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第93話 その頃世界は……

 魔王軍統合作戦司令部(sideザベルマモン)



 魔王城を出て南進する大軍を率いているのが、このわたくし、悪魔大将軍ザベルマモンですわ。


 鍛えられし腹筋と上腕二頭筋、そしてデカい大殿筋だいでんきんを余すところなく見せつけたいが為に、あえて露出度高めのビキニアーマーを着ていましてよ。


 この魅惑のダイナマイトボディで巷の男どもは脳殺間違いなしですわね。


「おーっほっほっほっほっほ! キテますわ! キテますわね! 強い男の予感がキテますわぁああああ! 久しぶりの戦闘、久しぶりの血沸き肉躍る展開、わたくしの心は殺戮と暴力と男を欲していますわよぉおおおお!」


 わたくしはテーブルの上に乗り、開脚ポーズで言い放ちますわ。惜しげもなく肉体美を見せつけるように。


 そう、ここは急遽設置された魔王軍統合作戦司令部(仮)。因みに場所は、第五軍ゴーレム部隊の最終兵器、魔導要塞ギガントパンデモニウムの頭頂部にありますわ。

 高くて見晴らしも良くて最高ですわね。


 ズシィィィィーン! ズシィィィィーン!


 魔道要塞ギガントパンデモニウムは超大型ゴーレムですわ。山よりも大きく、川も一跨ぎ。

 その巨体を踏み出す度に、地面が揺れ森の動物たちが戦慄わななくほどですのよ。


「あああぁ、たまりませんわ! もう魔族にはわたくしより強い男が居ませんからね。帝国でも王国でも勇者でも掛かって来なさいですわ! このわたくしザベルマモンが肉体言語で徹底的に語り合いますわよ。最終婚活覚悟完了ですわよぉおおおおおおぉおおっ!」


 このわたくしが軍の士気を上げていますのに、いまいち部下のテンションが低いですわね。


「ザベルマモン様より強い男なんて居るのでしょうか……」


 第五軍司令官グレモリーさんが失言しましたわ。これは見過ごせませんわね。


 グレモリーはゴーレムや自動人形オートマタを指揮する人形使いで、見た目は愛されキャラ系の若い女ですわ。


「ちょっとお待ちなさい、グレモリーさん! 聞き捨てなりませんわね! 女子ならば強い男に守られたい願望は当然ではありませんの!」


「え、ええ、そうですけど……女子?」


「あああぁああぁん、もう待ちきれませんわ! もし勇者が現れましたら、このわたくしが直々にお相手をし、心行くまま肉体言語で殴り合いボコボコのケッチョンケチョンにしてさしあげましわぁああああ!」


「そ、そこは敵の勇者に同情しちゃいます……。でも、えっと、女子って……?」


 グレモリーさんが静かになりましたわ。きっとわたくしの情熱が伝わりましたのね。


「レヴィアタンは応援するモン! ザベルマモン様は素敵な女性ですモン」


 第二軍司令官のレヴィアタンさんは分かっていますわね。この私の肉体美を。


 レヴィアタンは魔族で編成された暗黒騎士部隊を指揮する女騎士で、見た目は不思議ちゃんなのに暗黒騎士の中でも随一の強さですわ。

 語尾が『タン』とか『モン』とか言うのが癖のようですけど。


「ふっ、いずれにせよ人族は殲滅するのみ。死霊部隊によって人族の街はアンデッドの国と化すであろう」


 第四軍司令官ダンタリオンが、何かブツブツ言っていますわね。ゾンビやスケルトンなど死霊部隊を指揮する男ですわ。

 この男は、ちょっと不気味でわたくしの苦手とするタイプですわ。


「ガハハハハッ! 結構結構! 吾輩わがはいの魔獣部隊で帝国など蹂躙じゅうりんし尽くしてみせますぞ! グハハハハ!」


 野太い声で笑っているのが第三軍司令官バルバトスですわ。

 見た目はデカくて強そうなのに、わたくしより弱いから興味ないですわね。



「はあぁ……帝国なんてどうでもいいですわ。そんなことより、わたくしを満足させる男は居るのかしら……」


 総司令官としてどうなのかしらと思いますが、そこは譲れないポイントですわね。どうせ魔王様もしらっしゃらないですし、ここは自由にやらせていただくつもりですわ。


 進路は一路南へ。復活した魔王軍は突き進みますわよ。



 ◆ ◇ ◆



 ヘイムダル帝国第三軍銀翼騎士団(sideハインツ)



 急遽、魔族領への大遠征をすることが決定し、約10万もの大軍が北進を続けている。

 これだけの大軍を動かすには兵糧ひょうりょうなど大量の支援物資が必要であるはずなのに、ろくに準備もせずに出陣することになった。


 軍事作戦には兵站へいたんが必要不可欠であるのは、この第三軍を指揮するハインツ・ランベルトも重々承知しておる。


「これは苦戦するであろうな……」


 騎士団長であるにもかかわらず弱気なつぶやきを漏らしてしまった。


 遠征には第一軍から第七軍のほぼ全軍が出陣している。全軍と言えば聞こえがいいが、戦闘経験も乏しくひよっこ騎士ばかりなのだ。

 まだモンスターと戦っている戦闘経験豊富な冒険者の方がマシだろう。


 それは先日の偵察部隊が、たった一人の冒険者に負けて逃げ帰ったことからも明白である。


「おい、卿らが戦った冒険者が居たのはこの先で間違いないのだな?」


 部下の偵察部隊隊長に声をかけると、その男は気まずそうな顔をして頷いた。


「はっ、この先であります。その冒険者は魔族も連れていました。魔王軍と何か関係があるのかもしれません」

「うむ、注意を怠るな。何かあったら報告せよ」

「はっ!」


 偵察部隊は同行させている。本来なら作戦失敗と不名誉な行動で罰を与えるところなのだが、今回は魔王軍侵攻という緊急事態故致し方ない。




 そのまま進軍し、国境付近にある渓谷の手前で野営することになった。

 10万もの大軍を支える食料は数日分しか用意しておらず、短期決戦を想定しているのか現地調達するのかといういい加減なものだが。



 野営地に構えた本陣に、この作戦の総指揮を執る皇位継承第一位カール・グスタフ・アーサヘイム殿下と、騎士団長の七人が揃った。


 本陣上座に座ったカール殿下が口を開く。


「此度の魔王軍侵攻に際し、卿ら勇猛果敢な帝国騎士団長が揃うのは心強く思うぞ」


「「「はっ!」」」


 騎士団長が一斉に平伏へいふくする。


「しかし、魔族は何を考えておるのやら。再び千年戦争のような地獄を繰り返してはならぬ。何としても魔王軍を鎮圧し帝国を守るのだ」


 殿下の発言に、第一軍銀獅子騎士団アーサー・エルトマン団長が顔を上げる。


「万事抜かりはありません! 帝都に住む魔族も強制収容所に隔離しました。奴らが反乱を起こさぬよう先手も打ってあります」


 これに第二軍銀虎騎士団ゲオルク・シュターデン団長も続く。


「そうですとも! 我ら一丸となって敵を殲滅してご覧に入れます。魔王軍を蹴散らしたのちは、一気呵成いっきかせいに魔王城まで進軍し、魔王もろとも魔族を根絶やしにしてやりましょう!」


 勇ましいのは良いことだが、勇気と無謀をはき違えてはいけない。

 誰も言わぬのなら私が苦言を呈さねばならないだろう。


「恐れながら殿下、此度の遠征は準備に時間が足りませぬ。数日しか持たぬ兵糧では、敵奥地に進軍するのは自殺行為に等しいでしょう。伸びすぎた戦線は、兵糧尽きて弱った我が軍に、包囲殲滅の危険があると愚考いたした次第であります」


 私の具申に反応したのは他の騎士団長だ。


「おい、ハインツ! この戦意を高揚せねばならぬ時に臆病風か!」

「ランベルト閣下は慎重であらせられますなぁ。しかし、戦時においては弱腰と見えてしまいますぞ」


 やはり反対意見だ。まあ予想していたことだが。

 それを殿下は手で制した。


「よい、我が国は長い間(いくさ)をしておらぬ。この先は未知の魔族領域である。細心の注意を払うのだ」


「「「はっ!」」」


 殿下の声で反対していた者も引き下がった。


 しかし不安はぬぐえない。何か予想外の大事件が起こりそうな予感がする。

 帝都宮殿に居座っていた白竜王ヴリドラ様が、先日から姿が見えぬのだ。あれほど北方領域や黒竜王エキドナ様のことを気にされていたというのに。


 何か、とんでもない事態になるのではと不安ばかりが膨らんでしまう。



 ◆ ◇ ◆



 アストリア王国軍(sideエゼルリード・ガウザー)



 魔王軍から宣戦布告状が届き、慌ただしく戦支度を整え軍を編成した。急ごしらえではあるが5万の兵を集めたのじゃ。

 そしてこの余、国王エゼルリード・ガウザー自ら出陣となった。


 百年前の決戦時は、勇者のもとに国々や人々が結集し、甚大な被害と屍の山を築きながら魔王を倒したのじゃ。

 しかしながら、今回は何も用意ができておらぬ。


「あの者……アキと申したか、冒険者パーティー閃光姫ライトニングプリンセスの面々は無事であろうか」


 不安が募る。重要クエストを申しつけ北方領域に向かわせてから、何も便りが無いのじゃ。


「あの者……面白い男であったな」


 ふと脳裏に彼の言葉が浮かぶ。


『アリアはとても美しい――豊満な胸はまるで神の奇跡のようだ!』

『リューオーでメツボーなんつって』


 この緊迫した事態だというのに、思わず笑みがこぼれてしまう。


「ふっ、やはり面白い男じゃ。恐れを知らぬのか。しかし――」


 彼は魔族や竜族を仲間にしていると聞く。異なる種族や強い女を惹き付ける稀有な性質でもあるのだろう。


「もし、勇者が誕生するのならば……」


 そうだ、もし勇者が、もし救世主が現れるのならば。強い魔族を……もしくは竜王でさえも……味方にする者なのかもしれぬな。

 それはかつてない勇者の降臨かもしれぬのだ。



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