15 出発
―――これは、夢だろうか。
ぼやけた視界の中で、リリはリルの横に静かに寄り添っていた。おそらくずっと看病していたのだろう。すごく疲弊していることが、見て取れる。
そこに、女の人が入ってきた。こちらもくたびれた雰囲気で、少しぐったりとしていた。
「話があるの」
「なあに、お母さん」
リリの母は、リリの横に立つ。リリの母は、仄暗い表情をしていて、それでいて、正気を保つために薄笑いを浮かべているような感じがした。なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「リルは、助けられないわ」
「えっ……?」
「そう、だってうちには―――――――――」
****
「ハアっ! ハアっ!」
私は、ガバッと体を起こし、飛び起きる。ぐっしょりと背中が濡れていて、すごく不愉快に感じた。
「……どういうこと? 今のは、夢? 私の妄想?」
だが、リリの母や、リリの感じがあまりにもリアルだったし、何より、これを嘘だとはとてもじゃないけど、思えなかった。
「とりあえず、起きよう……」
私は、ベットから起き上がり、テントの中央に向かった。テントの中央には、何やら読書をしている、レイの姿があった。
こんな状況だけど、朝日が差し込む中で、読書をしているレイの姿は、その容姿と相まり、神々しく感じられた。
ぼーっと見ていると、レイがこちらを向いた。
「おはよう、ルシェ」
レイは、ふっと微笑む。その破壊力のある笑みに、私は少し、めまいを感じた。
「おはよう、レイ。リルは?」
「まだ寝ている」
レイは、自分の隣にある、小さなベッドを指さした。リルは、すやすやと静かに寝ていた。しかし、幸せそうな表情で寝ている、リルとは対照的に、レイは疲労困憊な様子だった。
「レイ、大丈夫? クマができてる……」
「ああ、リルが連れ去られないように、見張っていて、一晩中寝ていないからな」
「こんな状態で、鍵を探すなんて大丈夫?」
「魔族だから大丈夫さ。それに……いや、何でもない」
レイが突然押し黙る。私は、レイに続きの言葉を問いかけようとも思ったが、レイにも話したくないことくらいあるのだろう。私は、続きをあえて、聞かないことにした。
「私が見張っているから、少し寝てきたら? そんな様子じゃ、少し心配」
「……いや、ただ体にクマができているだけであって、本当に何でもないんだ」
「そうは言っても……まあ、いいよ。でも、無理はしないでね」
「わかった」
レイは、少し腑に落ちていないような顔をしていた。だが、彼がいくら魔王だとしても、疲れるものはつかれるはずだ。だからこそ、本当に無理はしないでほしかった。これは、私の思いやりである。
「……おはよぉ」
リルが目覚める。少し、昨日より、背が高くなったようだった。
「おはよう、少し大きくなった?」
「うん!! わたしは、あんまりおおきくなれないから、うれしいな」
リルはニコニコと笑う。でも、私はその表情に、堪らなく、胸を締め付けられた。
「夢の中でも、成長するんだね」
「いや……夢の中で成長したということは、何かを思い出したんじゃないのか?」
「そうなの? リル」
私は、リルに質問をする。すると、リルは少し考えたあと、にぱっと明るく笑ってみせた。
「おもいだす、っていうのはわからないけど、ゆめはみたよ」
「夢?」
「そう! ママとおねーちゃんがリルにいっぱいごはんをたべさせてくれるゆめ! ……でも、ママたちかなしそうだった」
リルはしょぼん、とした表情になる。そういえば……
「レイ、私も今日、夢を見たよ。リリと、そのお母さんの」
「……そうか。それはおそらく、この深層世界の心理がルシェに、干渉してきたんだろう。それも、おそらく、リルの記憶の断片だ」
「なるほどね」
それから、私達は、簡単な朝食を、レイの魔法で頂き、鍵探しへ出発した。
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「リル〜、どこで落としたか心当たりとかないの?」
「そういわれても、ないものはないの!!」
私達は、テントを出て、かれこれ何時間も夢のあちこちを彷徨っていた。夢の中は森が大部分を占めていて、行き止まりこそないものの、同じ景色の連続ループが多々あった。
「というか、あの髪飾りを大切って、言ってたけど、どういうものなの?」
「うんとね、わたしもあんまりよくわかんないんだ」
リルは、申し訳無さそうにして告げる。なんだか、私は少し申し訳ない気持ちになった。
「そっか。ごめんね」
「あやまんないで!! でもね、ひとついえるのは、おかあさんのたいせつなひとからもらったんだって」
「そうなんだ」
お母さんの大切な人……それは、リルのお父さんだろうか。それとも、リルのお母さんの家族……?どっちにしても、貴族の紋章のようなものが入っていた以上、確実に何かありそうだ。
「……母、か」
そんなふうに、私が思案していると、レイがふとつぶやいた。
話の速度が遅くてすいません。
でも、細々としたところが描きたくなっちゃう人でして……
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