11 記憶の鍵
「わかった。リリを浄化すればいいんだよね。でもどうやって?」
「ここまで魔毒素に侵食されていると、リリだけを浄化するには、リルの深層心理の世界に入らなければいけなくなる。僕が今から、リルの深層心理の世界を開くから、あとはそこで説明する」
「了解」
レイはリルの頭に手をかざした。すると、リルの頭がレイに触れられたところに一点集中して、光り出した。
辺りが光りに包まれる。
「ここから先は大変な旅路だ。それでも進む覚悟はあるか?」
「もちろん。それが契約なら」
「なら、僕に捕まれ」
レイは私の手を強く握った。レイの手は少し冷たく、力こそ強かったものの、死人のような手だった。
私は、レイの手を握り返す。すると、その瞬間、強烈な眠気が頭の中を駆け巡った。
意識が眠気に引きずられていく。眠りの方へと手を引かれるように、深く、確実に私は眠りについていった。
****
「ルシェ。ルシェ」
すごく近くから、レイの声がする。まるで目と鼻の先から聞こえるような……
「……レイ?」
糸がプツン、と切れるように急速に覚醒する。頭にかかっていた霧がどんどんと晴れていくようだった。私が目を開けると、レイは私の目の前……しかも顔と顔がぶつかりそうなくらいの距離に居た。
「う、うわっ」
私は、驚いて後ろへ後ずさろうとした。しかし、後ろへ行こうと思えば思うほど、何か壁のようなものにぶつかる。
……ま、まさか!!
私は恐る恐る後ろを見た。すると、後ろにはレイの胴体があった。
――――どうやら私は、膝枕をされていたらしい。
は、恥ずかしすぎる。いくら仕事上の関わりとは言え、美丈夫の彼に膝枕されていたと思うと、居た堪れなかった。
「目が覚めたか。ここに来るまでのことを覚えているか?」
「も、もちろん。たしかリルの深層心理に潜り込んでいるのよね」
私は冷静な様に一生懸命振る舞った。レイは少しクスクスと笑い、私を見下ろしていた。
「そうだ」
「い、今降りるね!!」
私は急いで起き上がり、レイの膝から脱出した。レイは少し不思議そうな顔をしていた。
キョロキョロと辺りを見渡す。深層心理というのだから、霧のかかった、モヤモヤとした場所だと思っていたが、どうやらそうではないようで、私たちは、夕暮れの芝生の上に居た。
「ここは?」
「おそらくリリとリルの生前によく行った場所だろう」
「リリってやっぱりリルの親族なのかな」
「おそらく姉か、妹だろうな」
レイはさも当然のように言う。しかし、なぜそんな事が分かるのだろうか……
「なぜ、そんなことがわかるの?」
「それは、魔力の波長がすごくにていたのと、リルのことを知っているようだったからだ」
「なるほど……」
確かに、考えてみれば魔力の波長を見れば一目瞭然だ。なるほど、レイはあの短時間でそんなことも解析していたのか。
「それで、これからどうする?」
それを聞くと、レイは少し思案するような素振りを見せたあと、口を開いた。
「それは、リルの様子次第だな」
「というと……?」
「ここはあくまでも、リルの深層心理ではあるが、リリの魔毒素にも汚染されている。だから、リリもこの深層心理の中にいるわけだ」
「うん」
「そうしたとき、魔毒素の主体である、リリの記憶も混在している可能性があって、本来の記憶を覚えていない可能性があるんだ」
なるほど。つまり、リルの深層心理にリルも混在した状態だから、記憶がこんがらがっている可能性があるということか。
「本来の記憶を覚えていなかったら、どうする?」
「おそらく、本来の記憶を思い出す鍵のようなものがあるはずだ。それを見つけたあと、リルとリリに戦ってもらう」
戦う? 浄化をするだけなら、戦う必要はないように思えるが。
「浄化はしないの?」
「リルが勝ちそうな状態、つまりリリが弱体化している状態で、リリごと浄化するんだ。そうしないで、リリを浄化すると、リルごと消えてしまう可能性があるからな」
「わかった。そうしたら、まずはリルを探さないとね」
「そうだな」
おそらく、リルはこの屋敷の中にいるのだろう。だとしたら、まずは屋敷の中に潜入しなくてはならない。
「なら、どうやって、屋敷の中に入ろうか」
「いや、その必要はない」
「え?」
「リルがお出ましだ」
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