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第96話 ドラゴン電撃戦

 多くの兵士に見守られながら、俺たちは最終防衛ラインを出発した。再びドラゴン(ジール)に乗り北上だ。

 全員は乗れないので帝国騎士やジェフリーは騎馬だが。


 先発した俺たちが空から魔法による急降下爆撃を行い、前衛のモンスター軍団を倒す戦法だ。

 魔獣部隊や死霊部隊を片付ければ我彼兵力3300倍以上という圧倒的戦力を覆せるかもしれない。


 ビュバァアアアアアアアア!

 上空を高速で飛行し、風切り音が激しい。


「そういえば。ジールは何で人型に戻らなかったんだ?」


 俺は少しだけ声を張った。気になっていたので聞いてみたのだ。

 陛下の話を聞いている時も、ジールは後ろの方で体を小さく丸めていたから。


「ガルル!」


 竜化しているジールが首だけ後ろを向く。


「くっ、人型に戻ったら一旦裸になるだろ。はっ! まさか貴様、皆の前で羞恥に身を悶える私を見たかったのか!?」

「やっぱりドラゴンのままでいてくれ」


 変な誤解を与えるような発言はやめて欲しい。


「ガルル、それより良いのか。あいつらを乗せなくて」

「ん? ジェフリーや帝国騎士のことか」

「ああ」

「無理すれば全員乗れないこともないけど、何かジールに他の男を乗せるのは嫌なんだよな」

「分かるぞ。嫉妬だな。可愛いやつめ」

「全然違うぞ」


 ジールの言葉に思うところがあり、何故か嫉妬を否定してしまった。何だこの感情は。



 しばらく飛行していると、前方に魔王軍が見えてきた。まさに地平を埋め尽くすような大軍勢だ。

 数だけでは帝国王国連合軍の方が上のはずなのに、魔王軍には大量のモンスターや巨大なゴーレムが配備されており、圧倒される物量と迫力を感じる。


(よし、できるだけモンスターを倒して敵戦力を削らないと。後ろに控えている暗黒騎士とはなるべく戦闘は避けたい。いくら敵とはいえ、アリアやアルテナの同族を殺したくないしな)


 このまま人族と魔族の仲が悪化すれば、王都で暮らすアリアの立場まで悪くなる。それだけは避けたい。


「行こう! 目標、魔王軍前衛モンスター! じゃあバフをかけるぞ!」

【付与魔法・肉体強化極大】

【付与魔法・魔力強化極大】

【付与魔法・防御力強化極大】

【付与魔法・魔法防御力強化大】

【付与魔法・獅子心王ライオンハート

【付与魔法・攻撃力上昇極大】

【付与魔法・素早さ上昇極大】

【付与魔法・クリティカル確定】

【付与魔法・防御無効貫通攻撃】


 シュパァァァァーッ!


 俺のバフで皆のステータスが超強化された。

 慣れているはずのレイティアたちの驚きは然る事ながら、初めて体験した者の驚きは想像以上だったようだ。


「な、なんじゃこれは! カンストしておるわらわのステータスやアビリティが上昇しておるではないか! アキ、そなた一体何者じゃ」


 驚きの声を上げたクロに合わせるように、シロも信じられないといった感じで続いた。


「これは一体なんだ!? 力が溢れてくるぞ! アキはカツカレーが上手いだけではなかったのか!」


 シロの中では俺がカツカレーの男になっている気がする。

 ただ、俺の料理を食べた彼女の目が妖しかったのも事実だ。もしかしたら俺の料理には、バフだけでなく性欲増進効果でもあるのだろうか。


 そんな邪念は振り払い、俺は皆に指示を出す。


「アリア、シーラ、上空から魔法による爆撃だ!」

「やっちゃうわよ♡」

「了解よ!」


 二人に指示を出してから、俺はアルテナの方を向く。


「アルテナは控えていてくれて良いから。いくらパワハラ受けていたといっても、魔王軍とはやりづらいだろ」

「アキしゃん……」

君主級悪魔デーモンロードの力は魔王との決戦の時にとっておいてくれ」

「は、はひぃ! でで、でも……私がまお……なんですけど」

「何か言ったか?」

「い、いえ、何も」



 皆の準備が整い、急降下魔法爆撃の体勢に入る。

 俺は鞭を握った。


 パシッ! パシッ!

「ジール、敵軍前衛に向かって急降下! ついでにドラゴンブレス」

「任せろ!」


 バサッ! バサッ! ギュワァアアアアーッ!


 ジールは上空で旋回してから急降下に入った。

 それに合わせて皆が魔法詠唱をする。


「あんっ♡ 今ならやれそうな気がするの♡ 強化された杖とアキちゃんへの愛で! 地獄の門を開け放ち亡者殲滅の炎は顕現せよ! 大地を融解させ万物を滅し生きとし生けるもの全ては無に帰す永遠の焔! 獄炎殲滅波デスブレイズ!」


「アタシも全力でやるわよ! 闇より深き漆黒の、光より輝く日輪の、其は精霊王の奇跡! 天地を貫く一閃の雷よ、万雷となり敵を殲滅せよ! 雷神の万閃(ユピテルテンペスト)!」


 何かこれまでにないヤバさの魔法を唱えている気がするが、気のせいではないだろう。きっと、幻魔鉱石による武器強化と、俺のバフによる相乗効果の全力ぶっぱだ。


 シュバァアアアアアアアアアアアア!


「ガルルルルルッ! 青竜爆雷炎ドラゴンブレス! ゴバァアア!」


 ゴババババババババババババババ!

 ズドドドドドドォォォォォォーン!


 ジールのブレスに合わせるように、アリアとシーラの魔法も放たれる。


「私とアキちゃん、愛の力よ♡」

「くらいなさい!」


 ドバァアアアアアアアア! ズバババババババ! ゴバァアアアア!

 ズドォオオオオオオオオオオオオオーン! バリバリバリバリバリ!


 一瞬、目の前が真っ白になった直後に爆音が轟く。二人の魔法は一撃でゴブリンやオークどもを焼き尽くし、周囲の森を巻き込み大破壊を起こし、地上を地獄と化した。


「凄いぞ! 前衛のモンスターの何割かが消し飛んだ!」


 俺が叫ぶと、褒めて欲しそうな顔をした二人が俺の方を向く。


「アキちゃんのバフのお陰ね♡」

「これ凄いわよ! レベルがぐんぐん上がってるし」


 あれだけのモンスターを一度に討伐したら、そりゃレベルも上げ放題だろう。


「ガルル! おい、私のドラゴンブレスも凄いだろう!」


 ジールまで俺の方を向く。危ないので前を見て欲しいのだが。


「てか、ジールって本当に強かったんだな」

「おい貴様!」


 二人に触発されたのか、俺に良いところを見せたいのか、レイティアまで剣を構えているのだが。


「ボクも行くよ! なんかいつもより力が湧いてくるんだ」

「レイティア、剣が光ってるぞ」

「あれ? これってもしかして」


 そのもしかのようだ。


『使用者を正式に青竜姫と確認、青竜騎士の剣(ナイトオブゲリュオン)の全能力を解放する』


 レイティアの剣から音声が聞える。俺が使ったあの時と同じだ。


「うわっ! 剣が喋った。これって覚醒だよね!」

「ああ、きっとレイティアが剣に認められたんだ」

「やったよアキ君!」


 レイティアが嬉しそうな笑顔を見せた。だが、すぐに顔を引き締め攻撃の体勢に入る。


(もしかして青竜騎士の剣(ナイトオブゲリュオン)って知性の有る(インテリジェンス)武具(ウェポン)なのか!? かっこええ! 俺も欲しいぞ)


 そんなことを考えていると、レイティアが何度も足を踏み変えているのに気付く。ドラゴンの上では足場が不安定なのだろう。

 当然俺が彼女の腰を支えるのだが。


 ギュッ!

「あっ♡ アキ君の顔がボクのお尻に……」

「おい、腰を支えてるだけだぞ」

「んあっ♡ そんなにお尻を抱きしめられると恥ずかしいよ」


 短めのスカートから伸びる艶やかで健康的な太ももが目の前にある。俺は極力見ないように上を向いた。


「支えてるだけだから!」

「でも、ぐんぐん力が湧いてくるよ!」


 若干エロい雰囲気のレイティアだが、青竜騎士の剣(ナイトオブゲリュオン)を高らかと掲げると凛々しい女剣士の顔になる。


 俺はその横顔に見惚れてしまうのだ。そう、出会ったあの時から、俺の心は美しきボクっ娘(お姉ちゃん)に囚われたままなのだから。


(レイティア……なんて凛々しくて気高くて美しいんだ……。それでいて普段はちょっとポンコツだったり可愛かったり。やっぱり好きだ)


「アキ君と一緒で元気五百万倍! 竜撃爆裂ドラゴニックバースト! どっせぇええええぇい!」


急降下するドラゴン(ジール)が低空に入ったところで、レイティアが剣を振り下ろした。


 ズガガガガガガガガガガガガーン! ドドドドドドドドドドドーン!


 その一閃は大地を切り裂きながら地上のスケルトンとゾンビの軍団を薙ぎ倒してゆく。地響きと共に、バラバラの骨や肉片と化したモンスターだった物体を巻き上げて。


「凄いぞ! 第四軍死霊部隊の半数以上が吹き飛んだぞ!」


 俺の声で喜んだレイティアが抱き付いてきた。


「ボク凄い? 凄いよね?」

「うん、レイティアは凄いぞ」

「どう? もっと好きになったかな?」

「えっ、そ、その……うん。す、好きだぞ」

「えへへぇ♡ ボクもアキ君だいすきぃ♡」


 唐突にイチャコラを始めた俺たちに、アリアとシーラがジト目になる。


「アキちゃん!」

「こらアキぃ!」

「わわっ、分かってるから! アリアとシーラも凄いから」


 ビュバァアアアアアアアアアアーッ!


「うわっ!」


 突然、地上から大魔法による地対空攻撃が放たれた。ジールが旋回し、ギリギリのところで回避する。

 先制攻撃で大量のモンスターを倒したものの、魔王軍も大魔法の使い手を温存してあったようだ。


 戦闘は第二段階へと移行するのだった。



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