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01 裏切り


――――撃たれたお腹からは生暖かい血がどんどんと流れおちていた。



「ルシェ、この際はっきり言うけど、君のことを愛してなんかいない」



 レオンは、嫌な笑顔で私を見つめていた。



「え……?」



 私は愛しい人を見る。視界は涙でぼやけていた。わけがわからない。どうして? なぜ? そんな言葉にならない思いの数々が、頭によぎる。



「どういうこと?」

「そのままの意味だよ。ただ、君に惚れてもらったほうが、魔王討伐に都合がよかったんだ。」

「でも、私があなたに惚れることと、魔王討伐に何の関係があるの?」

「君が僕に惚れてくれれば、万が一のとき、俺のことを庇ってくれるだろ?」



 彼は、ただただ、冷たく笑っていた。人生で、こんなに優しくされて、思いやられて、愛されたのはされたのは、彼が初めてだった。

 ……ついさっきまでは。



「……最悪」



 あまりにもショックで、吐き捨てるように、そんな言葉を呟いた。それを聞くと、レオンは、冷たい笑みを浮かべて、私に笑いかけてきた。



「そうだろうね。俺も最悪だ。君は使い捨て要員だし、どうせ死ぬだろうと踏んでたんだけど、しぶとく生き残られた挙句、結婚まで迫られて、こっちは本当に迷惑だよ」



 レオンはヘラヘラと笑っていた。やめて。やめてよ……もう、これ以上聞きたくない。

 私の心はすでに折れそうだった。



「じゃあ、婚約破棄するの?」



 私は、絞り出すように問いかけた。ああ、やめてくれ。冗談だって今からでも言ってくれ。そう思っても、現実は残酷だ。



「もうすぐ、そうなるだろうね。君との婚約を公にしたのは、聖女という存在である君が、俺の治世の味方であることを、宣伝するだけのものだったのだから。」



 視界が曇る。寒い。頭がガンガンする。手がどんどんと氷のようになる。うまく呼吸ができない。何か言おうとしても、うまく言葉にできない。

 ……でも、なにか、なにか言わなければ。



「……そうだったとしても、今私と婚約破棄なんてしたら、それこそ宣伝ができなくなるんじゃない?」



 ああ、なんて可愛くない言葉なのだろうか。少し小生意気なことばかりいうから、私はレオンに好かれなかったのだろうか。そんな考えが、頭をよぎる。しかし、私の考えと反し、その言葉を聞いて、レオンはふっと笑った。



「大丈夫だ。だって君の功績は、後世に残らない」



 レオンは楽しそうに語る。彼の瞳には正気ではないような何かが宿っていた。怖い。恐怖心に支配される。



「……どういうこと?」



 ガクガクと、足が震える。寒気がする。なんだかとてつもなく、嫌な予感がした。

 しかし、そんな私の様子とは反対に、レオンは静かに笑っていた。何故、彼はそんなふうに笑っていられるのだろう。

 カチ、カチ、という時計の音が、その場の静粛を支配していた。一瞬の静粛のはずなのに、私には何時間も何十時間もこの時間が続くような気がした。

 ――――――そして、レオンは口を開いた。



「だって君は、死んだことになるんだから!」



 そう言うと、彼は、懐から魔法銃を取り出した。

 ああ、やっぱりこうなったか。

 何処か私の心は諦めに支配されていた。

 刹那、銃声が部屋中に鳴り響く。こんな至近弾、避けられない。もう、どうとでもなれ。

 直後、私の視界は真っ赤に染まった。熱い、熱い!

 痛すぎて前が見れない。お腹を触ると、べトリとした血が、手のひらいっぱいについた。

 頑張って立っていたが、限界が来て、座り込んでしまう。

 レオンのコツコツという靴の音が、どんどん近づいてきている。まだ、銃を撃つのだろうか。あと、2発くらい撃たれたら、絶対に死んでしまう。



「いい眺めだね。絶景だ」



 そう、興奮しているのがわかるような口調で、告げられる。

 今レオンはどんな表情をしているのだろうか。私が死ぬことに、愉悦を感じているかもしれない。もしくは、あんな事を言っておいて、何も感じていないような表情をしているかもしれない。

 そんなことを考えていると、レオンが私の頬に触れてきた。少し安堵を感じてしまう。しかし、それ以上に……



「気持ち悪い」



 手を、払い除けたい。でも、力が入らなくて、できなかった。



「そうだよね、俺も自分が気持ち悪いよ」


 

 ふと、その言葉を聞くと、無性にレオンに呪縛を与えたくなった。私を殺して、幸せになるなんて、気に食わなかったからだ。

 なんと言えばいいだろう、なんて言えば、レオンの心に私を残せるだろう。そう考えたとき、ふと、三文芝居のような台詞が思いついた。



「あなたは、私を殺したことを、一生後悔すると思うわ」



「そうかもしれないね」



 レオンと過ごした日々が、走馬灯のように流れていく。つかの間の休息の間、レオンとデートしたときのこと、一緒にダンスをしたときのこと、チェスをしたときのこと……

 こんなに、キラキラとして、輝いていた記憶も全部ウソだったのだ。

 そう思うと涙が、どんどんと零れ落ちてくる。痛い、苦しい。どんどんと心の底から、負の叫びが溢れ出す。

 

 それにしても、今までなぜ気づかなかったのだろうか。

 彼のことが好きだと言い張っておきながら、何もわかっていなかったじゃないか。

 彼の本当の姿さえ、気づけていなかったじゃないか。

 私は彼の何が、好きだったのだろうか。

 なぜ、彼の本性、彼の本当の考えを気づいてあげることが、できなかったのだろうか。本当の彼と寄り添おうとしなかったのか。

 気づいてあげられなくてごめん。もしかしたら、本当はレオンに好きな人がいたのかもしれない。

 体がどんどんと冷えていく、ああ、私は、死ぬのだろうか。でも、それでレオンが本当に幸せになれるなら、それはそれでいいかもしれない。









「ごめん」




 

その刹那、さらに私に、2発の鉛玉がのめりこんだ。









――――――そうして、私は死んだ。

 

 


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