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明後日は?

年末。どの場所も大掃除やら、書類整理やら忙しい時期である。例にももれず、ここ管理局もあわただしかった。

浦見(うらみ)!そこの書類ここにおいといてくれ!」

「うい」

 めんどくせぇ。自分で運べや。そもそもお前今特になにもしてないやんけ。仕事のフリだけ上手くなって出世しやがって。

 と、言えたらどんなに楽だっただろうか。4つ下の同期だから思うことではあるが。なんて軽い冗談だ。仲は十分に良い。

「腰痛い……。まったくこの時期は毎年こうだよなぁ」

 そこ、文句垂れすぎとか言わない。まあ別によくあるラノベみたいに、皆から迫害されて~とか全然そんなこともないんだけどね。普通にみんな仲いいし、昨日は飲み会だったし、今日は彼女とデートだし。楽しいよ、十分に。

 俺は腰を伸ばしながら周りにゆっくり目を遣る。書類整理しているのがほとんどだ。部署が部署なだけに事務作業は溜まりがち。働いている奴らも基本的には杜撰なのばっかだから、こういう時しか整理することもない。

「そろそろ働くか」

 持ってこいと言われた書類を抱える。1回で運べる量ではない。段ボールに入れたとしても3箱分はあるだろうか。地道にするしかないか、と覚悟を決めた。

 ふと、運んでる最中に何の書類なのかと目を落とす。

「あ~これぐらいもうちょっと丁寧に管理したらいいのに……。まあ、使い終わったやつだからいいのか?」

 A4の紙の、右上には顔写真、他には名前、フリガナ、現住所、経歴、その他もろもろ。

 そして、「生死」が書かれている。

加運愛佳(かのあいか)……1か月ぐらい前か、多分」

 ふと1人に目が留まった。しばらく前に殺した赤子の名前だった。あれから、その両親は自殺したらしい。

「想定外に2人減ったからな、次の日の仕事がちょっと減って楽だった気がする」

 よそ見もそこらにして、頼まれてた机の上に置く。

「お、ありがとな。全部運んだら仕分けもしといてくれ」

「……ッチ!!!!」

「舌打ちの音だけで人殺せるのはお前だけだよ……()()()にてめえも追加しといてやろうか……」

「さすがに殺せねぇよあほ。ばーかばーか」

「こっの24歳クソガキが……。浦見、お前は今日から裏切りものとして雑用に降格だ。『うら』だけに」

「……クソ友永(ともなが)

 いずれ殺すと、固く誓った。

 まあいい。さっさと運んで仕分けまで終わらせてやろう。

 少し急ぎ目に運び、一枚ずつ内容を確認していく。確認といっても、大したことはなく、1人1人書類上の生死と、実際の生死を照合し、性別年齢順に分けていくだけだ。

 正直、基本ミスなど無い。というかあったら大問題だ。この書類は、その人間が生まれた瞬間、部屋の隅にあるFAXみたいな機械から出てくる。俺らはそこにある2文字そのものが仕事になる。ただそれだけ。

 書類上の生死を見る。パソコンで人名から検索をかけ照合する。たまに、俺が殺した人間も出てくる。

「なつかしいなぁ。こんな人間もいたっけ。……これも大丈夫、これも……。」

 正直しなくてもいい作業な気がする。

 それからしばらく、二時間程だろうか、内心愚痴をこぼしながら、仕分けをしていた。窓から先の世界は、次第に暮れていく。


「おーい……。おーーーい!浦見!」

「うわ、なんだお前かか驚かせるな」

 気づいたら友永が隣にいた。思ったより熱中していたみたいだ。

「いや何回呼び掛けても気づかねぇから。……そろそろ終わりそうだな。俺らは先に掃除に回っとくから、それ終わったら外来てくれ」

「ああ、わかった」

 それから1枚、2枚と進めていく。

 残り3枚。単純作業とはいえ量はあった。

 達成感。その予兆のようなむず痒い感覚が背中を襲う。窓から差し込んでいた夕日が、ついに隠れた。少し、暗い。

「ようやく終わりそうだな。残り2枚。こいつも……大丈夫だな」

 手元のライトを付けようかとも思ったが、残り1枚だから、やめた。

 紙をめくる。最後の1枚が出てくる。

「……は?」

 呼吸が、止まった。いや、本当に止まったんじゃない。だが、そこにある4文字と2文字は俺の心臓を握りつぶした。

「浦見……心。……死?」

 同姓同名だと。そう言い聞かせたかった。頭に浮かぶありとあらゆる、納得という名の理解を、たった1枚の紙がひねりつぶしてくる。

「隠さなきゃ」

 隠さなきゃいけない。これが誰かに見つかれば、俺は、死ぬ。生き死にには無頓着なつもりだった。

 だって、自分のことじゃないから。

「燃やせば、いい。そうだよな」

 幸い、今この部屋には俺以外いない。みんな外にでてる。今ならまだ間に合う。そうおもってライターを求め、ポケットに手を伸ばした、その時。

「ねぇ」

「っひ」

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