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第67話 その頃グロスフォード辺境伯は2(sideアレクシス)

 その報告は、我がベッドの中で心地良い夢を見ようとかというタイミングでもたらされた。ドンドンとドアをノックする耳障りな音と共に。


 ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!


「マイロード、起きてくださいませ! 緊急事態です!」

「何事だ! 騒々しい!」


 イライラして誰かを殴りつけたい気持ちを押さえベッドから出る。


 ガチャ!


 ドアを開けると、深刻な顔をした執事が立っていた。


「た、大変です! 何者かによって奴隷密売所と収容施設が破壊されました。地下に収容しておりました奴隷は、全て連れ去られた模様です」


「な、な、なんだと!」


 有り得ない事態だ。あの施設には最強の部下を付けていたのだからな。


「騎士隊長はどうした! あの男は強いスキルを持っていたはずだ!」

「それが……どうやら一撃で倒されたようでして」

「ば、バカな……」

「拳で殴られ戦闘不能です。今、治療を受けておりますが」


 ガタッ!


 眩暈めまいがしてふらついた。


「ど、何処の世界に最強クラスの剣士を素手で倒す奴がおるのだ! 伝説級拳闘士でも現れたのか!」


 ガタガタガタガタ!


 廊下が騒がしい。また一人、部下が走って報告に来たようだ。

 今度は副騎士団長である。


「た、大変です! アレクシス様!」

「今度は何が起きた、騒々しい!」

「そ、それが……」


 言い難そうな顔をした部下が我の顔色をうかがっている。


「早く申せ!」


 オドオドしながら部下が口を開く。


「はっ、襲撃された施設に隣接する倉庫が炎上中です。中には密売で儲ける為に集めた麻薬が保管されていました。被害は末端価格で金貨100万枚以上になります」


「は…………?」

 ガタンッ!


 我は目の前が真っ暗になり、よろけて膝をついた。


「ば、バカな……」

 ガタッ、バタンッ!


 立ち上がろうにも足元がフニャフニャしておぼつかない。


「は、はは、ははは……わ、我の財産が……。ボロ儲けしようと大金をはたいて集めた麻薬が……。全て燃えてしまっただと……。は、破産だ! 一夜にして破産してしまった……」


 目が回る。まるで夢の中にいるようだ。とびきり悪い夢だがな。


「マイロード」

「アレクシス様」


 部下たちが何か話しかけているが、全く頭に入ってこない。


「あああ、悪夢だ……。こ、こんなはずでは……。我は上級貴族だ。莫大な富を手にし優雅で気品に満ち溢れた貴族であるはずなのに……。そこらの有象無象の平民とは違うのだ。何故、何故、何故だぁああああああああ!」


 ガシャァーン! ガタンッ! バリバリバリッ! バタンッ! ガッシャァァーン!


 手当たり次第に部屋の調度品を壁や床に投げつけ破壊する。いくら壊しても気が収まらない。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……。く、クソッ! 犯人は誰だ! もしや、あの冒険者なのか?」


 誰にともなく問いかけた我に、恐る恐る副騎士団長が口を開く。


「収容施設への攻撃には、恐ろしく破壊力のある大魔法が使われたようです。それも術者は二名いたそうで。これ程の魔力……おそらくS級冒険者、いや、勇者パーティークラスかと」


「なっ、有り得ん! あ奴らが勇者パーティークラスの強者だと申すのか! そんなはずはない! ぐっ、許さぬ! 許さぬぞ!」


 怒りではらわたが煮えくり返りそうになる。


 我に謁見した時は、地味な男と三人の少女といった弱そうなパーティーだと思ったのだ。まさか、これ程までの強さだったとは。


「全軍投入せよ! 出し惜しみは無しだ! 必ず奴らを生きたままひっ捕らえるのだぞ! 我が直々に拷問してやろう!」


「かしこまりました」


「そうだ、青髪の女は傷つけるなよ。無傷で我のところに連れてこい! 我の奴隷にし地下室にでも監禁してやる」


「はっ!」


 仰々しい敬礼をした副騎士隊長が走って行く。


「うひひひひッ、イレーネの娘……あの女が泣き叫びながら我に命乞いをするのが楽しみだ。ぐははははっ! がぁーっはっはっはっはっは!」


 そうだ、まだ終わった訳じゃない。金貨100万枚分の麻薬は燃え、施設は破壊され奴隷も失ってしまった。だが、まだ我が城には十分な金貨や宝石が有る。

 それを元手にいくらでもやり直してやる。


「そうだな、領民の税金を上げるとするか。今までが安過ぎたのだ。我の領地で住まわせてやっているのだ。平民どもは、もっと我に金を払うべきだな。平民は生かさず殺さずだ」


 我が損をするなど有り得ないのだ。損した分は領民から取り立てねばな。

 あまり騒ぎを大きくするのはマズい。王都に知れたら国王が介入するかもしれないのだ。

 迅速に事を収めなくては。



 カツン、カツン、カツン、カツン!


「きぃいいいいいいーっ!」


 ただでさえイライラしているというのに、更に我をイラつかせる金切り声が聞えてきた。騒ぎを聞きつけアマンダが起きたようだ。


「きぃーっ! 何が起きたのです。騒がしくて眠れませんわ!」


 カツン、カツンと、彼女が床の大理石を打ち鳴らす音ですら我をイラつかせる。


「そなたは部屋で休んでおれ」

「こんなに騒がしくては寝られませんわ! 何があったのです!?」

「何でもない」

「何でもないはずはないでしょう! 街は大騒ぎのようですわよ!」


 言えば余計に騒がしくなるが、言わない訳にもいかぬだろう。


「奴隷密売施設と倉庫が破壊されたのだ」

「は?」

「だから、あの冒険者どもが破壊したのだ!」

「な、なんですって!」

「やがてここも襲うのかもしれぬ。今、軍を動かしておるところだ」

「えっ、えええっ!」


 混乱した表情のアマンダは、貴族令嬢の気品さえ脱ぎ捨てたかのように取り乱す。


「きぃぃぃぃーっ! やっぱりイレーネの娘ですわね! もしかして……わたくしに仕返しする為に……。あ、ああぁ、ああああああぁあああぁぁあ! わたくしは悪くない! 泥棒猫のイレーネが悪いのですわ! わたくしは何も悪くないですわ! うっきぃいいいいいい!」


 アマンダの癇癪かんしゃくを我慢しながら、城に集結する兵士を見守る。これだけの兵がおるのだ。まさか数人の冒険者になど負けるはずがない。

 そう、負けるはずがないのだ。



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