かが治癒魔法を? でも、こんな高位の治癒魔法ができる人は、なかなか居ない。それこそレオンだったら、できるだろうけど、撃った本人がやらないだろうし……』
色々と考えた結果、夢だった、ということに結論づける。まあ、夢だったのなら、安心して、誰かが起こしに来るまで、二度寝を決め込もう。
2度寝のため、再び微睡み始めた時だった。
「聖女殿、起きたのか?」
近距離から、聞き覚えのある男の声がした。しかし、声の主は、もうとっくに死んでいるはず……
思わず、声のした方を振り返る。そこには、頑丈そうな鉄格子が広がっていた。鉄格子の外側には、椅子に足を組み、優雅に座っている、見覚えのある姿が。
驚いて、全体を見渡す。重厚、といえば聞こえはいいが、重っ苦しいレンガ造。薄暗い光の中、怪しげに浮かぶ骸骨の装飾。そして、この少し痛いように感じる、涼しさ。
ここは間違いなく、先日来たばかりの魔王城だった。
それに気づくと、急速に、私の眠気は覚めていき、思わず、ガバっとベッドから起き上がった。
「元気そうで何よりだな」
戸惑う私の様子を見て、男はくつくつと、愉快そうに笑っていた。だが、私は、まったく笑えなかった。
何故なら、男の漆黒に染まったサラサラの髪、血のような真紅の瞳。
間違いなく、この男は……
「ま、魔王ベリアル=レイヴィノール……」
「覚えていてくれたようで、至極光栄だ」
――――――人類の敵である、魔王だったからだ。
「……何故、あなたが生きてるの?」
あの時、私は確かに、彼の魔毒素を、浄化したはずだ。魔毒素は、魔族の命と言っても過言ではない。それを浄化されて、生きているはずがない。
「それは、生まれてきたからだ」
「いや、そういうことではなくて」
魔王は的外れな回答をした。もしかすると、答えたくないから、わざとぼけているのだろうか。
「私は、あなたの魔毒素を、浄化したはず。それなのに、何故実体を保てているの?」
「ああ、なんだそういうことか。哲学の談義をするつもりなのかと誤解した。」
どうやら、前者のようだったらしい。いや、もしかして挑発されているのだろうか。魔王の人物像が、戦ったことがあるはずなのに、いまいちつかめない。
「まあ、それはあとから説明するが、先に質問したいのは、こちらの方だ」
「え、どういうこと?」
「何故、あんな極寒の中、魔王城の前で倒れていたんだ?」
それはどういうことだろうか。私の記憶は、レオンに撃たれたところで終わっている。魔王城には行っていないし、泊まっていた宿も、ここから何キロメートルも離れている。
「わからない。私は気がついたらこの寝台で、寝ていたから」
「そうか。何かあったのか?」
「それが……」
私は魔王に、レオンとの出来事を全て話した。結婚できないと言われたこと、そのあげく殺されたこと……魔王がなんだか、真剣に話を聞いてくれたので、ついには馴れ初めまでもすべて話してしまった。
すべてを聞き終わったあと、魔王はあからさまに顔を顰め、不愉快そうな顔をした。
「……中々酷い男だな。僕は今まで、勇者のことを好青年だと評価していたのだが、話を聞くとまるで魔王のようだ」
「それ、あなたが言っちゃう?」
「確かに。だが、僕はそいつほど、ゲスじゃない」
「アハハハ……」
どうやら魔王はおとぼけキャラらしい。雰囲気から既に、ラスボスオーラや冷酷な感じの雰囲気が漂っているのに、これでは完全にネタキャラではないか。
だが、なんだかとても親しみやすい。
「それで、あなたの質問についてだが……僕はあの程度では死なない」
「え、でも……あの時私がギリギリまで、あなたの魔毒素を浄化した結果、あなたは確かに倒れたはずよ」
「それは、倒れた演技だ。まさか、本気でやりやって死ぬ馬鹿はいないだろう。そもそも、僕には魔毒素という概念がない」
「は?」
またもや、私は混乱する。魔毒素がない? 魔族の魔力の核に絡みつく魔毒素は、魔法の核を守るための、膜のようなもので、それを突破して、魔力の核を壊せば、魔族は完全に消滅するはずだ。
確かに私たちも、浄化したあと、魔力の核をレオンが破壊したはずだ。
レオンの行いは、最低だけど、レオンは、仕事をきっちりとやる、真面目なタイプだ。まさか、大事な所でミスをするはずないだろう。
「あなたが、浄化したと思ったのは、僕が魔力で作った魔毒素もどきで、勇者が破壊したと思い込んでいる、魔法の核は僕が偽装した魔力の単なる塊だ。僕には魔力の核こそはあるが、魔毒素はない」
「待って待って、ちょっと情報が多い……つまり、あなたは倒されたフリをしたのね」
「そうだ。元々こうするつもりはなかったが、少し考えが変わってな」
アレは、茶番だったというのか。私たちは、人類を助けるため、必死で戦ってきたというのに。本当はすべて、魔王の手のひらの上で、転がされていただけなのか!
「ふざけてる。私たちは今まで、あなたを倒すために戦ってきた。死闘だって乗り越えた。そうやってようやくあなたのもとにたどり着いたのに、それが、演技だったなんて! 正々堂々戦わないなんて、不道徳だと思わないの?」
「まあ、確かにそうだが……でも、僕としては人間と共存を図っていきたいと思ってな。そのためには僕が死ぬわけにはいかなかったんだ」
「じゃあ、なんで戦を何度も仕掛けてきたの?」
「先に仕掛けてきたのは、人間たちだったこともある」
「でも、何人も死んだ!」
「魔族だって、無傷じゃない」
確かにそうだ。魔王の話が本当なら、人間ばかり被害者ぶっているが、魔族だって被害者だ。
「ごめんなさい」
「まあ、あなたのせいではない」
魔王が、私の頭にそっと手を置く。なんだか、こういうとき、アニメとかだったらキュンキュンするんだろうな、と遠い目をする。
少し、くすぐったい。
と、というか!
「……人間との共存って、何をするつもりなの?」
「よく、聞いてくれた。そのために、あなたに頼みがある」
頼み、とはなんだろうか。なんだか心なしか、魔王の瞳がキラキラとしているような……
「僕と契約して、魔族の聖女にならないか」
「は?」